死・・・そして
「まほろば」は艦橋後部のハッチを開けると零式桜花を収容した。格納庫にはすでに艦長の昇と副長の誠がいた。
格納庫に係留された零式桜花は千尋に話しかけた。
「千尋さん。降りてください。」
「どうするつもりだい?桜花さん。」
千尋は目を開けると、桜花に尋ねた。
「あなたに逢ってもらいたい人がいるのです。」
そう言うと桜花は零式桜花のハッチを開けた。零式桜花から伸びたはしごを下りると千尋の目の前にいた軍服の男が挨拶をした。
「『まほろば』艦長、敷島昇だ。君は、広瀬千尋君か。桜花から話は聞いている。」
「広瀬千尋、フリーライターです。」
千尋はぼさぼさに伸びた癖っ毛をかきながら、握手しようと手を差し出そうとしたが昇は手を出さず、かわりに銃口を千尋に向けた。
「君も桜花から聞いているだろう。君は俺たちの秘密の一端を知ってしまった。それを公表されることは我々にとってはまさしく脅威以外の何者でもない。桜花の言う通り、君には死んでもらう。」
「・・・覚悟は出来ています。艦長。」
千尋は目を閉じた。格納庫に乾いた音がした。千尋もその音を聞いたが不思議な事態が起こった。痛みをまるで感じなかったのだ。千尋は目を開けた。銃口から煙が出ていたが、音だけだった。昇は千尋に向け、空砲を撃ったのだった。
「どうして?」
千尋は昇に聞いた。
「君は、もう死んでいるんだ。千尋君。この「まほろば」に乗った時点で君はもう、普通の生活に戻れない。君には申し訳の無いことをした。せめてもの罪滅ぼしだ。君を我々の組織、M機関に迎えよう。そして、それが桜花の願いだ。」
昇がそう言った瞬間、虚空に画面が浮かんだ。桜花が顔を赤らめながら微笑んでいた。
「君は桜花に気に入られたな。そんな人間は数えられるほどしかいないぞ。」
昇は千尋を見て笑った。機械が人を好きになる。そんな人間以上に人間らしい桜花を千尋も好きだった。千尋は桜花に微笑んだ。
突如、格納庫に艦橋から連絡が入った。
「艦長、東京湾に以上な温度上昇を確認、敵性巨大生命体と思われます。しかも複数。」
「わかった。すぐ艦橋に行く。・・・君もついてくると良い。」
「俺も・・・ですか?」
千尋は自分自身を指差した。