決着のとき
オロチが海水面から姿を現した瞬間、「まほろば」の2基の主砲塔から光が放たれた。主砲弾と大気の摩擦で生じた光であった。オロチもまた、最大出力の光弾を発射した。光弾と「まほろば」の主砲弾はお互い狙い済ましたかのように交差した。
しかし、次の瞬間、オロチの渾身の力をこめて放たれた光弾は霧消した。主砲弾の威力がオロチの光弾の威力に勝り、光弾が拡散したのだ。オロチの目が、驚愕の色で染まった。だが、その時間は長くはなかった。一秒もかからず「まほろば」の3式徹甲弾がオロチを貫いた。機関砲とほぼ同じ早さで発射された主砲弾は131発に及んだ。オロチは断末魔の叫びを上げること無く、肉片と化して吹き飛んだ。
主砲弾の衝撃はオロチの上半身を肉塊にしただけでなく、オロチの下半身を浮き上げ、遠く離れた東京都庁まで吹き飛ばした。半身を吹き飛ばしたとはいえ、体長50mはある代物である。都庁ビルは衝撃によって崩れ落ちた。
衝撃は習志野駐屯地の地下司令部にも伝わった。職員が倒れ、デスクに乗せてあったものぱらぱらと落ちた。
「全員落ち着け!司令部はこの程度ではびくともしない。」
特殊戦術研究旅団長の山根は、周囲のスタッフに言い聞かせた。スタッフたちは自分たちのコンソールに向かって、事態の収拾にあたった。
そのころ、東京湾上空の「まほろば」艦橋では、主砲のあまりの威力に艦長の昇ですら驚いていた。
「これが51cmレールガンの威力か・・・先代の艦長もこの艦の性能に恐怖を覚えるのもうなずける。」
「しかし、これでも、出力は抑えめです。実際本気で放たれれば、さらなる威力になるでしょう。」
副長の誠が言った。
「そうだな。・・・恐ろしい力だが、ついにヤツを倒した。これを俺たちが人類の平和を守ることだけに・・・」
昇がその先を言おうとしたとき、桜花から通信が入った。
「どうした?桜花。」
桜花は思い詰まった表情をしていた。人工知能の桜花がそのような表情をすることを昇も誠も見たことが無かった。
「艦長、折り入って相談があるのです。先ほど救助した人を『まほろば』に乗せて欲しいのです。」
「あまり穏やかじゃないな。桜花。ことの顛末を聞かせてくれ。」
桜花は千尋と知り合ったこと、自分のエラーで、彼に「まほろば」の情報の一端を話してしまったことを話した。昇はため息をついた。
「私が至らないために、申し訳ありません。」
桜花はモニターを通して、昇に頭を下げた。昇は手を振った。
「仕方の無いことだ。桜花。彼を連れて来てくれ。話はそれからだ。」
「ありがとうございます。艦長。」
千尋を乗せた零式桜花は「まほろば」に向かって、飛んでいった。
そのころ、東京湾を哨戒中のP-3C対潜哨戒機が消息を絶った。さらに新たなるオロチが、東京に向かっていたのである。