プロローグ
この世界の昭和20年8月14日は我々の知る歴史とは少しだけ違う様相を見せていた。
「うん?なんだあの白いものは?」
太平洋上を北上するアメリカの機動部隊の前衛に駆逐艦「ミシシッピ」所属のゲイリー・フィンクス兵曹は海面上に白い大きな物体を見つけた。
望遠鏡でよくよく確認すると、どうやら艦船のようでブリッジのような構造物が見え、そのすぐ前には主砲とおぼしき大砲が据えられていたが彼に確認出来たのはそこまでだった。
正体不明の白い艦船が突如砲撃したのだ。
「海面上二時の方向に正体不明の艦船あり、武装している模様・・・」
伝声管を使って彼が言えたのはそれだけであった。
次の瞬間、三発の砲弾が一瞬にして機動部隊の輪形陣を突破し、主力の正規空母三隻の機関部に命中した。砲弾を受けた空母はたちまちのうちに火災を起こした。
「いったい・・・何が起きたんだ!!?」
上空を警戒していたF6Fヘルキャットのパイロット、クリス・マッケンジー大尉が燃え盛る母艦を見た。もう、彼の艦の命運は尽きていた。傾斜し、至る所で爆発が起きていた。だが、上空警戒していたパイロットは更に悲劇を目撃することになる。
次々と輪形陣を形成する艦が爆発し始めたのだ。
「あれは・・・魚雷!!?」
クリスが目を凝らすとかすかに薄白い航跡が見えていた。日本海軍特有の酸素魚雷だ。だが、一撃で巡洋艦や戦艦を爆沈させるほどの魚雷は見たことが無い。航跡をたどると白い戦艦のような艦が見えた。
「おのれ、ジャップ!編隊全機!ヤツを沈めるぞ!!」
そうは言ったが、所詮は上空警戒のための部隊。機銃弾しか持ち合わせていなかった。それでも艦橋を狙えば、行動不能に陥るかもしれない。彼はスロットルをしぼった。
彼の操るグラマン隊はたちまちのうちに白い戦艦にたどりついた。
「これが、船なのか・・・」
白い戦艦は彼の常識を遥かに超えた異様な形をしていた。
船体は白く、きれいなほどの流れる流線型をしていた。艦にあるはずの煙突も機銃もアンテナ類も見当たらず、正方形の突起物のようなものが甲板に整列していた。砲塔は前に一基だけ。かなりの巨砲だが口径はわからない。艦の後部には武装らしい武装は見当たらず、大きな推進部のようなものが存在した。もし彼に最先端の軍事知識があれば、「ロケットのようなもの」と言ったかもしれない。その両脇には同じような構造をしたフロートらしきものがつながっていた。いわゆる三胴艦だ。
上空から見た白い戦艦は感じで言うと「山」と言う文字で形容出来た。
そうして彼が確認出来たのはわずか一秒ほどの時間だった。謎の白い戦艦の正方形のような突起物が開いたと思うとロケットが彼の編隊に飛来して来た。
一瞬のうちに彼の編隊は火の玉と化した。
「うぉっ!!」
クリス機も被弾したが運が良かった。脱出する時間があったのだから。
彼は脱出すると、すぐに落下傘を開かせた。
彼の眼前に見えた光景は悪夢と言うに相応しいものだった。まだ、敵艦が発砲して、わずかな時間しか経っていない。だが、もはや機動部隊は全滅していた。空母、巡洋艦はゆっくり沈み始め、駆逐艦は木っ端みじんに爆発していたり、原形をとどめていても、大火災が発生しており、沈没も時間の問題だった。
眼下の物音に気づくと、白い戦艦は更にロケットを発射した。
「や、やめろぉぉぉ!!!」
彼の叫び空しく、一瞬、まばゆい光の後、彼のいた艦隊は消滅した。
白い戦艦の艦内で帽子を被った艦長と思われる人物が合掌し、目を伏せた。
「米軍の将兵には申し訳の無いことをした。」
「仕方ありません。我々の艦を見られては困りますから。しかし、戦局に間に合っていれば・・・」
傍らの副官が艦長に言った。
「いや、この『まほろば』はあってはならないものなのだ。・・・我々はとんでもないものを作り上げてしまった。」
「はい。米軍のパイロットが一人漂流しています。どうしますか。」
副官が言った。
「彼には申し訳ないがこの艦の中に入れることは出来ない。運が良ければ救出されるだろう。何、彼一人が証言したところで、我々の存在が理解出来ようはずが無い。これより基地に帰投する。急速潜航。深度400。」
白い戦艦は海に没するとその姿を消した。以後、その戦艦が現れることはなかった。
その後運良く一命を救われたクリスは各所で証言したが、誰もその非常識な話を理解出来るしようとする人物はいなかった。
いつしか、一種の怪奇現象として取り上げられるようになり、歴史の闇に埋もれていった。
そして、歴史は流れ60年後。新たな伝説が始まる・・・
戦艦「まほろば」スペック
全長:200メートル
全高:不明
機関:不明
最高速力:120ノット
武装:46cm砲 1門
対空、対艦ミサイル発射用VLS 142門(フロート含む)
20mm対空バルカン砲 12基
魚雷発射缶 20門(フロート含む)
最高可潜深度:1,500m