桜はお金を手に入れた。
「その娘は、仲間か?
まあとにかく助かった。
色々文句を言いたいこともあるけど」
女冒険者は笑う。
改めてみると、髪の毛はピンク色で白い肌の美人だ。胸はそこそこある。妙齢の美女だ。
毒でやられた少女の方は、まだ倒れたままだが、眠っているだけのようだ。
寝ている少女の方は、髪が青い。
胸がとても大きく、普通の呼吸をしているだけなのに、僅かに胸が揺れる。
その胸を、桜が一瞬、親の仇のように睨みつけた。しかし、一瞬で切り替えた。
「いえ、たぶん、そこの筋肉エルフがご迷惑おかけしたかと思います。
悪気はないので、許してください」
桜が軽く頭を下げた。
「いや、彼には本当に助けられた。
彼がいなければ、メイは死んでいただろう。
少しいたずら好きのようだけど。
彼は、私たちの恩人だ。
っと、すまない。
そういえば、あなたたちの名前すら聞いていなかったな。
私はミリー。
あなたに助けられたのは、メイだ。
よければ名前を聞かせてもらえないか?」
「我はメロス。
彼女は桜だ。
よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
桜も頭を下げる。
「我とあった時とは、だいぶ態度が違うな」
「あの時は、余裕が無かったから。
筋肉に圧倒されたんだよ」
「ははっ。
たしかにな。
体はエルフに見えないし」
ミリーが笑っていると、「んんっ」と声が聞こえる。
メイが目を覚ましたようだ。
「あれ、私?」
「起きたか、メイ。
彼が解毒剤をくれたんだ。
お前も礼を言った方がいい」
「あっ、そうなんですか。
本当にありがとうございます。
死んじゃうんじゃないかな、って痛みが、綺麗に消えました。
いやー、キラービーって本っ当に痛いですね」
ヘラっとメイが笑う。
「メイ、お礼が軽いぞ。
まったく。
ってそうだ、忘れていた。
とりあえず約束通り、有り金を全て差出そう。
命を救ってもらった恩が、この程度で返せるとは思わないが、とりあえず受け取ってほしい」
ミリーが懐から袋を取り出した。
その袋を開けると、金貨と銀貨、銅貨が入っている。
「えっ、有り金全部?」
「ああ、入り用だろう。
ほら、桜」
我は受け取った袋を、そのまま桜に受け渡す。
「えっ?
なんで私に?
それに、状況がいまいちわからないんだけど、これは私が受け取っていいの?」
桜は混乱している。
「ああ、好きにするといい。
我は我で、多少の金はある。
桜にやろう」
「ミリーさんも、いいんですか?」
「メロス殿のお金だ。
どうするかは彼の自由だよ。
それと、敬語は不要だ。
彼に接するように、私たちにも接してほしい」
「えっと、それじゃあ聞くけど、このお金を全部もらっちゃうと、ミリーさんは困らないの?」
ミリーは苦笑する。
「ああ、全ての財産を差し出したわけではないからな。
町の通行税は、メイに立て替えてもらうから、心配はないさ」
「うーん。追い剥ぎみたいな真似は、ね。
じゃあ、半分だけもらうよ」
「命の恩だ。
全額でも安いくらいなのだが」
「いいから、ね」
桜の目を見つめたミリーは、申し訳なさそうに半額を受け取った。
「ありがとう。
ああ……ところで、メロス殿の姿が時々霞むだが、幻惑魔法でも使っているのか?」
「えっ、魔法を使っている気配はないけど。
気のせいじゃない?」
メイが不思議そうに首を傾げた。
それを聞いて桜がクワッと目を見開いて、我を見る。
何か魔法を使っているようだ。
「ミリーさん、すごく目がいいね。
はぁ。いつも言ってるでしょ。
真面目な話をしている時にくらい、筋トレはやめなさい」
「己の筋肉を鍛え上げているだけだ。
それに、気がついていないんだから、問題なかろう」
ミリーとメイが不思議そうな顔をする。
「話が見えないのだが」
「ああ、ごめん。
そこの筋肉エルフは、スクワットしながら歩いてるんだよ。
速すぎて相当動体視力が良くないと、違和感すら感じられないけど」
ミリーとメイが一瞬固まる。
そして、笑う。
「面白いですね、桜さん。
そんなバカなことあるわけじゃないですか」
「なかなか面白い冗談だ」
冗談として、話を流した。
実際にスクワットをしているのだが、2人が気にしないならいいだろう。
「あっ、そうだ。
もしブォーンの街に向かってるなら、ご一緒しませんか?」
「そうだな、桜とメロスさえ良ければ、一緒にどうだ?」
ミリーとメイの申し出に、桜が困ったような顔をする。
「えっと、私たちって、ブォーンの街に向かってるの?」
「ああ、たぶんな」
「たぶん?」
「筋肉の多い方へ向かっていたんだ」
もちろん動物ではなく、人の筋肉の数が多い方へと向かっていた。
メイとミリーはじっと、我を見つめている。
「なあ、これはジョークなのか?」
「ごめん、間違いなく本気。
メロスってこういうエルフなの」
「そう、なんですか」
なんとも言えない沈黙が流れた。
不思議な時間だ。
「桜たちは、何をしに街に行くんだ?」
ミリーが話を変えた。
「ちょっと知りたいことがあって」
「異世界について詳しい学者を探している」
桜が元の世界に帰るために、その道の学者が必要だろう。
「異世界、ですか。
あっ、それなら、1人心当たりがありますよ」
メイが満面の笑みでいう。
「奴を紹介するのは無理だろう。
メイ、奴は依頼を受けた冒険者にしか会わない」
ミリーがたしなめた。
「あっ、そっか」
「その話詳しく聞かせてくれない?」
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