女冒険者たちが現れた。
桜は1年間、魔法の訓練をした。
そして、かねてから考えていたことを口に出す。
「ねえ、メロス。
そろそろ帰る方法を探しに行きたいんだけど」
「「「「「「「ああ、わかった。
では、桜の準備が出来次第、行こうか」」」」」」」」
桜は少しうんざりした。
メロスは、残像を残しながら筋トレをしている。
その状態で話を聞いているのだ。
そのせいで、あちこちから声が聞こえる。
そのうえドップラー効果まで起きて、めちゃくちゃ沢山の返事が聞こえた。
「あのさ、人がマジな話してくる時くらい、筋トレやめてくれない?
いちいち、残像残して。
私の目には、100人くらいのあんたに囲まれてるように見えるから。暑苦しいのよ」
スクワットをしているメロス、腕立てふせをやっているメロス、腹筋をやっているメロス等々。
筋トレの見本市みたいになっている。
そんなのがあるか知らないが。
「やれやれ。
しょうがない」
全てのメロスが1つになった。
ただ単に高速移動をやめただけで、すごいことをしたみたいに聞こえる。
「筋肉へ捧げる運動は、緩急が大事だと聖書に書いてあるのに」
「はぁ。
まあいいや。
一応、準備は終わったから、今すぐにでもいけるけど、いい?」
「ああ、いつでも準備はできている。
我が持っていくのは、この筋肉さえあればよい」
「そう、ならよかった。
行きましょう」
そういえばと、桜は思う。
メロスの宝物、彼曰く聖書はこのままでいいのだろうか。
一応、希少なものだろう、たぶん。
盗まれたりは、まあ、謎の第六感で感知しそうだな。
いいや、聞かなくて。
「さて、どうする?」
「ん、何が?」
「いや、ランニングかジョギングか、移動手段の話だ」
「うん。
その二択はおかしいと思う。
どちらも却下。
私じゃ追い付けないから」
人の町に向かって2人が歩いていると、悲鳴が聞こえた。
「何?」
桜が驚くと同時に、メロスは走っていた。
———女冒険者視点———
「キャーーーーーーーーー」
メイが痛みで叫ぶ。
キラービーの毒は凄まじい痛みだと聞くが、メイがあそこまで叫ぶなんて。
くっ。
まさか、キラービーの大群に襲われるとは。
女王がいるということか。
メイを庇いながらでは、ジリ貧だ。
なにより、毒をどうにかしないと、メイは死んでしまう。
薬が必要だ。だが、キラービーの毒は特殊な解毒剤が必要だったはず。
もちろん、そんなものの持ち合わせはない。
しかも、あの叫びで他の魔物も寄ってくる。
妹同然のパートナーが死ぬ。
嫌な汗はいくらでも出てくるが、打開策は全く浮かばない。
焦っていると目の前に、キラービーが針を剥き出して迫っていた。
やばい。
ドン。
視界内のキラービーが、全て地面に叩きつけられている。
なんだ、何が起きた?
「大丈夫か」
後ろから声が聞こえた。
振り向くと、顔の整った筋肉が喋った。
違う、エルフだ。
エルフってこんな筋肉だっけ。
屈んでメイを抱き起こし、様子を見ている。
そうだ、謎の筋肉エルフはこの際どうでもいい。
メイは、メイは大丈夫なのか。
「キラービーに刺されたか」
筋肉エルフが呟く。
「解毒剤を持っていないか、エルフ? 殿」
イントネーションがおかしくなったのは、わざとじゃない。
そんなことより、メイだ。
「持っていない」
「そんな」
もうダメだ。
ここから街までは数時間はかかる。
また叫んでいるメイに、私ができることは、ない。
「だが、この毒に効く薬草の群生地が、エルフの集落の近くにある。
少し待て、取ってこよう」
「間に合わない」
エルフの集落がこの辺にあるとは聞いたことがない。
どう考えても、もう間に合わない。
「ほら、これだ」
青々とした、変わった形の葉っぱがエルフの手のひらにあった。
「持っていたのか⁉︎
それなら始めから、出してくれていれば……。
そうか、金か、金ならいくらでも払うから、それをください」
きっと、金を要求するために焦らしたんだろう。
少しイラつくが、メイが助かればいい。
「金、か。
まあ一応もらうか。
桜も入り用だろうし。
それはともかく、これは君にあげるために持ってきたのだ、遠慮なく受け取るといい」
「感謝する」
慌てて薬草を受け取る。
「それで、どうすればいいんだ」
「乾燥させて、粉末を刺された場所に塗ればいい」
「思いっきり、採れたてみたいじゃないか⁉︎
私に乾燥させる魔法は使えない。
これでは……」
膝の力が抜ける。
メイは、助からない。
「そうか、ならば任せろ」
「そうか、エルフは魔法が得意だったな‼︎
頼む、これに魔法をかけてくれ」
「すまないが、魔法は使えない」
何を、何を言ってるんだ。
このエルフは、元から、メイを助けるつもりなんてなかったんだろう。
なんて性格の悪いエルフだ。
希望をみせて、絶望に落とす。
これが、これが、エルフか。
私の手から、薬草を落ちた。
————-メロス視点—————
取ってきた薬草を女冒険者は、地面に落としてしまった。
薬草を拾って、何万回か振る。
よし乾燥した。
そして、粉砕して粉にする。
これでいい。
あとは、少し水を混ぜて、患部に塗るだけだ。
ちょっとエルフの森の、綺麗な水が湧いている所まで行った。そして、少しだけ水を混ぜて練る。よしできた。
そして、倒れて悲鳴をあげている少女の所に戻った。
刺された場所は、首筋だ。
なぜか、女冒険者は力が抜けているようだから、我が塗るか。
「えっ?
薬草が、塗り藥になった?」
「すまないが、少し触れるぞ」
粉末を塗り込んでやると、倒れて叫んでいた少女は、静かになった。
顔も安らかになっていく。
「はあ、やっと追いついた。
私も相当速くなったんだけどね。
まだまだ追い付けないや」
桜が追いついた。
メロスのやったこと。
・(物理的に)分身の術
・(物理的に)瞬間移動
・(物理的に)薬草召喚
・(物理的に)薬作成