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エルフは筋トレ本を拾った。 →聖書として崇めた。→筋力が上がった。  作者: 青桐
プロローグ

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2/26

エルフは勇者を鍛えた。

説明回です。

さらっとお読みください。


三人称風から、メロスの1人称に視点変更しました。(2018/6/26)

「私は、海堂桜。

あなたは?」


黒髪の少女は、そう名乗った。


「メロスだ」


「走り出しそうな名前ね」


意味がわからない。


「?」


「ごめん、続けて?」


「一応、エルフだ」


魔法は使えないがな。


「一応? まあいいや、私は人間。

こんな自己紹介したのは始めてだけど」


はにかむように桜は笑った。


「ハム」


「ハム?」


「すまん、噛んだ。

考えて見ると、誰かと話すのは、80年ぶりくらいだからな。

あまり舌が回らないみたいだ」


少し、舌の筋肉をほぐすか。

舌をぐるぐる回した。0.001秒で1万回ほど。

桜は、この無作法の行為をスルーしてくれた。うん、できたお嬢ちゃんだ。


「ぼっちなんだ、可哀想。

でさ、違ったらいいなぁ、って思いながら聞くんだけど、もしかして異世界、ここ?」


桜が不安そうな顔で聞いてくる。

異世界、か。

そういえば、だいぶ昔に来たドワーフの商人が何か言っていた気がする。

いまいち思い出せないな。

しょうがない。スクワットでもして、脳を活性化させるか。

2万回ほどスクワットしたところで、思い出した。


「そういえば百数年前に、旅の商人がそんな話をしてくれたな。

与太話かと思っていたが、あながち嘘ではなかったのかもしれん、

異界から来た者を、勇者と呼んでいるらしいが、桜もそうなのか?」


メロスは桜を観察する。

海堂桜は、腰近くまである綺麗な黒髪をした美人だ。

エルフの中に入っても負けないほど、顔が整っている。

胸は、男エルフとどっこいどっこいというところだが。


「何故かムカつくんだけど、失礼なことを思っていない?」


「なんと、それはエルフに対する侮辱か?」


もっとも美しい種族と呼ばれる、エルフと同列に見て、怒りだすとは。


「はっ?」


桜が変な顔をした。


「エルフと同等の胸部だと思っただけだぞ」


「私の胸を平坦って言ってんなら、地獄を見せるよ?」


桜が袖をまくって戦闘準備を始めた。


「気にしているのか?」


「当然でしょ」


「いい心がけだ」


本当に素晴らしい。

最大の賛辞を送ったのに、桜は怪訝な顔で見てきた。


「やっぱり喧嘩売ってる?」


なぜか誤解を生んでいるようだ。

やはり、筋肉以外のコミュニケーションは、齟齬を発生させるのか。

この世から争いがなくならないのは、筋肉が足りないせいだな。

っと、この世を憂いている場合じゃないか。

しっかり説明しなければ。


「確かに、桜には胸筋が足りていない。

だが安心しろ、しっかり聖書の23巻の教えを実行すれば、胸筋はお前のものとなる」


それで彼女の小さかった胸が、大きくなる。

彼女のコンプレックスを消すことができるなんて、さすが聖書だな。


「いや、胸筋に興味はないけど。

それに、聖書?」


「そうだ、神殿の中に来るといい」


桜の照れ隠しか、それとも聖書を見ていないから、半信半疑なのかは知らないが、聖書さえ見れば、態度も変わるだろう。


神殿の中へ入っていく。

桜は少し躊躇したが、しっかり後をついてきてくれた。

壁一面に飾った、光り輝く『週刊 筋肉を作ろう』(聖書)を見れば、聖書を信じる気持ちが湧くだろう。


「あれが……聖書?」


どうやらあまりの神々しさに、言葉が詰まったようだ。

気持ちはわかる。

いつのまにか徐々に光り始めた聖書は、拾った頃よりも神々しさがアップしているのからな。

我が筋肉のように。


「ああ、あの神以外には描けない、素晴らしい絵画を見ろ。偉大さを感じるだろう?」


むっ。

桜が怪訝そうな顔をしている。

どうしたと言うのか。


「まさか愚弟の持っていたポディビルダー本が、聖書にされているとはね。

まあ、あんな光ってなかったとは思うけど」


聞き逃せない呟きが聞こえた。


「なんと、あなたは聖書の持ち主の姉君か」


ということは、桜は100歳以上なのか。

異世界人は見た目によらないものだ。

まあ、そんなことはどうでもいい。

大事なのは、聖書を原典の言葉で読める者が現れたことだ。


「鰯の頭も信心からって、鰯の頭にもほどがあると思うよ。

……あとついでに、帰ったらあいつ〆ないとね。私がこんな本盗むわけないでしょうに。まったく」


桜の呟きから察するに、聖書が消えたことを桜が盗んだと、弟君が疑ってしまったようだ。

たしかに、これだけ素晴らしいものだ。

盗難に遭うこともありえる。

まあいつか会えたら、弟君に謝罪しようではないか。

それよりも、音読会を始めなければ。


「それでは、これらの聖書を音読する。

読み方が間違っていたら教えてくれ」


「ん? ……それでは? ごめん、そんな話の流れだったっけ?

ていうか、そこにある本全部?

冗談でしょ、いやだよ。言葉通じるんだから、自分で読んでよ」


何を言っているんだ、桜は。


「この文字は読めんのだ。筋肉で大体の意味は捉えたつもりだが、正確に知りたい。

では、まずは……」


————————————


「ねぇ、いい加減にしてくれない?」


一言一句違っていないらしい朗読が、5冊目に突入しそうなところで、桜が怒りの声を上げてきた。


「ぬっ?」


まさか、大きく間違って読んでしまって部分があったのだろうか。


「流されるまま、あんたの朗読を聞いてたけど、私は今の状況すら把握できてないの。

せめて現状の確認くらいさせてよ」


そうか、そういえばそうだったな。

ではわかりやすく話して、すぐに音読会を再開しよう。


「むっ。

これはすまないことをした。

ここはエルフの治める森の一部。

瘴気の森と呼ばれている。

おそらく桜は、異界から迷い込んだ、勇者と呼ばれる存在だ。

では、続きを読み上げるぞ。

違う部分があれば教えてくれ」


早口で、状況説明をした。


「なに普通に朗読を始めようとしてるの?

もう聞かないよ」


驚愕した。

なぜだ。


「なんで、信じられない、って顔してんの?」


「桜もこの聖書の信者だろう。

同じ聖書を追求する者同士、正しい教えを知りたいという気持ちは、理解してくれるはずだ」


「それ聖書じゃないし。

あと、人を変な宗教に入れないで‼︎」


「そうか、では聖書の素晴らしさが理解できない、か。

弟君には理解できているというのに。

嘆かわしいことだ」


首を振る。


「弟も信者じゃないし。

それと今更だけど、なんでその本光ってんの?」


「聖書だからだ」


何を当然なことを。

桜がなぜか面倒くさそうな顔をした。


「もしかして、魔法?

魔法で光ってんの?」


「聖書が光るのは、神の御力だ。

我が筋肉があるのと同じように、な」


「何言ってるか分からないや。

一応聞くけど、私って元いた世界に帰れる?」


「知らないな」


我が筋肉も知らないとピクピクしている。


「やっぱり、そっか。

なら、私に魔法を教えてくれない?

あるんでしょ、魔法。

そしたら、その本の朗読に付き合ってあげてもいいよ」


桜は満面の笑みを見せた。


「よかろう。魔法を教えてやる」


別に減るものでもないしな。


「お願いします」


「ああ。まずは筋トレから始めよう。腕立て10回だ」


「えっ?」


桜が、ぽかんと口を開けた。


「何事も体力がモノを言う。我も隣でやってやる。さあ始めるぞ」


桜が渋々といった感じで腕立てをする。


「よし、よくやった。次は腹筋10回」

「はい」

「次はスクワット10回」

「はい」

「背筋10回」

「……はい」

「それではもう一度腕立てから始めよう」

「…………はい」



———————————————-

「巫山戯んな。私は新兵か⁉︎

魔法はどうした」

「どうした? 根をあげるにはまだ早いぞ」

「休みなしで100セットつきあったんだから、忍耐強いほうよ。ていうか、こんなに筋トレできる自分の体力にもビックリだわ。私、どうした?

改造でもされたの?

信じられないくらい、体力がついてるんだけど」

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