桜はエルフを信用している。
桜とサマーは我のことを忘れて、風呂に行ったまま戻ってこなかった。盛り上がっていたようで何よりだ。
我は聖書の教えを繰り返し、素晴らしい時間を過ごせた。
そして、日が昇ってから数時間後、「ミリーメイが来たわ」と言いながら、サマーと桜が部屋に入ってきた。
テーブルの上では、未だに聖書が光っている。
「ごめんなさいね。
桜ちゃんに余計なことを言っちゃって、慰めてたら、あなたのことを忘れてたわ」
「我のことは気にしないでいい。
有意義な時間を過ごしていたからな。
それにどうやら、桜が世話になったようだ。
詫びるべきは我の方だろう」
桜は少し落ち込んでいるように見える。
あまり寝れていないようだ。
筋肉の張りが悪い。
「ごめん、メロス」
桜が呟いた。
「サマーにも言ったが、気にすることはない。
我は、神への祈りを行なっていたのだから、有意義な時間を過ごしたと言えるだろう。
我のことよりも、自分のことを気にすべきだ」
察するに、サマーに何かを聞かされたか。
よほどショックなことだったのだろう。
だがまあ、大抵のことは、我が筋肉で解決できるはずだ。
なんであれ、桜が現れたのは、聖書の導きだと思っている。
ならば、桜を望む場所に返すのが、筋肉の道というものだ。
そんなことを考えていると、ノックの音が聞こえた。
「サマーさん、ミリーとメイです」
「ええ、わかっているわ。
少し待ってくれるかしら?」
そう言って扉の前にサマーは行く。
そして、開ける前に我と桜を見た。
魔法を発動した気配がする。これは、音を遮断しているのか。
「迷宮結晶のことは秘密にしてね。
下手に口に出すと、面倒ごとになりそうだから、依頼内容はぼかして伝えるわ。
その辺のことは私に全部任せてくれる?」
「わかった」「わかりました」
我らが頷いたのを確認してから、ドアを開けた。
「「おはよう」ございます」
「「「おはよう」」」
「さて、いつまでも立っていても変ね。
どうぞ座って」
サマーがソファを増やし、全員座った。
「ミリー、メイ。
実は、ちょっと予定が変わって、依頼内容を変更したいんだけど、話を聞いてくれるかしら?」
ミリーとメイが目で一瞬会話をした。
言葉にはしていないが、眼球もまた筋肉の運動だ。読み取ることは造作無い。
『厄介なことになりそうだ』
『でも、お話は聞きましょうよ。桜さんやメロスさんに関わることだと思うし』
『わかった、詳しいことはメイに任す。桜とメロス殿が危険そうなら、潰す方向で頼む』
『うん』
『あと、テーブルに置いてある、あの光り輝く本はなんだ?
テカテカの男が微笑みかけてる絵画なんて、なに考えてるんだ?』
『そんなこと、今はどうでもいいでしょ。サマーさんの研究資料に決まってるんだから、下手に突っ込まない方がいいよ、絶対』
と考えているようだ。
ミリーには、あとで読み聞かせてあげよう。興味があるようだからな。
「お話は聞きますが、承諾できるかはわからないです」
メイが困ったように笑った。
「実は、迷宮の花が必要になったの」
面倒ごとを避けるために、迷宮結晶とやらを探すことは、伏せた方が良いのだろう。
偽りの依頼をサマーは口にした。
「無理ですね。
迷宮の花が手に入るほど深く、迷宮に入れることはできません。
私たちには荷が重すぎます」
メイが依頼内容の変更を、驚きながら拒否する。
それを聞いて、サマーがニンマリと笑った。
「そう、ならいいわ。
違約金を払うから、ギルドに通達しておいてくれるかしら?」
サマーが布袋を出し、金貨を積み上げていく。
ずいぶんお金を持っているな。
まあ、どうでもいいが。
「待ってください。
桜さんたちは、受けるつもりなんですか?」
「うん、必要だからね」
「無理ですよ。
ランクが足りませんし、危険です」
「ランクの方は大丈夫よ。
もうギルドに許可は取っているもの」
サマーが、ひらりと紙を出した。
そこには、『メロスと桜をランク5にする』と書いてあった。
サマーはすごいな。
ボランやシエラができなかった、ランクアップをできるなんて。
どうやら、冒険者ギルドに相当な影響力を持っているようだ。
「私たちに話す前から、決めていたんですね。
でも、桜さんは本当にいいんですか?
正直、桜さんがどれだけ危険な所に行こうとしているのか、わかっているようには見えません」
メイがサマーを睨むように言った。
「メイ、ちょっと失礼だぞ。
すまない桜、つい心配して出た言葉だ。気を悪くしないでほしい。
ただ、メイの言っていることは間違ってないだろう。
よく考えて依頼は受けるべきだ」
ミリーがメイに声をかけながらも、桜にアドバイスをする。
なぜ我には言わないのか。
まあ、我にはいらぬ心配ではあるが……。
「昨日見たでしょ。魔法を使えば、結構強いんだよ、私。
それに、メロスいれば、大抵の危険はどうにかなるんじゃないかな。
まあ、どこにどう行くのかも聞いてないけどね」
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今更ながら、この小説はスマホで執筆しています。
そのため、誤字脱字が多いです。
寛大な気持ちでお読みいただけると、幸いです。
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