桜は呪いをかけた。
美女と美少女が服を脱ぎはじめた。
もちろんそこには、筋肉エルフはいない。
脱衣所の中の話だ。
「サマーさんって凄い綺麗ですよね」
「ありがとう。
桜ちゃんもすごく綺麗よ」
「サマーさんほどスタイルがよければなぁ」
桜がブラジャーに包まれた巨大なものに、羨望の眼差しを向けた。
すると、サマーは少し哀れむ視線を、桜の胸部に返す。
「胸はちょっと残念だけど。
それはそれで妖精みたいで、神秘的よ。男の人が放っておかないでしょう?」
「妖精……」
桜の脳裏に筋肉エルフが浮かぶ。
なかったことにする。
「あの、サマーさんも異世界出身、なんですよね?」
「ええ、そうよ。
あなたの世界と同じか、すごく近い世界かもしれないわ。
あっ、そういえばいい忘れてたけど、私の本名は、高倉奈津って言うのよ。
なつだからサマー。
安直な偽名でしょ?
呼び方はサマーでお願いね」
サマーがブラジャーを外した。
揺れる。
そのプリンのような揺れに桜の目が釘付けになった。
「おっ、おっぱいが、大きい。
しかも、綺麗」
「聞いてる?」
サマーが桜を見ると、明らかに胸を凝視していた。
「もう、こんなの肩が凝るだけよ。
あと、男の人はみんな見てくるし。
メロスも凝視してもの」
ちょっと自慢気だが、事実を話す。
すると、桜が自意識過剰だと、鼻で笑った。
「メロスだけは、大胸筋を見てたんだと思います。
間違いなく」
そんなことを言い合いながら、風呂場のドアをサマーが開ける。
桜の目に、老舗温泉旅館の大浴場のような光景が飛び込んできた。
「あの、この研究所って、何人が務めているんですか?」
「私1人よ」
「広すぎませんか?」
「温泉、好きなのよ。
温泉の多い国に生まれたから」
「あの、やっぱり、サマーさんって、私と同じ日本人ですか?」
「残念ね。
10%くらいの確率で同郷かなぁ、って考えてたけど、やっぱり違ったのね。
……ところで、私が教えた本名、聞いてた?」
サマーはシャワーを浴びていても、桜からの呪いのこもった視線を感じた。
サマーの肌は、水を弾き、肌の若々しさを示している。
そして滴る水が、うなじを伝い、胸の頂に行くことなく、小さな水滴がいくつも胸の上に残った。
「おっぱいに、水滴がたくさん……⁉︎
私のは、滝のように流れ落ちるだけなのに」
桜が自分の胸とサマーのを比べてため息をついた。
あの半分でもいいから、欲しい。
もしその願いが叶わないなら、この世の全ての乳よ、しぼんでしまえ。
いや、大きいものは垂れるのが自然のルール。
さっさと垂れてしまえ。
その綺麗な乳に悲しい別れを与え給え‼︎
とりあえず目の前の、スイカのような大きな胸に、呪詛を送り続ける。
いくらなんでも、本当に魔法を発動することはなかったが。
そんなことをしながら、体を流すと、2人で温泉の中へ入った。
「異世界とこの世界の間には、狭間の空間があるの。
それは間違いないわ。
その狭間の空間は、未知のエネルギーに覆われている。
異界から来た生き物や物が、変質するのは、その影響よ。
迷宮は、その未知のエネルギーが微かに溢れて出している場所なの。
たぶん、桜ちゃんとメロスの話から、瘴気の森というのは、迷宮の卵ね。
あと1000年くらいあれば、迷宮になるわ。
そして当然、そんな所で100年も過ごせば、変質する可能性は高い。
迷宮を長年探索し続けていると、若返ったり、特殊な力に目覚めたりするのだけど、メロスにも同じことが起きたのでしょうね。
普通の冒険者には、ありえないほど迷宮のエネルギーを浴び続けてたってことでしょうから」
「やっぱり、鍛えてるだけであんなことにはならないですよね?
瞬間移動とか平然としますし」
「たぶん、勇者や魔物、聖遺物が持つ特殊能力ね」
「私も、特殊能力に目覚める可能性はおるんですか?」
「桜ちゃんも、すでに、特殊能力を持っているわよ。
少なくても、1つは」
「えっ?」
「言葉、通じるでしょ?
言葉に込められた僅かな感情から、知っている言葉に変換する。
意思あるものが、大抵手に入れる能力よ。
まあ、それ以外の能力に目覚めるかは運でしょうけど、たぶん、桜ちゃんは目覚めるはずよ。
狭間の空間にいた時間を考えるとね」
「サマーさんの、空間魔法も特殊能力なんですか?」
「違うわ。
空間魔法は緻密な計算と正確な技術を、基盤に組み上げる技術よ。
その計算はリアルタイムですることになるけどね。
だから、私以外に使うことのできる人がいないだけ。
桜ちゃんでも難しそうね。
エルフと同じで、感覚で魔法を使ってそうだもの」
一方そのころ、メロスは軽くランニングをしていた。
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