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転生機関の天使たちは、楽園を知らない社畜です  作者: えりぼたん
第一章.転生機関
6/19

天使の降臨は集合住宅で


 「ふふっ、私も転生して新たな人生を歩むべきなのかもしれませんね……」

 「黄昏れている暇があったら片付け手伝って下さい」


 窓から差し込む夕日を遠い目で見ているエルリアさんは、まるで完成した一枚の絵画のような芸術性がある。


 やってることは単なるサボりだけどね。


 「そう言ってやるなよ神田。今日はああなってもしょうがないって」

 「態度悪悪転生者のオンパレ~ド~」

 「皆優しいのかあまいのか……」


 ザルドキエたちの意見に執行部の天使たちは賛同しているのか、エルリアさんに文句も言わずテキパキと片付けを続けている。


 でも初日の俺でさえエルリアさん可哀想とか思っちゃったからなぁ……。


 これを毎日続けているのだとしたら、案外あの人はとんでもない頑張り屋さんなのかもしれない。


 「楠~、傷心の私に何か捧げてもいいのですよ」

 「今の俺の評価は本物の頑張り屋さんに失礼だな……一瞬でもあんな人を頑張り屋などと……!」

 「いやあなたの方が数倍失礼ですからね?」


 エルリアさんの突っ込みを華麗にスルーして後片付けの作業に戻る。

 

 主に執行部の部屋と転生面接室の片付けになるのだが、予想通りというか、後者の方が時間がかかるらしい。

 

 次から次に入ってくる転生候補者の対応にてんやわんやで、逐一周辺の整理をする余裕すら無かった。

 それは面接室が荒れて物で溢れていくことと同意で、床に書類やら天使の羽やらが散乱し、溜まっていった。


 加えてマナ・シリーズにより昼休みも返上。


 ここまで忙しい一日はここ最近無かったようで、定時もとっくに過ぎている。

 皆の顔にも少し疲労の色が出始めていた。


 「く~、さすがに疲れたっすねー!」

 「嘘だろ!?お前が疲れるとか、新たな天地創造の始まりか!?」

 「ひどいっすねー!私だって面接中働いてたんすよ?」

 「そういえばエルリアさんとミーチャさん以外は、あの時何してたの?」


 転生時、エルリアさんは面接を。

 ミーチャさんは転生者の要望を記録していたが、他の三人は姿が見えなかった。


 ジョイフィルは途中で飛んでいっちゃったし、カルエルに至っては面接室にすら入ってなかったような……。


 ちゃんと働いていたのか?


 「いくら私でも職務放棄はしないって……」

 「あれ、顔に出てた?」

 「私だってお仕事してたよ~。部屋に誰もいないと、電話とかお客さんとか来たとき困るでしょ~?」

 「つまり留守番?」

 「いつもこんな調子だし、部屋整理も兼ねて任せてんだよ」


 カルエルの落ち着いた性格なら転生者の相手をさせてもいいんじゃないか?

 険悪な雰囲気を緩和できたりしそうだけど……。


 「カルエルさんは素直ですから。それが原因で転生候補者を“妄想男”と呼んだことがありまして……」

 「逆に険悪な雰囲気を作り出していたか……」


 ジョイフィルは面接室の天井に上がって光の調節やそこに保管してある演出道具の出し入れをしていたらしい。


 あの星々の煌めきは魔法だけど、面接室に漂う霧スモークだったりするから、案外忙しいのだとか。


 「そして私は最重要な役割と言っても過言ではない、転生候補者のステータスチェックをしているのだ!」

 「ちょっと待ちなさい!この仕事は私がいて初めて成り立つものでしょう?よって私が最重要……」

 「ステータスチェックって何?」

 「課長の扱い方がこれほど早く上達するとは……恐ろしい子っす……」


 ジョイフィルから恐れのような敬いのような目を向けられた。

 だってエルリアさんに構ってると話が進まないんだもん。

 

 というか上達って……俺は別にエルリアさんへのスルースキルを極めようだなんて思ってないからね?


 それに純粋にザルドキエの話の続きも気になる。


 「私たち天使にはそれぞれ固有の能力があってな?私の場合は“対象の状態を把握できる”能力だから、転生候補者の精神状態を見てるんだよ」

 「精神状態が定まっていない魂は危険なのです。だから最重要という評価はあながち間違いではありません」

 「嬉しいこと言ってくれるなぁ、この~!」

 「ミーチャまでぇ!?私も頑張ってるのに~!」


 ザルドキエは喜び、ミーチャさんは彼女に絡まれてちょっと苦しそう。

 エルリアさんが泣いて他の二人が慰めて……。


 誰も片付けしてないけどいいのか?


 それにしても固有の能力かぁ。

 この機関の天使は皆何かしら持ってるとなると、食堂にいた小天使も、プリティな見た目に反して凄い能力を持っていたりする訳だ。


 ……強くて可愛いって最強だな。


 「そうだ。ねぇ、因みに皆はどんな能力を……」

 「もういいですよ!皆して私を虐めて……今日は解散!解散です!」

 「はいはい。あとちょっとお片付けを頑張りまちょうね~」


 聞くタイミングを逃してしまった。


 まあ今聞かなくても、これからの長くなるであろう付き合いをしていれば機会はあるでしょ。


 とにかく、早いとこ片付けと明日の準備を終わらせてしまおう。

 ザルドキエと喧嘩を始めたエルリアさんも止めなくちゃならないしね。


 「あとエルリアさん、今割った壺は二十万したってヴァルキリーさんが自慢してましたよ」














◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「お疲れ様で~す……」

 「執行部の皆さんですか、本日も遅くまでご苦労様でした!」


 エルリアさんが無駄に増やした仕事に関しては明日に持ち越しとなったが、何とか片付けを終わらせることが出来た。


 一階の大広間には数人の天使が残っているだけ。

 受付と警備員の天使も残っているけど、何時まで勤務するつもりなんだろうか?


 あと何で警備員が小天使なの?

 小さな警棒持って敬礼する姿は愛くるしいことこの上ないけど、こんな時間まで働かせるなんて何考えているんだ。


 「何をしているのです楠。早く帰りますよ?」


 そうだ。

 小天使ちゃんのシフトを考えた奴への怒りで忘れてたけど、今日からエルリアさんのお宅にお邪魔することになったんだった。


 「エルリアさんはどこに住んでるんですか?この機関併設の宿舎とか?」

 「恐ろしいこと言わないで下さい!何故私が勤務先で寝泊まりせねばならないのです!私は社畜ではありませんよ!」

 「いや十分社畜だと思いますけど……」


 名前を社畜に改名してもいいレベルで。


 「全く……。私たち天使は基本天界で暮らしていますが、この機関に勤める天使は例外で異なる場所で生活しています」

 「神田さんにも大変馴染みのある場所ですよ?」

 「え……まさか、地球!?」


 つい大声を出してしまった。周りにいた天使の注目を集めてしまい、少し恥ずかしい……。


 というかまた地球かよ!

 

 この機関地球との繋がり深すぎじゃない?

 転生者とかいるから関わり無しってことはないだろうけど、変な接点が多すぎるだろ!


 「人間との接触は厳禁とか言ってなかった?」

 「天使としてはね?正体隠して人間として振る舞えば何の問題も無いさ」

 「翼隠して羽衣以外の服装になれば、まずばれないっすよ」


 そんなものなの?

 地球の人口の半分が本当は天使だったりしないよね?


 そんな冗談(冗談だよな?)を考えていると、エルリアさんにガッシリと肩を摑まれた。


 そのまま機関の玄関でもある両開きの大扉の前まで、押されるがままで連れて行かれ……って、え?なんで?


 「そういう訳で、あなたはこれから私と共に下界へと下ります。心の準備はいいですね」

 「は?いきなり何を……」


 俺が言い終わる前に大扉を解放し、一歩先へ踏み出した。


 



 足のつかない空中へと。






 「じゃあ課長に神田くん、また明日っすー」

 「ばいば~い」

 「エルリアー、ちゃんと神田の世話しろよー」

 「世話どころか今殺されかけてるんですけどぉぉーー!!?」




 

 

 

 






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「……はい、到着しましたよ」

 「天国にですか?」

 「天国から下界にですね」


 割と真面目に死ぬかと思った……死んでるとほぼ同義なんだけどさ。


 いやだって、扉開けたら空中ですなんて、誰が予想できるよ?


 天使は皆毎日スカイダイビングして帰宅してる訳?

 どんだけアクロバティックな人生満喫してんだ。翼が生えてるからって大概にしろよ!?


 「ふむ……混乱しているようですね。私は部屋を整理してきますから、楠の介護を頼みますよ。ミーチャ」

 「はい、任せて下さい」


 そう言い付けると、エルリアさんは扉をガチャリと閉めきってしまった。


 ん?

 なんでミーチャさんがここにいるの?

 まずここはどこだ?地球のどこだ?天界に近いどこかの山の山頂か?


 「神田さん?大丈夫ですか?」

 「う、あぁ……はい、何とか。少し酔いましたが、大丈夫です……。何故ミーチャさんもここに?」

 「エルリア様一人に全てをお任せするのも申し訳なくて……ちょっとしたお手伝いです」


 自分は拒否してしまったので……、と言葉通り申し訳なさそうに頬をかくミーチャさん。

 事情はよく分からないが、エルリアさんを想って付いてきたらしい。


 「えと、遠くの景色を眺めてはいかがです?少しは酔いも治まるかもしれませんし……」

 「そうですね、アドバイスありがとうございます……」

 

 ここまで必死に心配してくれるとは。

 本当に優しくて真面目な子だなぁ……。


 コンクリートで出来た柵に頬杖を付きながら、日没時の涼しい風で気持ちの悪い酔いを覚ましていく。


 遠くに桜の並木道が見え、夕日に照らされた川の煌めきが美しい。

 あの曲がりくねった並木道は俺の家の近所のものとよく似ている。懐かしい感じがするなぁ……。


 あ、あの青色の電波塔も近所にあったものとそっくりだなぁ。

 その隣に建つ学校なんて、俺の通ってた高校にうり二つだ。


 いや~……。


 「ここ俺の家の近所じゃね?」


 というか俺の住んでる街だよここ!?

 てことは、ここは近所のマンションか!?


 「わぁ、面白い偶然ですね!」

 「世界人口の半分が天使ってのも、冗談にならないぞこれ……」


 天使ってこんなに身近な存在でいいの?

 もっと神聖で、祈りを捧げた時に降臨するとか、そんなイメージを抱いていたけど……。


 「私もこの近くで生活しているのですが、いいところですね。朝ごみ捨てに行くときのゴミ収集のおじいさんや、近所のおばあさんとも仲良くなれました」

 「人より地域の人付き合いが上手なのか……」


 天使のイメージがどんどんと崩れていく……。


 で、でもまあ人間と親しくすることは悪いことじゃないし、良いことじゃないか。

 

 ……今ミーチャさんの話を全て聞いてしまうと“天使の存在とは?”みたいな哲学思考に陥りそうだ。


 エルリアさん早くして!


 「そ、そういえばエルリアさん遅いですね?少し様子を伺った方が……」

 「あとその日のスーパーでレジ回りが早いのは……と、そうですね。エルリア様、お邪魔してもよろしいでしょうか?」


 既に俺よりも人間らしい生活をしているであろうミーチャさんの話を中断する。


 扉に鍵はかかっていなかったようで、彼女にしては少し大きめの声で、中のエルリアさんに声をかけた。


 『……』

 「……エルリア様、どうされました?私です、ミーチャですよ?入ってもよろしいでしょうか?」

 

 変だな。

 エルリアさんから一切の返答がない。


 ミーチャさんも狼狽えているようで、怪訝な顔付きで俺をちらちらと見てくる。


 「まさか、疲労で倒れたりしてるんじゃ……!?」

 「っ、エルリア様!上がりますよ!神田さんも来て下さい!」

 「はい!」


 大人しい彼女からは想像出来ない力で玄関の扉を乱暴に開き、そのまま土足で室内へと駆け込む。


 俺も冷静ではいられないんだけどね……!

 

 玄関に入ってすぐ右がリビングのようで、そちらの灯りがついていた。


 「エルリア(さん)!?」


 そこにはエルリアさんの変わり果てた姿があった……。













 「何で酒飲んでるんですか!!?」

 「あ~、二人とも勝手に入って来ましたね~。ふほーしんにゅーです~!」

 「しかももう酔っぱらってるし……!」


 床に寝っ転がっているエルリアさんの近くには、空になった三本の缶ビールが転がっている。


 今手にしている缶ビールと合計すると……この短時間で四本も飲んでるよこの人……!


 「あぁ……!」

 「ミーチャさんも何か言ってやって下さい!さすがに今回は……!」

 「エルリア様よくぞご無事で!本当に、本当によかった……!」

 「私があなたを置いていくはずがないでしょう?ずっと一緒ですからね……」

 「いや全然感動出来ないから。寧ろ怒りしか感じないから」


 ミーチャさん、優しいにも限度があるでしょ?

 無差別な優しさはただの甘やかしで、逆に人を不幸にするのよ?


 「というか何ですかこの部屋は!?そこら中エナジードリンクの空き缶だらけ!」


 服が散乱したり洗い物が溜まっていたり、缶ビールが散らかっているよりかはまだましかもしれないけど……。


 エナジードリンクの量がひどい!その独特の甘い匂いも充満しているし……。


 何?エナジードリンクはインテリアの一部なの?

 その匂いを香水にでもしているの!?


 「エナジードリンクに関しては私が勧めたのです。力が出るという夢の飲料だと聞いたので……」

 「それにしたって飲みすぎですよ。過度なエナドリは体に良くないんですよ?」

 「私が飲んでるんじゃありませんー!機関が間接的に飲ませてくるんですー!ぷいっ」


 うわ、子どもっぽい!

 あなたが“ぷいっ”とか言ってそっぽ向いても、全然可愛くないからね!?


 「いつもエルリア様はお疲れですから、少しでも支えになりたくて……。昨日も溜まっていた皿洗いと衣服を片づけたのですが、私もまだまだですね……」

 「ミーチャさん?それは彼女のためにならないから控えようね?」

 「そうです!以前街中で気持ち良くなるお薬をあげると声をかけられたんでした!もう一度あの場所に……!」

 「誰がお巡りさん呼んで!」


 この子優しいとか以前に、知識がなくて危なっかしいな!


 気持ちの良いお薬は本当に洒落にならない!

 絶対に関わっちゃ駄目だからね!


 「あ、あとのお世話は俺がやりますから!ミーチャさんは真っ直ぐ家に帰りましょう?」

 「よろしいのですか?では、お任せしますね」

 「はい!真っ直ぐ!家に向かって下さいね!真っ直ぐ!」

 「は、はい。分かりました。それではエルリア様、本日はこれで失礼します」


 何とかミーチャさんを帰路につかせ、部屋内を包んでいた騒がしさも消えた。

 

 あとに残されたのは俺と酔っぱらいだけ。

 

 俺はこれからこの酔っぱらいと生活しなければならないのか。

 家をお借りし、お世話になる身としては大変失礼なのだが……もう不安しかない……。


 「何をしているのですか楠。夕食の準備をしますよ」

 「酔っている人に台所は任せられ……って、まさか酔い醒めてます?」

 「私程の上級者天使ならば、酔いを自制することも容易いのです」

 「他のことも自制してほしいんですけど……」


 主にエナドリとか。

 転生候補者を前にしたときの感情とか。


 「それで?夕食の前に私に頼みたいことでもありますか?」

 「何で分かったんですか!?」

 「私は人をよく見ていますからね」


 自慢気に言っているが、あまり説得力は無いと思う。

 

 だけど今回ばかりは嬉しい申し出だ。

 こんなことを頼めるのはエルリアさん位だし、この頼みを実現できるのも彼女とほんの数人だろう。


 俺の家の近所という偶然も、実はとんでもなく幸運なことだ。


 「あのですね……」

 「ああ、ご家族に合わせて欲しいという頼みは聞けませんよ」

 「なっ、何で!?」

 「それはあなたの考えを先読みできたことに対する疑問ですか?それとも不可能と言ったことへの不満?」

 「後者に決まってるでしょう!」


 ここは俺が住んでいた街……正確に言えば、俺が機関に来る前だから、俺が生きていた街だ。


 もちろん、実家もあるし、家族だっている。

 

 俺は今精神体らしいけど、物も掴めるし食事だってとれる。

 生きていることを皆に伝えたいし、何よりも家族に会いたい!


 「迷惑はかけません!少し話せたらすぐ戻りますから!」

 「認められません。第一、あなたは自らが精神体であると理解した上で意見しているのですか?」

 「当然です!だから……」

 「あなたの肉体は生きた状態で存在します。そんな状況下であなたが現れればどうなるか、本当に理解していますか?」

 「……そ、それは……何とか事情を説明して……」

 「体はそっちにあるけど、本物の自分は俺なんだ!……私でも理解に苦しむ発言ですね。ご家族でも理解出来ないと思いますよ」


 俺の真似をしているのか、若干低い声で俺の心境を代弁する。

 ふざけているようだが、顔付きは真剣そのもので、俺を見据える目も鋭い。


 家族に会いたい気持ちは、決して生半可なものではないと断言できる。

 だからこそ、エルリアさんの意見は受け入れがたいものだ。


 ……しかし、一方で彼女が正しいことも理解できた。


 俺の要望は、周りのことを全く考えていない、利己的なものだった。

 これでは、俺の家族にも迷惑しかかからない。

 家族なら受け入れてくれるというのは、ただの俺の願望だ。


 「それに、あなたが不自由なく行動できるのも私たち天使がいてこそなのです。私たちがマナの供給を止めてしまえば、あなたは跡形もなく消滅するでしょう」

 「だ、だからあの昼食のとき俺に食べさせようとしたんですか?私利私欲ではなく、俺の為に……」

 「いやあれは私の為です。ごりごりの私利私欲です」

 「あ、そうですか……」


 だとしても、正直に告白するかね?

 せっかく大人っぽい姿が見れたのに、いつもの雰囲気に戻っちゃったよ。


 「そう焦らなくとも、本部長と約束したのでしょう?転生者の執行部に対する評判が上がれば、報酬として肉体に戻すと」

 「ホントに全部バレバレですね……」

 「私たちも協力はします。迷える魂を導くのも、一応天使の役目ですからね」


 そう言って、彼女はまさしく女神のように微笑んだ。

 

 間違った人間には正しい教えを。

 迷える人間には暖かい導きを。

 罪を償う人間には優しい笑顔を。


 なんだ、ちゃんと天使やってんじゃん。


 「ごめんなさい、俺は冷静さに欠いていたようです……ありがとうございます、エルリアさん」

 「ふふん、どういたしましてですよ。何か捧げてもいいのですよ?」

 「それが無ければなぁ……」


 うん、やっぱりエルリアさんはこっちの方がいいかもね。

 また何か間違いを起こしたときだけ、天使か女神として導いてもらおう。


 「さて!時間もないですし、夕食の準備を……っと、失礼。電話ですね」

 「冷蔵庫にあるもの、自由に使っていいですか?料理を捧げてあげますよ」

 「それは楽しみですね、自由にどうぞ!もしもしエルリアさんです……本部長!お疲れ様です」


 エルリアさん携帯電話持ってたんだ。 

 考えてみれば社会人だもんね。連絡が取れないのは死活問題だろうし。


 ……どうでもいいけど、冷蔵庫の中ほとんど何もないぞ。

 これじゃ大したもの作れないんだが。


 在り合わせの捧げ物で喜んでくれるかな、あの女神様は。

 お礼も込めて、できる限りのものを作ってみようか!


 「はあ、そうですね……はい!?明日!?冗談ですよね!?」

 「ん?」

 「そんな急に……事前に準備をって、だから明日から準備をですね!?」

 「明日から……まさか」

 「え、ちょっともしもし!本部長!?バカリキー!?」


 電話が切れたと分かったからって、すぐ罵倒に切り替えられるメリハリの良さがある意味すごいな……。


 でも、今の会話で何となく察してしまった。


 ほらもう、エルリアさんが女神止めちゃってるよ。

 どす黒いオーラに包まれててるよ。


 「はあ……定例会議の日が早まりでもしましたか?」

 「な、何で分かるのです!?」

 「俺は“天使を”よく見てますからね」


 先ほどのエルリアさんはの言葉をわざとらしく使い回した。

 

 「料理はまた今度。ほら、定例会議の準備をしますよ?」


 迷える魂が天使を導く。

 そんなことが、偶にはあってもいいよね?

 

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