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転生機関の天使たちは、楽園を知らない社畜です  作者: えりぼたん
第一章.転生機関
10/19

天使に休日を、パジャマでの一日を

 

 「エルリア-?そろそろ起きて-」

 「んぅ……あと五時間……」

 「単位が違うんだけど……ほら!朝ご飯出来てるんだから、早く起きる!」

 「うあぁ!眩き光明が……召されてしまいます~……」


 掛け布団を頭からかぶり、朝日が当たらないようにベッドの上をモゾモゾと動き続ける。


 ……女神じゃないよね?と疑問否定型で聞かれてもおかしくないレベルだ。


 俺はもう既にそう尋ねたい。これが女神とは信じたくないよ。


 「やべ、火をつけっぱなしだ。早く起きないと、朝食はエナドリづくしにするからね」

 「エナドリって食に含まれるのですか?」


 毛布から顔だけ出したエルリアの疑問を見事にスルーし、まるで催促するように鳴いているやかんを止めに走る。


 けたたましい音を止め、準備できていた朝食をテーブルに並べていく。



 エルリア家での家事全般は俺が担当している。居候みたいになってるし、そのくらいはね。


 寝床ももちろん別々の部屋だ。

 マンションだからけっして部屋数も多くはないが、俺の部屋まで割り振ってくれた。


 精神体になってから一週間、衣食住を提供してくれて、もうエルリアには感謝しかない。


 ……だけど一つだけ不満を言わせてもらうと、エルリアのだらしなさがヒドい!


 朝も俺が起こさないとベッドから出てこないし……。逆に今までどうやって生活してきたんだ。

 

 「恩返しも含めて、私生活を改善させてあげないと……」



 朝食を丁度並べ終わったとき、まるで見計らったように、寝癖もそのままなエルリアが寝室から出てきた。


 「ん~、マナ料理が並んでいない光景はいつ見ても清々しいものがありますね……!」

 「そんなにマナ料理が食べたくないなら、自炊ぐらいすればいいのに……」


 まあ、俺もマナ料理はしばらくいらないかな……。

 初出勤の時から、昼ご飯はずっとマナ・シリーズだったし。


 だって、ねぇ?

 小天使ちゃんたちが一生懸命作ってるのに、余らせるなんて酷いこと出来ないもの!


 でもさすがに、当分は一般的な食事が食べたいかな……。


 「さて、そろそろ食べちゃおっか」

 「……そのポットの中身はエナドリではないでしょうね?」

 「エナドリを沸騰とか保温する訳ないでしょ!?」

 「冗談ですよ」


 ……エルリアさん?本当に冗談で言ったんだよね?

 

 だったらポットの匂いを確認するの止めてもらえます?しかもそれ化学薬品を取り扱う時の嗅ぎ方だよね?


 ばりばり疑ってるじゃないですかやだ~。


 「それにしても、まさか休日出勤になるとは……。いつもなら寝間着のままダラダラと一日を過ごすというのに……」

 「しょうがないでしょ。ボイコットしたっていう二人を捜さなきゃいけないんだから」


 エナドリじゃないと分かり、安心したのもつかの間。


 味噌汁を口に運んでいたエルリアが深くため息をついた。エルリアの女神らしからぬ発言は置いといて……。


 そう、今日は休日だが緊急の仕事があるのだ。


 それは、先日ボイコット宣言をしたラファエリさんとガブさんの捜索。

 この二人も執行部の一員だけど、突然何の説明もなく、業務拒否の意を文面で送りつけてきた。

 

 働く日々から解放された二人をエルリアは大変羨ましがっ……んんっ!

 ……エルリアは二人を大変心配し、事情を聞いて連れ戻すことになった。


 幸いなことに、二人のボイコット宣言は執行部以外で知られていない。

 大事になる前に事態を収拾しよう!と先日は意気込んでいたんだけど……。


 「冷房効いた部屋で……布団にくるまり……アイス……夢心地……」


 明らかに面倒くさがっている……。

 というかどんだけもったいない生活してんの!完全にだらけ人間の過ごし方だよ!


 あと、まだ春先なんですが?


 「で?ラファエリさんとガブさんって、どんな天使なの?」

 「綺麗好きと引きこもり」

 「そんな風に人を紹介されたのは初めてだよ」


 正確には人じゃなく天使だけど。


 「エルリアさ、ちゃんと部下のお世話とか出来てたの?」

 「失礼ですね、私ほど面倒見の良い女神はいませんよ。部下の意思を尊重して自由な行動と、指示をしないという束縛のない……」

 「それ世間一般では職務放棄って言うんだよね」


 いやいや、意思を尊重とかそれっぽいことを誇らしげに語ってるけどさ……。

 指示無しって自由過ぎるでしょ。野放しにしてるじゃん。


 このエルリアの適当さに愛想尽かしてボイコットしたんじゃないのか?


 「……だって私にも候補者の相手とか他部署との仕事いざこざがあって忙しいんですもん。そりゃ部長なんだからと言われればそれまでですけど、彼女らも子供じゃありませんし……あんまりしつこいと鬱陶しいとか思われて機関内の天使関係が……」

 「あー……」


 いじけ始めてしまった。

 目玉焼きのお供であるキャベツの千切りを一本一本、チビチビと食べる姿の悲しいことよ。


 やっぱり人の上に立つって大変なことなんだなぁ、なんて他人事のように考えてしまう。


 ……早いとこ話を切り上げて、仕事にかかった方がいいな。

 また働きたくないとか言い出しそうだし。


















◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「あ、神田さん!おはようございます!」

 「おはようございます、休みなのにご苦労さまです」


 玄関を開けるとミーチャさんが出迎えてくれた。


 いつもの柔らかい絹衣ではなく花柄のワンピースの上に、落ち着いた色合いで薄めのコートを羽織っている。

 

 彼女の性格、体格もあって、どこか華やかな印象を受けるコーディネートだ。


 ……言わせてもらおう。

 

 めちゃんこ可愛い!!


 「私服姿初めて見ましたよぉ!とても可愛らしくて、お似合いですね!」

 「そ、そうですか?ちょっと背伸びしちゃったかなって、不安だったんですが……」

 「とんでもない!季節感にもぴったりですよ」

 「あ、ありがとうございます。そう言って下さってうれしいです……!」


 うん、恥じらう姿も何とも可愛らしい。正に天使。彼女以外天使と認めないレベルで天使。

 いやそれはダメだ。小天使ちゃんたちももちろん天使。


 ……だけど、彼女らに比べてエルリアはどうだ。


 パジャマのまま外に出ようとした時は目を疑ったよ。ゴミでも出しに行くつもりだったのか?


 それで歯も絶対磨けと注意したら『磨かない訳ないでしょう、頭大丈夫ですか?』と言われる始末。

 パジャマ寝癖はよくて歯は駄目なの?


 本当に解せない。


 エルリアの理不尽さに頭を悩ませていると、当の本人が玄関から出てきた。

 部下の手前だからか俺に言われたからか、身だしなみもしっかり整えていた。


 「待たせてしまったようですね。おはよう、ミーチャ」

 「おはようございます!休日出勤ご苦労さまです!」

 「それはお互い様でしょう?あなたの力無くしては、今日の活動もままなりませんからね」

 「は、はいっ!今日は全力でサポートさせていただきます!」

 「ふふっ、頼りにしていますよ」


 そんな話もそこそこに、エルリアの案内でまずはラファエリさんに話を聞くこととなった。


 ラファエリさんもエルリアと同じ、このマンションに住んでいるらしく、訪問するだけなら五分もかからずに終わる。

 それだけなら、わざわざ朝早く起きて休日出勤する必要もないんだけど……。


 相手は“働きたくない”と宣言しているのだ。ボイコットされれば、関係者も事実確認やらで接触してくることは分かりきっているだろう。


 そんな人が自宅で大人しくしている訳もなく……。


 「出ませんね……」

 「壊れる壊れる!呼び鈴のボタンが埋まり始めてるからやめたげて!」


 一階、『天医緑(あまいみどり)』と書かれたネームプレートが示す部屋の前。

 エルリアがいくら呼び鈴を鳴らしても返事はない。

 

 というかエルリア高速で鳴らし過ぎだから。指先の筋肉どうなってんの。


 「やっぱりいないね。それか居留守でも使ってるのかな」

 「それは無いでしょう。呼び鈴に私の指紋、皮膚が付着しているのに反撃がないなどあり得ません」

 「綺麗好きとか言うレベルじゃないでしょそれ……」


 潔癖性に近いんじゃない?反撃って何されるの。


 ミーチャさんもいつの間にかビニール手袋とマスクつけてるし……。その装備は自分じゃなくてラファエリさんのためだったのか。


 「ドアに鉄さび無し、床汚れ無し、剥がれた所も見当たらない……。ここだけ新築みたいに綺麗だな」

 「彼女のことですから、毎日掃除しているはずです。今日の掃除は終わらせているでしょうし……」

 「やはり、捜しに行かなければなりませんね」

 「でもどうやって?無闇矢鱈と捜し回っても、見つかりっこないよ」


 ラファエリさんが外を出歩いているのだとしたら、見つけられる可能性は限りなく低いと思う。


 以前、天使は下界の人間に正体を知られないように生活していると話していた。

 実際、翼のないエルリアたちは普通の女性と何ら変わりない姿だし、服装だって違和感を覚えない。


 しかも顔を知っているのはエルリアとミーチャさんの二人だけ……。


 いや、無理だと思うなぁ……。


 「家に不在など分かりきっていたことです。当然、その場合の対処も考えてありますよ。でしょう、ミーチャ?」

 「……はい!お任せ下さい!」


 俺の不安は想定通り。事前に策を講じている私凄い。みたいなドヤ顔を俺に向けてきた。


 ……いや、状況を見るに、何かするのはミーチャさんでしょ?

 何であなたがドヤ顔してんの。


 「夢に出そうなエルリアのドヤ顔に聞くのも癪だからミーチャさんに聞くけど、」

 「すごい暴言吐きますねあなた!?」

 「ミーチャさんがいれば、ラファエリさんを捜し出せるってこと?」

 「は、はい!私にも固有の能力がありまして……『啓示』と呼んでいます」


 ミーチャさんは少し照れた様子で種明かしをしてくれた。自らの能力を自慢気に話すことが恥ずかしいみたい。


 確か啓示って、神様が人間を導くために与える助言とかって意味だよな?


 「天使が持つマナを私が少量受け取れば、その天使の位置を把握出来るんです」

 「天使が持つマナは各々で性質が異なりますからね、それを利用した能力なのです」

 「なるほど、それでラファエリさんの位置も分かるわけか!すごいですね、ミーチャさんにしか出来ない能力!」

 「あ……っ……、そ、そんなことないですよ」


 ミーチャさんは一度驚いたように顔を上げると、ゆっくりと俯いた。

 

 「()()()能力、滅多に役立ちませんから……」

 「……ん?」

 「……さて!ここまで面倒かけさせたラファエリを叱りに行きましょうか!ほらほら、行きましょうミーチャ!」

 「あわわっ、押さないで下さいエルリア様~!」


 突然テンションが上がったエルリアに押され、ドタドタと走って行ってしまった。


 ……なんだろう。

 何か雰囲気がいつもと違った気が……。


 「気のせいかな……というか俺を置いて行かないでー!」


 そうだよ!今の俺は精神体。エルリアたちがいないと存在すら出来ないって言われたじゃん!

 

 あのままマンション外に行かれたら、俺が終わる!


 彼女らに続いて俺もドタドタとマンション内を走り(住民の皆さん騒がしくしてごめんなさい!)、玄関へと急ぐ。


 危ねぇ、まだ玄関ホールにいた!ぎりぎりセーフ!


 「こら楠!私から離れるなと以前話したでしょう!存在ごと消え去りたいのですか!?」

 「あんたに消されかけたんだよ!?」


 自分から離れていったくせに何言ってんだこの人!

 

 「全く……って、なんかミーチャさん輝いてるけど、もしかしてこれが例の能力……?」

 「ええ、今正に『啓示』を使用しています。なので静かにしていて下さい」

 「誰のせいだと……もういいや」


 あ、因みに輝いてるってのは比喩表現じゃないからね?両手指を絡めて祈るように、本当に神々しく光ってるの。


 真下から微風でも吹いているのか、彼女の艶やかな髪や服がふわふわと揺れる。

 ……うん、でも服は困るかな。ミーチャさんワンピースだし、色々とね。分かるでしょ?俺の言いたいこと。


 それにここ玄関ホールだから。

 誰にも見られてないとは思うけど、この光景は端から見れば不思議……異常なものだ。


 出来る限り早く終わらせた方が良いんじゃないか……。


 なんて考えていたら、ミーチャさんを包んでいた光が弱まり、服も本来の重力に従ってふわりと下がった。


 「……終わりました」

 「お疲れ様です。して、ラファエリは今何処に?案内をお願いします」


 エルリアの余裕そうな笑みに対し、ミーチャさんは雲がかったような困り顔を浮かべた。


 「はい。えっと……一人目は交差点交番前、二人目は商店モールの中にいて、残りのラファエリさんも……」

 「よし、では一人目のラファエリの後に二人目のラファエリの元へ行き、残りのラファエリにはその都度状況に合わせて……あれ?」

 

 ……え?

 一人目二人目って何?残りのラファエリさんって何??


 「ラファエリさんって、そんなにたくさんいるんですか……?」

 「まさか!彼女は一人っ子ですよ」

 「いや家族構成を聞いてるんじゃなくて……」

 「ミ、ミーチャ!もう少し詳しく教えて下さい!ラファエリは何処にいたのですか!?」


 先程の余裕は何処へやら。

 捜索対象が町中に散らばっているなんて事態は、想定していなかったようだ。


 誰も想像出来ないけどね、そんなこと……。


 「わ、私にもよく分かりません……。ですが確かに、町中の至る所でラファエリさんのマナを感知出来るんです~……」

 「そんな……まさか純技……?しかしこれは補助系統に近い。ならばさらに高等な……」


 ミーチャさんは申し訳なさそうに俯くばかり。エルリアにも分からないようで、何やらブツブツと呟いている。


 ……待って、ミーチャさん涙目になってない!?


 「ど、どうする……?」


 こんなミーチャさんは見ていられない!

 エルリア、何か良い解決策は……!


 俺の必死に訴える視線が伝わったのか、エルリアはあのドヤ顔を向けてきた。


 「……それでは……片っ端から当たっていきましょうか……」

 「結局無闇矢鱈と捜すんかい!?」


 何でドヤ顔したんだよ!

 

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