ソーシャルという名の超管理新社会主義スタイル世界
鬼壬羅兵【きみらへ】何度も手紙の最初にそう書いたけど、この字が正しいのか、果たして過去の諸君に伝わるのか、証明する科学的根拠も無ければ、何の保障もない。俺は、なんの価値もなくなった自分自身の空っぽな心に響き渡るように悲痛な声でかおりに話しかける。ここだけの話だけど、同じ高校のクラスメイトであるかおりは実をいうと元カノだ。
最初、こいつは「可愛いから」ってだけで付き合ってたんだけど、どこの誰よりも優しいことに気がついた。ちょっと外の気温が下がっただけでメールがなる。「寒いけど、大丈夫なん?」それ以来、俺のことを思ってくれて、俺のためにわざわざ苦労を背負う。だから、そんな無駄な苦労をするかおりに申し訳なくて俺の方から別れた。あれは、クリスマスイブの夜。俺の親父の研究所が入る高層ビルの最上階で、別れのキスをした。君らなら、人前でも平気にやっちゃうだろうけど僕らは違う。工学的に、いや科学的に言わなくても理由はただ一つ。俺は最高の科学者だ。「なんで、そんな運命に立たされるんだぁ」って、反論し、論破し続けるのが普通かもしれないけど、本当の原因と言われることを俺はしでかした。そう、失敗したんだ。自然にそうなってしまった。いや、自然に出来上がったんだ。
感覚で言うと、試験管の中身をのぞきこんで、持ってる腕を小刻みに震わせて液体が混ぜ合わさるあれ、あの感じかなぁ。
「雨に当たるなよ、かおり、・・」
それは、かおりに、気を聞かせて「風邪を引くなよ」っていう意味ではない・・かおりは、このまま雨に当たり続けると解けて凶暴な蟻になってしまう。隠れ蓑と、かさは、蟻に変異した民からは見えない。コレは、人口知能イライザが教えてくれた。
俺たちの先祖の時代。蓑や傘は当たり前の生活必需品だった。今こうして現実を冷静に考えると、過去の手作り工芸品は、身を守る最高のアイテムだったに違いない。俺達は、これまでに何度も実験を繰り返し、最高の社会主義を実現しようとした。「見ろよ、隣のビルの住人達、脱皮が始まってる。もうすぐ昆虫化するぞ!!」
「あら、本当ね。見事に気持ち悪い~」
風呂にも入らないで、踊り続ける住人たちは、脱皮することで自分を変化させる。
それは、降り続く雨にうたれ、その雨の雫が毛穴から吸い上げられるとかれらのDNAを物の見事にに変化させていくんだ。体のかゆみが出てきた硬い皮膚をかくと、どんどん皮膚が落ちはがれ、中から昆虫の腕や足が現れる。
「かおり。見てみろ、あの住人」
「脱皮するともう人間的な優しさは消えてるんじゃないの?」
「そうだな、かおりどうする?」
雨が降り注ぐ、東京の街の暗闇のビルの屋上。
俺たちの目の前の大勢の民の脱皮が終わり、目の前にいるのは巨大な蟻。獣と変化した民たちの頭の中は、超完璧なバーチャル世界。でも、真実の姿は、これさ。
あり獣は、こちらにゆっくり近づく。俺とかおりは、屋上に次々上がる蟻獣民に囲まれた。
「もう、ここは、あの東京じゃない」
「じゃ、どこなのよ。ここはどこよ」
俺の背中と、かおりの背中が、くっつき、隠れ蓑が、揺さぶられる。かさを深くかぶり,大量の雨が滴れる。
次回にsave。。。