第六話:初任務
黄金の夜明け団については少しずつ紹介していきます
第6話
まあこの都市はアンデッドも住んでいるそうなので驚くほどでは無いのだろう。現に僕以外にあのヤマト剣士を気にしている人はいなかった。ただ半日のうちに女の子の肌着を洗い、仕事仲間を見殺しにし幽霊らしきもの出会いなんとも微妙な気分だ。とりあえず<満月と銀の匙亭>に帰る。表は店の入り口なので裏口から入ろうとするとちょうどアルバートさんが出てくるところだった。
「お!イルカか。いいタイミングで帰ってきたな。」
「え?何かありました?」
「初任務だよ。二階の会議室に行け、みんな集まってるぞ」そう言ってちょいっと上を指す。
「初任務!」
まさかこんなに早くに任務を付与されるとは……ついに物語のように大都会に潜む闇やら魔族やら邪神やらと戦うのだろうか衝撃のあと緊張とも興奮とも言えない気持ちが体を走りソワソワする
「失礼します!」そうアルバートさんをすり抜け店に入るがふと気づく
「アルバートさんは会議に参加しないんですか?」
「あ、ああ。今回の任務は黄金の夜明け団に下されたものだからな。俺は指名されてないし内容は聞かないでおくよ。」
「え?アルバートさんパーティーメンバーじゃなかったんですか?」
ふつうにメンバーの一人だと思ってたがよく考えれば一回もそんな事は言ってない。
「あれ?知らなかったか?俺は舵取り屋だけどもフリーだよ。基本特別に任務が下されない限り普段は店の手伝いしてるコックだよ。」
それは知っている、基本舵取り屋は副業あってルナシアちゃんもアルバートさんも普段は店の手伝いをしている。アリスター君も毎日外に仕事に行ってるみたいだし。
「ま、今日はメンバー一人帰ってきたしな。上に行って紹介してもらえ後の一人もその内会えるだろうし」
「あ、はい」
「失礼します」会議室だと紹介されていた部屋のドアをノックする。
「入れよ」
アリスターの声がしたのでドアを開けた。
中を見るのは初めてだ。そこは寝室よりも少し広くカーテンのしまった部屋には昼間なのにランプが灯されている。長方形の木製テーブルの周りには三人の人物がいた。端に白髪の赤目の改造人間アリスターさん、椅子の上で足を組み何やら資料を読んでいる。となりの席には赤いエプロンドレス姿の金髪少女ルナシアちゃん、彼女と今何か話している人物は初めて見る。いや人物というのは正しいのか……サスペンダー短ズボンを履いた姿は一見人族の子供だが、口が尖っていて三角の耳がピクピク動き黄褐色の地に黒の斑点がついたふわふわの毛が生えた顔はどう見ても人族ではない。獣人だな、こんな小型の獣人は初めて見たけど。
「あ、イルカ君帰ってきたの」僕に気づいたようでルナシアちゃんは顔を上げる
「ちょうどいいや。」パタパタと僕の方に寄ってきて片手にで獣人さんに示す「ロティ、紹介するね、この子がつい先日パーティーに入ったベルナさんの生徒さん、イルカ君。なんでも五つも精霊魔法が使えるんだって」そしてくるりと向きを変え今度は僕の方を見ながら獣人さんを紹介してくれた。
名前はティロイ。まだ僕が会ったことのない黄金の夜明け団のメンバー二人のうち一人。小型の獣人で一見幼く見えるががもう経験豊富な舵取り屋の先輩らしい。メンバーの中で情報収集担当で普段は占い師としてあちこちを放浪しているのだそうだ。ちなみに女性の方だった。
ティロイさんはわざわざ椅子を降りて握手しに来てくれた。背丈は僕の腰元に届くぐらいで上からはモコモコの頭とフサフサの長い尻尾がよく見えた。僕ははかがんで爪の曲がった黒い手のひらを握る。
「何か知りたい情報があったら遠慮なく聞いておくれよ。自慢じゃないがボクは仕事柄あちこちに行くからね、噂話をよく知っているのさ」
頼もしい事を言ってくれるが声はあどけなくピンク色の瞳はビー玉のようにまん丸い。なんだか胸の奥にキュンとくるものを感じる。
「おい、そろそろいいか」アリスターさんの声で思わずティロイさんの頭に伸びかけていた手が止まる。
「特に新入りの青もじゃ、お前は初めてなんだがらちゃんと聞けよ」
青もじゃ……少し引っかかるところはあるがとりあえずは頷き席に着く。
「まあ任務の内容から始めたいところだけども新入りがいるから一から説明するな。」ルナシアちゃんとティロイさんが頷く。
「すいません、ありがとうございます」僕は軽く頭を下げる。
「まずは本部から任務の付与される方法、これはパーティーの場合リーダーか副リーダーに伝達係か召喚獣が運んでくる。うちのパーティーではリーダーはナーシャ……ルナシアで副リーダーは俺だな」
ルナシアちゃん がリーダーなのは未だに実感がない。基本取り仕切るのはアリスターさんに見える。
「基本任務に関する資料は暗号で書かれていて内容によっては読んですぐに焼却しなくてはならないから注意しろよ」
「暗号ですか?」
「ああそうだ、イルカ君にはあとで読み方教えるよ、魔術師だから暗記は得意だよね」ルナシアちゃんがポンと手を打つ
「で、今回の任務だがそんなに緊迫した内容じゃねえから安心しろ、単に最近邪神アウミアック=ケノムのシンボルがこの辺りで目撃されたみたいだ。使徒らしき人物はもう騎士団に捕まったが、他にも誰かが契約をしてしまったのかもしれねえから調査しろってわけだ」
アウミアック=ケノム ここ数日夜は魔族の神や悪魔邪神について色々勉強しているのだがこの名前は結構頻繁に出る。残虐を好む邪神で通称無形の悪魔、現界に体を持たないので基本使徒や信者に寄生する。召喚者は憎む相手妬む相手恨む相手のリストと新鮮な臓物を捧げるだけで自分の手を借りずに人を殺すことができる。この邪神について厄介なのは召喚者が見つけにくいということだ。大抵は使徒が邪神に代わって選んだ人物が汚染され狂気の殺人鬼となって召喚者の望む人物を殺し、一定数の人間を殺した後には使徒の一人になる。つまりは捕まえても元凶に辿り着けないし使徒は増えていくばかりだ。国家衛兵だけではなく騎士団、教会、神殿、冒険者ギルドでさえも警戒する対象だ。
「あの!先生質問です」
「俺は先生じゃねえ……言え」アリスターさんは面倒くさそうに手を振る。
「怪しい動きって例えばなんですか?」
「ああ?そりゃあ怪しい宗教団体だとか変な勧誘ポスターだとか禁書を売る屋台だとかだな、まあこれはティロイの得意範囲だから任しときゃいい」
「副リーダーも結構情報通だろ。まあリーダーは基本的に殴る専門なのは確かだけど」ティロイさんは黒いけむくじゃらの両手(両前足?)を口もとに当ててムフフと笑った。
「いーつもすまないねえ婆さんや」ルナシアちゃんがティロイさんに抱きつく
「それは言わない約束ですよ婆さんや」モフモフが美少女の頭をナデナデしている、
可愛い。
「まあイルカはこういう任務があるということさえ覚えておいて注意してればいい。お前のおがくず頭だと下手すりゃ悪魔に勧誘される側だからな。翼駿のところで弁償代稼いで暗号と邪神リスト暗記してろ」
女性陣に癒されるが男性の方からは厳しい言葉をいただいた。まあ初日にお酒飲んで酔っ払って記憶飛んでたやつに調査や情報収集は任せられないよなぁ。僕ももしもの時の殴り込み係になりそうだ。もともと単純明快な英雄談に惹かれていただけだしそれでいい。
「じゃあナーシャとイルカは異常があったら俺かティロイに報告、絶対に深追いするなよ。ロイ、お前は情報屋に連絡を取ってくれ、俺は探偵事務所の方に何か情報はないか聞いてくる」
会議はそれでお開きのようだった。しかしみんな席を離れることは無い。そのまま
久しぶりに帰ってきたティロイさんを囲んでの座談会が始まりティロイさんが城外で見たおもしろい話をしてルナシアちゃんが笑いアリスターさんがツッコむ。ティロイさんは占い師の仕事の性質上なのかなかなか面白い話が多い。そして話は立ち寄った港で聞いた話に移る。ある港に泊まっていた商船のフィギュアヘッドの顔が日に日に爛れていきあまりに不気味なので取りはずしたら船先が空洞になっておりたくさんのスライム住処になっていたというオチだ。「スライムも海を渡りたかったのね」とルナシアちゃんは天真爛漫なコメントをし「最近密入国者が多いからな、本当はそいつらがこっそり作った隠れ場所の食べ物の匂いに惹かれて入ったんじゃねーの」とアリスターさんは皮肉なコメント
「でも忍び込んでたのがスライムでよかったよ、たくさんのネズミがいたのだったら……」想像上の情景に怯えてティロイさんが両目を隠す。
「ロティは鼠が大嫌いだもんね」
「うん、ワースト一位が鼠、二位がお化け。でも二位と一位の間には超えられない壁があるのだよ」
「鼠なんてどこにでもいるだろうが。お前よくそれで放浪生活出来るよな」
ふと今日町で見かけたものを思い出す。
「あ、そう言えば僕今日幽霊見ましたけどこれって四層の不死の館から迷い出して来たんですかね?」
何気なく話題に出したつもりだったがガタリと皆一様に立ち上がった。
「今日?今日って昼間だよね、どこで見たの⁈」
「外見は?人型だったか?影はあったか?」
「おい新入りお前それをさっき報告しろよ!」
椅子ごとひっくり返らんばかりに詰め寄られる。もしかしてー
「こ、これって今回の任務に関係する感じですか?」
「当たり前だ!」アリスターさんのツッコミが頭に炸裂する、義手チョップだ。いい音が鳴った。
アリスターは不良魔術師にするつもりで書いていたのだけれどあんまり不良っぽく無いな。
みんなのあだ名を整理すると
赤毛コックのアルバート:アル
白髪サイボーグのアリスター:センパイ/副リーダー
金髪美少女エルフ:ナーシャ/リーダー
ちびっ子獣人ティロイ:ロティ/ロイ
主人公イルカ:青もじゃ/ランマオ/新入り
最初の数話に人物詰め込み過ぎたかな