第四話:舵取り屋ギルド
説明回 次からストーリーが動く(と思いたい)
「そもそもなギルドって言うものは八年前の規定によって役所に申請しなければ運営出来ねえんだよ。だから偽ギルドと正規ギルドの区別はカードを見れば一発だ。ほらお前のカード裏返してみろ、ちゃんと所在国の紋章、そしてギルドの紋章が彫ってあるだろ」
やっと舵取り屋に関しての説明が始まるかと思えば舵取り屋ギルドに対してどれほど知ってるか聞かれ、最初は詐欺か何かかと思っていたと伝えたら。改造人間のアリスターさんは誤解を徹底的に解く事から始めたようだ。冒険者カードは僕が落としたのをアルバートさんが預かっていただけらしい。正直頭が真っ白な状態の僕には一から説明してもらえるのはありがたい。確かにカードの裏には紋章がいくつか刻まれている、触れると魔力の流れを感じる、このレベルの結印魔法はかなり高度なのでもし偽物だとしたら大掛かり過ぎる。後、国の紋章の偽造は下手したら終身刑の大罪だったはずなので田舎の青年一人騙すため犯すリスクとしたら大きすぎるだろう。
うんよく考えたらここら辺確かめるのすごい大事な事だったな、今回は誤解で本当に良かった、下手したら何も知らないまま内臓を全部売り飛ばされていた可能性がある。アリスターさんありがとう。
「あの、国の紋章がいくつか連なってるんですけどひょっとして舵取り屋ギルドって国際企業何ですか?」今の内に気になった場所全部質問しておこう。
「ああそうだ、いろんな国いろんな都市に俺らの分部はあるからよ。俺たちの所属するパーティ黄金の夜明け団はヨルムンガンド分部つう事だ。」
言葉は乱暴だけど説明は丁寧だな。さっき怖いとか変態とか思ってたよごめん。
「そんなに大きいギルドだったんですね……失礼ですが僕は初めて存在を知りました。」
「まああんまり表立った活動はしないからな。」
「なんだか秘密結社みたいですね」
「元は秘密結社だったみたい。世界の秩序を正すための暗躍組織!ほら昔から邪神やら魔族やらが問題起こしまくってるじゃん、それでも大災害が起こらないのは舵取り屋が文字通り裏で世界の舵をとってるおかげなそうだよ、かっこいいよねーまあ今はそんな大事件滅多にないけど」
ルナシアちゃんが話に割り込んできた
「世界の秩序を?」あれ?すごいエピカルな単語が出たけど
「ナーシャ!お前いきなり入ってくんな、せっかく俺が順序立てて説明してるのによ!」
「順序立てて説明するってどこからどこまで?センパイの長ったらしい説明に付き合ってたら日が暮れちゃうよ」ルナシアちゃんが頰を膨らませる
「っお前な!」
「まあまあ」慌ててアルバートさんが二人を宥める。というよりこの人が一番説明すべきひとのような気がするが
「えーと、なんだか壮大な組織のようですけど、それを田舎からきたなんの変哲も無い若造がお酒を飲みながらメンバー加入しちゃっていいものなんですか?」素朴な質問をすると
「は?」三人揃ってキョトンとした顔をしている。だから訳わからないのは僕だって
「いや、紹介文持ってきたのはあんたじゃないか。ベルナさんからの推薦だから加入させたんだけど、まさかあんた何も聞かされてないのか?」
「ベルナ……って先生の名前ですよね。え?先生の事知ってるんでか?紹介文って冒険者ギルドに渡したあれですか?」
うんと三人同時に頷く
あれ?なんだかかなり早い段階から誤解があるようだけど。先生が紹介文を書いてくれた時を思い返す。
確かいつも通りの仏頂面で便箋を僕の方に投げやって言った。「これを持っていけば冒険者ギルドに入れるぞ、ついでにお前を必要とする機関から迎を出すように言っておこう。まあそもそもお前が冒険者ギルドまで辿り着けるか知らんが」と。あの時はてっきり冒険者ギルドの魔術機関とかそういう意味かと思っていたが……
「ひょっとして僕を必要とする機関ってここ……?」
「こっちは<我が弟子がようやく世の役に立つために動き始める決心をしたようだ。不肖の弟子だが魔術師としての腕は確かなので雇ってやってくれ>って手紙を一ヶ月前に受け取ってその時から準備してたんだが……先に冒険者ギルドに行くかもしれないという事で君が紹介文を持ってたら連絡をいれるように冒険者ギルドに交渉したりして……」アルバートさんが頭を抱える
「くそ、あのババア相変わらず面倒ごとはこっちに丸投げか」
アリスターさんも机に顔を突っ伏して呻く。
「あの……すいませんうちの先生がご迷惑をおかけして。僕ももう少し前に違和感に気づくべきでした……」
「本当にそうだな、お前バカだろ」ばっさり返されるが悲しいかな
否定できない
「重ね重ねすみませんがこれ今からでも退員出来ます?僕多分そんな世界を担う大層な事出来ないので……」
恐る恐る切り出すと皆一応に渋い顔を見せた。
「あっやっぱり無理ですよねすいません」
「いや出来ない事はないけどな……」アリスターさんが目の装置をいじくりながらため息をつく
アルバートさんが何かをゴソゴソと取り出した
「契約書……」
それは明らかに僕の名前が自筆でサインされた契約書だった
指さされた文章を読む
{もし契約期間中に契約者の都合でギルドを抜ける場合、違約金として500銀貨の提出と当ギルドの秘密保持のため記憶抹消魔法をかけるものとする。}
500銀貨……駆け出しの冒険者が大体年収10銀貨だったのでちょっとやそっとで出せるわけない大金だ……そもそも今は銀貨どころか銅貨一枚すらも出せない。
「あの……契約期間ってどれぐらい……」
褐色の指が少し上の行に動く
「三年……」
「本当にすまない!!」いきなりアルバートさんが立ちあがった
「新入りが入るかもしれないとつい嬉しくなってたくさん酒を飲ませてしまった!」深々と頭を下げられる
「もしよければ俺が違約金を全額出す。記憶抹消もあんたはまだ任務に関わっていないので必要ないだろう。今回の事は酔っ払ってる状態の君に契約させた俺の責任だ」
「え?!でもアル……500銀貨って言ったら」
「おいおい本気かよ」
爆弾発言にルナシアちゃんとアリスター君オロオロしている。
僕も慌てて立ちあがった。
「いやこの件に関しては僕も悪いですよ、もっと自制するべきでした。」
「しかし……」アルバードさんんの握り締められた拳が震えている
確かにアルバードさんの行動は色々問題あったが僕も僕でかなり軽率だったし元といえば先生が勝手に僕を推薦したからだ。それに--
「あの、僕本当はそんなに解約したい訳じゃないので。本当に大丈夫ですよ」
「え……」
アルバートさんがやっと顔を上げてくれてホッとする、今まで人に謝る事は多くても謝られるような事は少なかったのでこんな状況になれない
「先生の言った通り吟遊詩人の冒険者がモンスターや龍を倒すてきな話しに惹かれて冒険者になろうと思ったので、ぶっちゃけ世界の秩序を守るとか凄い格好いいと思うし惹かれます、ただ僕はこの通りぼんやりしたやつなので皆さんの迷惑になったらいけないと思って……」
三人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔した。まあかっこいいとかそんな理由、10歳の子供じゃあるまいし変だよな
気まずい雰囲気を破ったのはアリスターさんだ。彼はしばらくの沈黙の後いきなり吹き出した
「お前、そんな理由でって、本当にバカだろう」
「よく言われます……」
「まあこれぐらい個性があるほうが舵取り屋ギルドに向いてるよ」ルナシアちゃんもニコニコしている
「つまり……あんたは本当に舵取り屋になっていいのか?かっこいいだけじゃないぞ、今は昔ほど魔族の動きは活発でないとはいえ危険だぞ」アルバードさんは納得出来ないらしい
「はい、命の危険は故郷を出るときに覚悟しています。」
冒険者だってハイリスクだしね
「そうか……まああんたの実力ならそうそう死なないだろう」
「あの、さっきはいきなり攻撃してすみませんでした」
「いや〜びっくりしたな、話しには聞いていたが本当に早かったよ、腕の一本二本取られるかと思ったよ」アルバードさんはそう言って大げさに身震いする仕草をした。
いや結構余裕で躱してらしたじゃないですか。でもそんなことよりこの件に関しまだちゃんと謝罪してなかった筈だ
「すみません僕がカードを落とした上に誤解してしまって」そう言って頭を下げる
「いや俺も悪……」
「いいっていいって、もう全部の誤解は解けたんだし」
何かを言おうとしたアルバードさんを遮ってルナシアちゃんが僕の手を取った引き寄せた。
「うわっ」近い、睫毛が長い、いい匂いがする……妹以外の若い女の子にこんなに近づかれたのは初めてだ。
「アルもイルカ君もこれからは仲間なんだから今までの事は全部水に流そう」と上目遣いで言われる。拒否権なんてある訳ない。僕はぼんやりと頷いた。可愛いは正義だ。
そんな訳で僕は世界の秩序を守る舵取り屋になった。冒険者は兼任できるそうだ。こんなグダグダな流れで夢が叶うなんて世間はやっぱり甘いのではないだろうか。いきなりパーティに入れたし可愛い女の子いるし。
ただ一つ水に流れずに残ったものもある、僕が破壊した下宿の家具だ。1銀貨とものすごい高い弁償代ではないがやっぱり無一文の僕には出せる金額ではなく。世界の秩序だのモンスターだのの前にこの下宿でしばらくバイトしなければいけなくなっった。
お
アルバートとアリスターって名前の響きが少し似てますよね。ルナシアちゃんの可愛いさが出しきれなかったのが残念