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第一話:世界を呑む都市

初投稿です。誤字脱字などありましたら遠慮なくおっしゃってください

2017/11/10 加筆しました


天を突くのは黒ずんだ無骨な鉄塔たち。ひときわ高い一本を中心に街は一層、一層切り身のように重なり外に広がっていく、丘の斜面に沿って建てられた建築物のスタイルはてんでバラバラ、カラフルなモザイク画の壁の住宅街に角のように生えるクーポル。吸血鬼でも出そうな陰鬱なゴシック風洋館を出入りするカタナを差したヤマト風の剣士。汽車と並行して飛ぶ絨毯。出来損ないのパッチワークをさらにありったけの染め粉をぶちまけたってここまでひどくならない、今にも崩れそうなこのレゴブロックの街を繋ぎ止めるのはニンゲンたちの底なしのエネルギーだ。金だ色だ夢だ権力だ粘り気をおびる欲望が見えない大蛇になって街にとぐろを巻いていた。世界を呑む都市これが魔都ヨルムンガンドだった。

「どうだい?壮観だろう。あー…あんまり身を乗り出さないでくれもしも落ちたら助からないぞ。あんたの身に何かあったら俺がリーダーに叱られる」

「あ、すいません」

慌てて頭を引っ込める、そう、僕は今人生初めての空中トロッコに乗って移動している最中だった。この高さから落ちれば良くて粉々最悪スライムの親戚状態になる。

「これが噂の魔都なんですね、確かに僕が今まで見た中で一番ユニークな都市かもしれません。」


「ユニークどころかシュールな域に入ってるかもな」

褐色に焼けた頰をかき苦笑するのは僕の向かいに座っている赤毛の男性アルバートさんだ。

「いえ、活気満ち溢れていてとても魅力的です」

「そうか、魅力的か。まあそれぐらい物好きなぐらいがいい」はははとアルバートさんは豪快に笑った。

物好き……そうなのだろうか?まあ21年間田舎でのんびり暮らしていたはずなのに吟遊詩人の話を聞いただけでいきなり刺激されて冒険者になろうと家を飛び出す様な奴は確かに物好きなのかもしれない。友人にも大人しそうでいてどこか頭のネジが足りてない、との評価をもらったことがある。両親は「世の中はそんなに甘くない、お前みたいに能天気な人間が魔都で冒険者になれるわけがない」と出発前は脅かしていたが、僕が譲らないのを見ると最後には「まあ家でぐうたらしてるよりは」とあっさり送り出してくれた。先生も冒険者ギルドの登録ができるようにと紹介状を書いてくれた。そんな風に呆れ半分心配半分皆暖かく送り出してくれた。無計画な野宿の旅の傍、日雇いの仕事こなして路銀を稼ぎつい先日近場の街で冒険者ギルドを見つけ無事登録出来たのだから世の中存外甘いのかもしれない。なんだか今日はギルドの人がわざわざ魔都まで道案内してくれているし。自分の幸運を噛みしめているといきなりガタンとトロッコが揺れた。

「おっと、もう直ぐだな。イルカ君掴まっていろよ、急降下するからな」

確かに下の方に大きな門が見える、あそこが入り口か。僕はついに魔都に足を踏み入れるのか。急降下に構えながらも僕は舞いあがらんばかりに喜んでいた。

それが昨日の朝の話

浅はかだった。

とはいえもう遅い、僕の手の中にあるのは金属製の薄いカード、田舎ではなかなかお目にかかれない精巧なものだ。それが何を意味するものなのかはさすがに能天気な僕にもわかる。共用語でカードに彫られた文字は確かに「舵取り屋ギルド ヨルムンガンド分部NO.27 イルカ・リッタツエ」舵取り屋ギルド……うん。冒険者ギルドではなく舵取り屋ギルド、このカードは銀縁の黒色で僕の記憶が正しければ冒険者カードは金縁の緑のカードのはずだ。そして僕の冒険者ギルド証明カードは見つからない。

「やられた……」

頭を抱える、そういえば出稼に出た友人から以前都市部で流行っているギルド詐欺というものについて聞いたことがある。本来ギルドというものは不正を防ぐものであり、登録すれば、仕事の斡旋から身分の保障までしてくれる。依頼料は多少差し引かれるがフリーで動くよりはよっぽど安全だ。しかし暴力団の類には田舎者を騙しギルドと偽り登録させ、こき使ったり売り飛ばしたりする。他にも冒険者カードを盗み闇市で売ったり、冒険者カードの権利を悪用したりする者もいるらしい。全部今更思い出しても遅い情報だ。

もう冒険者ギルドに登録した後だったからうっかりしていた、しかし思い返せば確かに怪しい点はあった、早朝迎えに来ただけでなく大通りではなく何故か私設の空中トロッコで裏門に回り、ヨルムンガンドの冒険者ギルドには向かわず、都市案内と称し酒屋をはしごさせ、ベロベロに酔っ払ったところで下宿の手続きと言っていくつもの資料にサインさせられたのをぼんやり覚えている。そしてそこで意識が途絶えた。

この朝ひっきりなしにドンドンドアを叩く音で目が覚めた。状況が理解出来ないままに中原風の怪しい男に部屋からつまみ出される。どうやら掃除の時間の様だ。どこにいるのか全く理解出来ないが多分昨晩はこの中原風の下宿に泊まったのだろう。あちこちさがそたが荷物も見つからないしカウンターにはお団子髪の気だるそうな女の子一人だけしかも言葉が通じないし、


慌て冒険者ギルドに確かめに行ったら案内状(先の登録の時に渡してしまった)も身分カードもない怪しいやつと叩き出されてしまった。ポケットを探し回っても見つかったのはこの謎のカードだけだった。どうしようか……金はない、先生が書いてくれた案内状もない靴下も上着も何故かない。帰るにしても冒険者カードがあったから街に入れたのだ、果たして城門を出られるのだろうか。

「イルカはいつも最悪の状況になってからやっと賢くなるよね」妹の言葉が思い出される。ひょっとしたらこれは最悪の状況なのか?しかし僕の空っぽ頭が働く様子はなく代わりに空っぽの胃が存在を主張している。

そもそも僕を売り飛ばすのが目的ならば僕の身柄を捕獲しないのは可笑しいし冒険者カード窃盗だとしたら同じぐらい高価そうなカードを代わりにくれた意味がわからない。

途方にくれ空を見上げた、空中に浮かんだ広場では子供がボール遊びをしていた、機械仕掛けの猫が瓦の屋根を歩いている、そのさらに上にはバザールが開いている、奇術師がが笛を吹くと煙のような鳥が上へ上へと舞う、その目指す先には無骨な鉄塔が並んでいる、それはまるで空をも呑もうとする牙のようだった。


まだ物語始まってない

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