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【17万PV】戦略級美少女魔導士の育て方  作者: 小鳥遊七海
第1章 無人島サバイバル
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196.初験

 カルラたちの回復を終えると、さすがに僕も少し疲れてしまった。魔力的には問題なくても、僕の体力はそう多い方ではないから、長時間同じ姿勢で呪文を唱え続けるのは難しいようだ。


「凄いです!」


 カルラは僕を支えるように抱きついてくる。


「そうだ。我も長いこと生きているが、このような魔法は見たことも聞いたこともない」


「どうやら回復魔法以外は使えないようだけどね」


 魔法を使えるようになったと言っても、僕の魔法は回復魔法に限られていた。


 カルラたちが使う魔法とは根本的に体系が違っていて、どんなに魔法の才能があろうと、僕やウリ丸のように特別な存在でないと回復魔法は使えないようだ。


「そんなことは些細なことだ。誰にも使えぬ魔法が使えるのだぞ」


「うん。だから、他の人たちには内緒ね」


 ドーラが見たことも聞いたこともないというのは、回復魔法を使える特別な存在が秘密にしてきたというのと無関係ではないだろう。


 回復魔法がない世界で回復魔法が使え、自分で身を守る手段がないということはそう言うことなのだ。


 前世で読んだ異世界小説の中には回復魔法を使える主人公もいたが、それは回復魔法がある世界の話だ。


 とは言うものの、当初の予定とは違うけど、僕たちはものすごいアドバンテージを手にいれた。諸侯を味方につける上でこれほど強力な手札はないだろう。


 要は僕の覚悟と手札の使い方次第なのだ。


「なんにしろヴォルフは凄い魔導師だったというわけだな」


「私は分かってました」


 ドーラもカルラも一人納得している。


「それにしても」


 僕は語気を強める。


 ふたりともビクッと体を硬直させた。


「僕は言ったよね? 無理しちゃダメだって」


「は、はい」


「それはわかっておったのだが……」


 ふたりとも不可抗力な部分はあったし、僕も油断しているところがあったんだろうけど、これからはもっと慎重にしなきゃ。


「ゴッテスフルス軍はカルラがより集まったようなアーティファクトを持っているようだ。我でもかなわぬ」


 ドラゴンは相当に強い生物なので、そこまで言わせるのは本物と言っていい。


 ここに来て、僕たちの最強戦力である二人を軽々撃退する軍事力があるゴッテスフルス軍が動いたということはビルネンベルク王都まで易々と攻め落としてしまうのではないだろうか。


 最初にヴァッサーを叩いたのは鉄猪の性能を確認したかっただけで、それが大したことないと考えて一気に攻め滅ぼそうとしていても不思議はない。


「ゴッテスフルス軍はカルラの追撃に失敗したということはわかっているだろうけど、それが脅しになったとは思っているだろうね。だから、追撃はなさそう」


「そうだといいのですが」


 少なくとも僕が指揮官だったら陽動を疑うよ。だって、追跡した部隊は全滅した上に、メテオーアの連発なんだもん。


 カルラとドーラが陽動して、別の部隊がメテオーアで潰したとしか思わないよ。


 それでも追撃してくるのなら、カルラたちを追跡した部隊でもメテオーアに対処できていたと思うんだよね。


「あとカルラとドーラのお陰で相手の情報も集まったし、次にあったら負けないと思うよ」


 ちょっとした予想なのだが、カルラとドーラを追いかけるには機動力が必要で、その機動力はホバークラフトの原理であることは分かっている。


 ならば、ユキノがやったように場を支配してしまえば相手の機動力はかなり奪える。その上でグラビィタを使った実弾で仕留めればいいだけだ。


 もちろん、ユキノだけではなく、炎の魔法を使えるハクでもホバークラフト対策は出来るだろう。


「カルラには少し新しい魔法を覚えてもらう必要はあるけど、そんなに怖がることはないよ。あと、ドーラもレトに頼んでアーティファクトを作って貰うといいよ」


 実弾兵器に比べれば魔法を使った自然現象の攻撃は対処が容易だ。


 相手が前世における本物の技術者なら、僕はこの世界で最も魔法に詳しくなればいいだけだ。


 この世界にはこの世界の(ことわり)がある。


 実のところ、回復魔法を行使できるチート能力があるとわかったところで、僕は心の余裕を取り戻していた。


 よく考えてみれば、僕には優秀な婚約者たちがいる。相手をよく見極めて対処すれば簡単とはいかないまでもぼろ負けすることはない。


 今回だって結果だけ見れば僕たちの圧勝だ。


 相手は少なくない戦力を失っている。


 今後の動きに注目する必要はあるが、ビルネンベルク王都に進軍するか否かではっきりするだろう。


 僕たちは積極的に攻めることも考えた方がいいかもしれない。


 なんと言っても、ここで怖いのは増援がゴッテスフルス本国から来ることだ。


 それさえなければ、孤立した軍隊を排除するのはそう難しいことではない。


 ここは、ナターシャやタルを呼んで来て、ゴッテスフルス本国の援軍を止めるグループと、ヴァッサー以南の守りに集中するグループに分ける必要があると思う。


 ゴッテスフルス本国を牽制する意味でもヴァッサーは僕たちが占領する必要がありそうだ。


「シャルとクロが帰って来たら一度ヴァッサーまで退却しよう。多分、コトネたちが占領してくれているはずだ」


 ドーラは十分に回復しているようなので、帰りはドーラに運んでもらえばそんなに長くはかからない。


「はい。私もみんなに新しい魔法を教わらなくては!」


 今回の敗戦が悔しかったのか、カルラは気合いを入れ直したようだ。


 カルラひとりなら簡単に逃げ切れたのだろうが、仲間を守りながら戦うというのは想像以上に難しいことに気がついたのだろう。


 ドーラはなにも言わないが、名付け以来、自分にものすごい力が備わっていると思っていただけに、ショックを受けているのは間違いない。


 僕もまさかという事態にまで発展してしまった反省もある。


 結果は勝利だったけど、この戦いは僕たちに大きな転換機を与えてくれたのだと思う。



◆ ◆ ◆



 ヴァッサーは滞りなく占領されていた。


 コトネが持ってきた鉄猪の威力をヴァッサーの人たちは知っていたし、それに歯向かえる武力もないことを十分に理解していたようだ。


 ヴァッサーはラインと同じ港町でありながら、シュティレンの中間にあるため、南北を行き来する船の補給港としての位置付けが強い。


 ラインのような商人ギルドもなく、周辺で農業をしている人たちをまとめるための代官しかいない。


 代官はゴッテスフルス軍が北進を開始したあと、どこかへ逃げてしまったらしく、ヴァッサーの支配者は空白の状態だったようだ。


「市長はいるんだっけ?」


 この世界にも政治と行政を分けて考える制度があり、事務方(じむかた)トップの市長に当たる役職がある。


 役職の呼び方は色々だが、市長でも通じるようだ。


「それが市長も逃げたようです」


 状況を調べていたカルラが報告してくれた。


 逃げると言ってもどこへ逃げたんだろう。


 ヴァッサー方面にはゴッテスフルス軍がいるし、ライン方面は僕たちが支配している地域だし、北にも南にも逃げられない気がするけど。


「もしかして船で逃げたの?」


「どうやらそのようです。今、クロがはったインテリゲンの網に引っ掛かって、行き先を確認しています」


「どっち方面に逃げてる?」


「王都へ向かう航路のようです。かなりの大型船で直接王都へ向かうようです」


 そんな大型船がゴッテスフルス軍が出たあとすぐに出港出来たとは思えない。それだけの纏まった物資があるなら、真っ先に徴発されるだろうから、ゴッテスフルス軍を招き入れたのは代官や市長で間違いなさそうだ。


 未だに理解できないのは、ビルネンベルクの代官や市長が逃げた理由だ。


 ゴッテスフルス軍は鉄猪を破壊しているので、もしかしたら、代官も市長も本当は裏切っていないかもしれないけど、ここで考えられる最悪のシナリオはゴッテスフルス軍は宰相派と繋がっているということた。


 鉄猪の破壊は僕たちが鉄猪を破ったことと、さらに鉄猪を運用するための魔法使いがいないことからやったのかもしれない。


 タイミングがよすぎる気がするが、僕たちよりも優れた技術力があるのだから、通信系のイノベーションが起きていてもおかしくはない。


 宰相派と繋がっている場合は最悪だ。


 これからフェルドを攻めるにしても、まだ情報が足りない。


 相手に通信系のチートがあるとすれば、僕たちの不利は否めないなと思った。


「とりあえず、ヴァッサーを占領することに力をいれようか」


 ラインとヴァッサーを抑えていれば船でどこかへ行こうとするのは難しくなる。飛空船もあるが、それで軍隊を輸送するには積載量が足りなすぎる。


 南ビルネンベルクへの進攻を止めるにはシュティレンの港町を押さえておくのが一番だ。


「そうですね、私も新しい魔法を覚えてから間もないですし、魔法の習熟に時間をかけることにします!」


 カルラは言うが早いか、うんざりしているミーやハクの方へ駆けていった。


 カルラに覚えてほしい魔法は戦闘に役に立つ直接的なものより、後方で使う戦略的なものにしようと考えていたが、今回のことで考え方が変わった。


 どんなに戦略的に頑張ってもカルラの危険度は高い状況が続く。


 カルラの身を守るには直接的な戦闘力もつけなくてはダメだと思った。


「あのー」


 ソニアが恐る恐る話しかけてくる。


「難しい顔をしているみたいですが、話しかけて大丈夫ですかあ?」


「あ、うん。大丈夫」


 どうやら無意識に表情が変わっていたようだ。


「ヴァッサーの食糧の備蓄が底をついていたので、ラインから送ってもらえるように手配しましたあ」


 心なしかソニアは怒っているようだ。


「越冬に必要な備蓄まで持っていくなんて許せません!」


 まさか、内戦で焦土作戦するとは思っていなかった。


 難しいことを考える前に、目の前の問題を何とかしなければならないようだった。




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