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【17万PV】戦略級美少女魔導士の育て方  作者: 小鳥遊七海
第1章 無人島サバイバル
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193.陥落

 ヴァッサー陥落の知らせを聞いたのは、僕たちがエルフェンの負傷者を手当てし終わったときだった。


「クロ、それは本当なの?」


 先行して潜入していたクロはすぐにカルラに連絡を取り、カルラは僕の持つタレットを通じてドーラにクロを迎えに行くように依頼した。


 結果として、カルラのところへ戻るよりも僕のいる集落へ行く方が近かったため、ここにいる。


「はい。宰相派の軍隊はなにも出来ずに壊滅状態です」


 ビルネンベルクが内乱状態と言うことが知れ渡ったからか、シュティレンに隣接する国、ゴッテスフルス帝国がヴァッサーを攻め落としたらしい。


 ビルネンベルク王国は南北に長いので、一度攻められると、防衛線が長くなり、守るのが非常に難しい。


 前世の大英帝国とか、大日本帝国とかも同じような理由で、滅亡への道を進んでしまった。


 僕が鉄猪を無効化しなかったら、ヴァッサーの防衛隊はゴッテスフルス帝国軍を余裕を持って退けたかもしれないけどね。


「ここに来て第三の参加者が現れたことで、ビルネンベルクの内戦ではなく、複数の国が参加する大戦になってしまった。僕も考えが足りなかった」


 カルラの理想とする国とは段々遠くなっている。本当ならバルド将軍が王になってからカルラの王位継承権をあげていこうと考えていたのに、不足の事態が連続し、僕の目算はあっという間に崩れ去った。


「ゴッテスフルス帝国ってどんな国なのかな?」


 個人的にはヴァッサー奪還が最優先だと思っているが、ゴッテスフルスがヴァッサーを占領した意味を知りたかった。


 ラインは僕たちが占領したとはいえ、バルド将軍のビルネンベルク軍が近くに駐留している。


 そして、ヴァッサーの北側では宰相派のビルネンベルク軍がいる。今回のヴァッサー占領は宰相派の軍隊に戦いを仕掛けたので、北とも敵対しているということになる。


 ビルネンベルク軍は南北に分裂したとはいえ、周辺国と比べたらまだ強大な軍備があるのだ。そのビルネンベルクを敵に回す。


 そこまでの危険をおかす必要があることってなんだろう。


「ゴッテスフルス帝国は二年前に皇帝の交代があり、ビルネンベルク王国とは交易などを通じて友好な関係にありました。特に鉄鉱石を多く算出するので、それをビルネンベルクへ輸出して国内の整備を進めたと言われています」


 鉄か……。


 宰相派は秘密裏に進めるために自国で採掘していたと漠然と考えていたが、よく考えたら砂鉄にしろ鉄鉱石にしろ海岸近くでそんなに算出するわけないんだよね。


 となると、ゴッテスフルス帝国の狙いは鉄猪ということになる。


 優秀な魔工師がいたら今ごろはハッキングは完了して、動かせるようになっているかもしれない。


 クララを南に行かせたことで、こんなにも戦略の幅が狭まるとは思っても見なかった。


「クロ、ヴァッサーは城塞都市なんだっけ?」


「はい。崖の上にあり、背面は海になっています。港は城塞の外にあります」


「鉄猪を使えるようになると防御力はかなり上がるよねえ」


「はい。三十二台が配備させると、効率的に破壊するには空爆しかありません」


「クロが潜入して破壊工作すると何台ぐらい潰せる? クロが無事に帰ってくる範囲内で」


「少々お待ち下さい。計算してみます」


 クロが一台でも潰せるのなら、それを時間をおいて繰り返すという手もある。


「安全圏は六台です。しかし、一度成功したあとは破壊工作は困難になると思われます」


 それはそうか。相手も鉄猪が欲しいんだから守るよね。


 あとはヴァッサーに全部置いておく必要はないから、何台かはゴッテスフルス帝国へ送るかもしれないから、そこを叩くとか?


「ヴァッサーを無視してゴッテスフルス帝国へ攻めいるのはどうでしょう? 鉄猪を奪ったのなら必ず使おうとするはずです。そこを叩くのが一番効率がいいと思われます」


 そうなんだけど、出来れば他国と大義のない戦争をしたくない。


 今回のケースで言えば、ヴァッサーを取り返すための戦いならいいが、それをしないでゴッテスフルス帝国に攻めいるのは大義がないと判断される。


「やっぱり、ヴァッサー奪還作戦を立てよう。ヴァッサーの市民を守るのが王位継承権を持つもののつとめだし、鉄猪を量産でもされたら大変だしね」


 ビルネンベルク王国は量産体制があるものの、ゴッテスフルス帝国と敵対状態になったため、鉄鉱石がなく鉄猪の数を増やすことはできない。


 逆にゴッテスフルス帝国は、あの膨大な魔術式のお手本さえあれば鉄猪をコピーでき、自国の鉄で量産できてしまう。


 ファンタジーの世界に突如、機械化兵団が現れるわけだ。


「できれば、ヴァッサーへ先行する部隊と、ラインへ戻って増援をつれてくる部隊に分けたい。先行部隊の隊長をライラが引き受けてくれない?」


 ライラは特に嫌がるでもなく頷く。


「クロとハクはライラに着いていって。無理はしなくていいから、安全第一で。状況が大きく動くようだったら、カルラとドーラを向かわせるから、クロを通して連絡お願い」


 僕とコトネはドーラに乗って、一度ラインへ戻るつもりだ。ヴァッサーには三十二台の鉄猪があるため、こちらも鉄猪を持っていきたい。


 まだヴァッサーを攻略する良い作戦案は思い付いていないが、目標は鉄猪の情報をなるべく与えないことだ。


 だから、鉄猪自体をヴァッサーから出さないようにし、ヴァッサーに駐留している魔法使いを捕らえることが必要だ。


「ヴォルフがヴァッサーに着く前に終わらせても良いのでしょう?」


 ライラはその黒髪をさらりと流しながら問う。


「でも、安全が一番だからね。危ないことはしなくていいよ」


「ヴォルフよりも危ないことをする婚約者はいないと思います」


「え、僕が一番危ないの?」


 みんな揃って頷いた。


 なぜだ。僕は危ないことなんてなにもしていないと思うんだけど。


 腑に落ちないまま、僕たちは別れて行動することになった。



◆ ◆ ◆



 僕たちがラインから鉄猪に乗って進軍すると、ヴァッサーに先行していたクロから連絡があった。


「なんでもヴァッサーの鉄猪はすべて破壊されていたそうです。そして、ゴッテスフルス軍はそのまま北進し、フェルド港へ向かったとのこと」


 鉄猪がハッキング出来なかったのだろうか。それにしても鉄猪があるかもしれないフェルド港へ進軍していく理由はなんだろう。


 しかも、ヴァッサーの占領を維持しているわけではない。


 この行動の意図が掴めなかった。


 クロも情報をなるべく集めているというが、ゴッテスフルス軍と直接の接触があったわけではなく、情報を集めきれていない。


「このままヴァッサーに行っても仕方がないね。ドーラを呼び戻して、カルラと僕はゴッテスフルス軍を追いかけよう」


「ヴォルフはこのままヴァッサーへ行って下さい。ドーラと私がいれば大丈夫です」


 隣にいたカルラが僕に言う。


 僕はすごく不安だった。


 カルラが強いのは十分にわかっているし、ドーラと一緒なら兵士が何千人いても勝てるだろうけど、何か引っ掛かる。


 ゴッテスフルス軍は鉄猪を見ていたし、ヴァッサーの兵士や市民から鉄猪が何か聞いていただろう。


 新兵器である鉄猪を知った上でフェルドへ攻めていったのだ。


 戦争をする上で必要な戦力が鉄猪を上回っていたとしても不思議ではない。


「でも」


「大丈夫です。そろそろ私も一人立ちしたいのです」


 カルラもドーラも殴りあって友情が育めると考えている節があるから、本当に心配だ。


「まあ、そんなに心配ならお目付け役にウルドを連れていこう」


 ウルドがお目付け役になるとは思えないけど、ウルド自身は戦闘出来るわけじゃないから一緒に行動してもらえば無茶はしないかな。


「じゃあ、それで手を打つよ。本当に無茶はダメだからね。特に今回は鉄猪に対抗しうる新兵器を持っているかもしれないんだから」


「燃えますね!」


「ああ、燃えるな」


 僕の話を聞いていたのか、この二人は。


「敵は手強いほどやりがいがあります」


 カルラもドーラも浮き足立っているような気もするけど、敵の能力がはっきりわからないから、僕たちのなかで最強のふたりに行ってもらうのがセオリーなんだよね。


 選択肢がないのが恨めしい。


「じゃあ、ウルドを連れて行ってね」


「わかった」


「行って参ります」


 カルラとドーラは二人でウルドを呼びにいってしまった。


 僕はヴァッサーを占領したあと、誰に任せようか考えていた。


 グローセンにタルとサリーを任せ、ラインはスーとソニアに任せている。


 こうやって二人ずつ町に置いていくと、婚約者がいくらいても足りないんじゃ。


 そこまで考えて僕はなんで婚約者に限定しているんだ!と自分でも自分に突っ込みを入れた。


 とりあえず、ヴァッサーはレトに任せることになりそうだ。


 しかし、レトだけだと不安だな。一応、ハクも護衛に着けておこう。


「コトネ!」


 鉄猪を操作しているコトネは僕の隣の鉄猪に乗っていた。


 コトネは鉄猪伝いに僕のとなりに来る。


「なんや?」


「この際だから深い話をしようかと思って」


「へえ、なんの話や」


「コトネは異世界から来たんだよね? それって日本?」


 コトネは眉を潜めた。


「ヴォルフは日本を知ってるんか?」


 僕はコトネの反応が予想外で、ちょっと性急だっかなあと感じていた。





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