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【17万PV】戦略級美少女魔導士の育て方  作者: 小鳥遊七海
第1章 無人島サバイバル
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188.占有

「ふふふ。久々に二人きりですね」


 カルラと久しぶりに二人部屋に泊まることになった。ちょっと意地の悪い顔でそんなことを言われると、僕は期待してしまう。


 いや、いじめられるのを期待しているのではなく、カルラと話をするのが楽しみなんだ。少し前に話したときはカルラがどんな国にしたいかを聞いた。


 戦争のない国を目指していると聞いたときは、前世の僕が戦争を否定する国で育ってきた価値観があるお陰ですごい親近感がわいたのだ。


 カルラはちょっと戦いが好きなところがあるけれど、やはり力を持たないで生きてきたんだから、根は平和を望む性格なのだろう。


「カルラはさ、王を継ぐ気はないの?」


 バルド将軍が次の王になる気がない以上、カルラがなるのが順当な気がする。カルラの上にはレトがいるけど、レトが王になったら国が傾くだろう。別の意味で傾国の美少女だ。


「まだ年齢が若いというのもありますし、王になると自由が利かなくなるというのもあります。まだまだ魔法をたくさん覚えたいのです」


 僕からすればカルラはかなりの使い手になったと思うが、まだまだ足りないと思っているらしい。


「レトがここにいるとは思いませんでしたけど、レトから瞬間移動の魔法を教えてもらいました。こういう魔法もあるんだから、まだまだ私が知らない魔法で世界が満ちていると思うんです!」


「そうだけど、レトの魔法を使っちゃダメだからね。あの魔法は欠陥があるから。僕があとでちゃんと教えるよ」


「……実は使っちゃいました」


「大丈夫だったの?」


「はい。ちょっと上空に出ただけで、浮いて降りられましたし」


 いや、それはカルラだから大丈夫だったんでは? 本当にレトの魔法は油断ができないぞ。


「レトから他にも何かを教わってる?」


「え! えーと……」


 カルラは言いよどんで赤くなっている。


 これはレトから変な魔法を教わったな。


「レトの魔法は本当に危ないから、ちゃんと教えてね」


「い、いえ、魔法ではないんですけど……」


 カルラはちょっと横を向いて考えたかと思うと、僕に向き直る。


「ヴォルフとどうやれば子をなせるか教わったのです」


 なんと!


 僕まで赤くなってしまう。


 カルラは十三歳だし、そういうことは教わっておくべきだとは思うけど、相手が具体的なことを知っていると思うと急に意識してしまう。


「私ももう子を成せるようなので、いつでもお待ちしております」


 何を待っているの!


「わ、わかったよ。でも、カルラの体のことも考えてもう少し体が出来てきてからね」


 昔は若いほど丈夫な子を生むという理解があったのだろうが、前世では若すぎると母体に大きな負担が掛かってしまうことがわかっている。僕は少なくともカルラが十六歳になるまで待つつもりだった。


「あと子をなさなくても愛し合うことは出来るとききました。ヴォルフが私を愛したいときはいつでも言ってください!」


 レトは本当に余計なことしかしないな!


「私とヴォルフがそういう関係にならないと、あとの婚約者たちもそういうことが出来ないと聞きました。ヴォルフの考えもあるのでしょうが、私たちのことも少し念頭に置いていただけると助かります」


 それはそうなんだろうけど。


 僕はなんでみんながそんなに急いでいるのかわからなかった。この世界の寿命はそんなに短いわけではない。前世と同じく百歳を越える人もいるぐらいだ。


 亜人に関しては人間よりよほど寿命が長い。


「考えては見るけど、なんでそんなに急いでいるか教えて貰ってもいい?」


 カルラは僕の質問に驚いているようだった。


「ヴォルフは死ぬことを考えてないのですか? 私たちは皆、この戦いに望むに当たって死を覚悟しています。もちろん、ヴォルフが死んでしまうことも。そのときにヴォルフとの子が欲しいのです」


 今度は僕が驚かされる番だった。


 漠然とだけど、僕は自分が死ぬとは考えてなかった。もちろん、婚約者も死ぬわけがないと考えていた。


 根拠のない自信が僕をのんびりさせていたのだ。


「言われるまで気がつかなかったよ。確かに僕は誰も死なないと思っていた」


 その理由ははっきりしないけど、どうも飛空船の墜落事故から生き残ったことだとか、無人島から生きて出られたことであったりとか、港運が重なっていることで僕の感覚が鈍ったのだろう。


「もしかして何かお考えがあるのですか?」


「ないよ。今考えれば僕は幸運だっただけだ」


 それでも、今すぐにカルラとエッチするかと言えばそうは考えない。前世の感覚が抜けないからだ。


「僕は弱いからすぐに死んでしまうかもしれない。でも、僕が死んでも誰かがカルラを愛してくれるよ」


「誰かではダメなのです! ヴォルフでないと。それは他のものも皆同じです」


 僕がいなくても世界は必ずよい方向に巡るだろうし、カルラは若いのだからすぐに新しい恋にも出会えるだろう。そう思っての発言だったが、強く起こられてしまった。


「だいたい、ヴォルフは自分に興味が無さすぎです。ヴォルフが私の心の中でどんなに大きく成長したか見せてあげたいぐらいです」


「大きく?」


 カルラの中というのは、もちろん心のなかということだろうけど、僕が他人の心の中を占める存在になるとは思わなかった。


 僕自身の心のなかに誰かがいることは多かった。それは恋というわかりやすいものだけではなく、嫉妬だったり、羨望だったり、やり場のない怒りだったりした。


 カルラの中で僕がどんな存在なのか凄い気になる。しかし、気になると同時に不安もあった。


「最初はとても小さな感謝だったんです。でも、すぐに好きという気持ちが大きくなって、婚約者が増えていくなか、嫉妬もしたりして……私の中のヴォルフはとても複雑で大きな存在なんです。でも、これだけははっきりしています。私はヴォルフともっと関係を深めたいし、もっと複雑な関係になることを望んでいます」


 ちょっと意外だったのは僕がカルラを思うように「大好き」一辺倒ではないことだ。マイナスの感情を含めて僕との関係を望んでくれている。


 未だにマイナスの感情を避けるように生きている僕にとってみれば、カルラは物凄く大人に見える。大人と言えるような考え方ができなくても、大人になろうとするためにちゃんと考えている。


 僕も見習わないとならない。


 自分の中にあるものはいいことばかりではない。他人に見せるのは憚るような醜い感情や劣情が少なからず占めている。それは決してなくならないし、死ぬまで付き合っていかなければならない。


「僕もカルラと深い関係になりたい。何があっても離れられないような」


 カルラの目が潤む。


「凄く嬉しいです。もう他の婚約者が先にエッチしてもなにも言いません」


「しないし! もう!」


「ふふふ」


 カルラは照れ隠しをしたかったようだ。僕の反応を見て笑っている。


「ヴォルフ、キスしてください……」


 唐突に目を閉じる。


「うん」


 僕はカルラの側により肩を抱いて唇を合わせた。


 柔らかな唇の感触が僕の脳を電撃のように駆け巡る。前にキスしたときはこんな刺激的出はなかった気がする。


 僕は驚いて少し離れる。


 しかし、カルラの唇がそれを追うように近づき、またキスをした。


 また頭のなかが白くなる。


 カルラを求めずにはいられない。僕はカルラを強く抱きしめ、唇を貪るようにキスをする。


「あ」


 ふとした瞬間に離れた唇から漏れる吐息が僕をさらに刺激する。


「カルラ、ごめん」


 何にたいして謝ったのか自分でもわからないうちに、カルラの頬を撫でる。ビクッと震えた。


「怖い?」


「はい。ヴォルフをもっと好きになってしまいそうで……」


 本音を言えば僕はカルラを独り占めにしたい。だから、好きになってもらうことは好都合だ。


「好きになるのが怖いの?」


 これは自分でも意地の悪い質問だと思う。好きという感情が常に優先されるようになると、今の婚約者間のバランスを取り直す必要があるだろう。


「ヴォルフは好きという感情に支配されるのは怖くないですか? 私は常に冷静で客観的であれと育てられたせいか、ひとつの感情に染まることで判断を間違うのが怖いのです」


 カルラは王になるように育てられたのだから、そう考えるのは無理もない。


 僕も理由は違うけど、同じような育ち方をした。


 だからカルラの気持ちは何となくわかる。


「もちろん、怖いよ。でも、感情は否定することは出来ない。否定してしまったら、それこそ判断を大きく間違うことになる」


 感情は社会性動物の基本的な能力のひとつだ。それを否定することは自ら社会性がないと言っていることになる。


 人間は社会の中でこそ力を発揮する。それは前世でもこの世界でも同じだった。


「好きという感情はとても力がある。男の取り柄もない僕でも何倍もの力を発揮することができるようになる。カルラが好きだからこそ、僕は自分の見に余るような役目でも果たせるんだ」


 これは本心からそう思っている。


 カルラがいなければ僕は一介の商人で終わっていただろう。


 でも、カルラと出会い、カルラと共に歩いてきたことでものすごいスピードで僕が変わっていった。この世界に転生して人生をやり直しているという点を除いても僕は本当に変わった。


「だから、カルラか僕を好きになるのなら、その感情を受け入れて。その方が僕も嬉しい」


「はい。わかりました」


 カルラは一回り小さなタレットを取り出すと、僕に持たせる。


「これは?」


「御守りです。ヴォルフのことを好きすぎて離れたくないのですが、ヴォルフがそれを持ってくれればいつでも声が聞けます。もちろん、他の婚約者と一瞬のときは盗み聞きはしませんよ」


 そういう魔法を仕込んであるのは見ればわかるので、カルラの発言を疑うことはない。


「ふふ。僕もカルラの声を聞ける発明があればいいんだけどなあ」


「が、頑張って作ります!」


 僕は一生懸命になるカルラの顔を見て微笑んだ。




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