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【17万PV】戦略級美少女魔導士の育て方  作者: 小鳥遊七海
第1章 無人島サバイバル
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178.暗躍

 南北ビルネンベルクの境には、グローセンという港町があるらしい。


 ドーラにのって来たときは夜で町はほとんど見えなかったし、僕はザッカーバーグ領から出たことはなかったので、ビルネンベルク王国の大体の地理しか知らない。


 しかし、グローセンはビルネンベルクにとっては割と重要な拠点らしく、カルラは知っているようだった。


「グローセンは南北ビルネンベルクを行き来するときの重要な補給地点でもあります。また南ビルネンベルクから運ばれた砂糖の集積地にもなっていますよ」


 今さらだが、カルラにビルネンベルクの地理を教わっている。


 これからバルド将軍を支援しようと思えば、ビルネンベルク領内にどうにかして拠点を持つしかない。南ビルネンベルクは表だって行動出来ないので、フリーデンを隠れ蓑に使うのが一番効率がいいだろう。


 そうなると、グローセンをフリーデン配下にいれて、バルド将軍と密約を交わすのがもっとも自然だ。


 バルド将軍が王位に着いたら適当な名目で、カルラがグローセン討伐軍を率いてフリーデンの占領から解放してあげればシナリオとしては出来すぎだ。


 問題はグローセンをどちらの損害もなく、速やかに手に入れる方法だけど……。


「カルラはいい案がない?」


「メテオーアを町のとなりに撃てば黙って参加に入ると思いますよ」


 ダメだって! そんなことしたら一発でカルラの仕業って分かるから!


「私がやろうか?」


 僕が勉強するのに付き合ってくれているスーが手をあげる。


 そう言えばスーはチート能力を持っていたっけ。


 スーは菌が見えるという能力に加えて、菌に「お願い」ができる。ミーがお腹が弱かったのを菌にお願いして治すことが出来た。


 さらにそれを逆に使うと一時的ではあるがお腹を緩くさせることも可能だ。つまり、軍隊を一括して弱体化することができるのである。


 一般市民に適用して治療薬といってタルあたりが適当な水を配れば聖女の出来上がりだ。


 今回は後でビルネンベルクが取り返す予定なので、聖女パターンは避けたい。


「スーにお願いするね。あとはサリーかタルがフリーデンに兵を出してもらうように頼めば……」


「それは私にお任せください」


 ライラが手をあげる。いつの間にかみんな揃っていた。四人部屋が狭く感じる。


「妖精王と北の妖精から兵を借りてきます」


 妖精なら食事入らないし、武器や防具もいらない。兵站(へいたん)はないに等しい。


 ドーラの宝物を借りるとしても安く上がる方が僕としても助かる。


「そこまでフリーデンとは別に自前で用意出来るのなら、いっそ自由都市にすれば?」


 スーが飴でも買ってくれば?みたいなノリで提案してくる。


「自由都市って?」


 質問したミーに限らず、みんなよくわかっていないみたいだ。そういう僕も何となくしか知らない。


「小さな国のようなものね。どの国にも納税しない。その代わり町を守るのは自分たちの手で行う。商業都市によくある形態よ」


 この世界ではまったく見ない形態なんだけど、スーが口を滑らせたことがわかると面倒なので、黙っておく。


 確か日本でも堺や博多は自由都市であった歴史があるとか。


「ふむ。ヴォルフが建国するのか。思ったより早かったのじゃ」


 建国の先輩が何か言っているが、そんな簡単に建国できるのなら、世の中は国だらけになっていると思う。


 あと僕は正統性がないので、グローセンの人たちが支配を容易に受け入れるとも思えなかった。


 今はスーとライラの協力を得て武力支配と言うのが一番かな。


「スーは早めに疫病に見せかけた体調不良を仕掛けてもらえる? スーの護衛をミーとナターシャにお願いするね」


 情報を仕入れたいな。


「ソニアはグローセンに行ったことある?」


「あります。お話聞いてきましょうか?」


「うん。お願い」


「クロ出番」


 クロがひょこっと肩に飛び乗ってきた。


「そうだね。クロはソニアの護衛と通信役をお願いするね。ソニア、遠く離れていてもクロに話してくれればカルラが聞けるから」


「クロは優秀ですねえ。欲しいです」


 ソニアがクロを物欲しそうな目で見る。


「クロはヴォルフのもの」


 クロは誰のものでもないよ。と思ったけど、名前をつけると所有者のような立場になるらしく、時たまドーラやライラにも「所有者なんですから」みたいなことを言われる。


 所有者というのが何か引っ掛かりを感じるんだけど、僕が考えるような意味ではないようで、もっと本質的な、この世界の理に組み込まれている概念ということなんだと思う。


「あとは兵の調達だけど、ライラとユキノにお願いするね」


 北の妖精はユキノの方が頼みやすいだろうし。


「妖精たちの協力の見返りは何がいいかな?」


「要らないとは思いますが、気になるなら砂糖菓子でもあげれば喜ぶと思いますよ」


 妖精は砂糖菓子を喜んで食べると聞いたけど、それは誰かが盗み食いをしたという例え話だと思っていた。まさか本当だったとは。


「それなら都合いいね」


 これから攻めとる予定のグローセンは砂糖の集積地にもなっているし、砂糖が潤沢にあるから砂糖を使ったお菓子もたくさんあるだろう。


 これで準備は整ったけど、なんか見落としている気がするんだよね。グローセンを拠点にして、ザッカーバーグからの荷物をバルド将軍に届ける。逆に王都へ輸送される物資はなんくせつけて送らせる。


 逆らう人たちもいるだろうから、そこは妖精兵の力を借りて鎮圧する。


 宰相派が居たらこちら側に取り込めないか確認する。取り込めなかったらさようなら。


 それぐらいだろうか。


「じゃあ、早速出発するぞ!」


 ドーラを先頭に、スーたちが部屋を出ていく。ドーラが居なかったら作戦の開始が何日もあとだったんだよね。全然考慮してなかった。


 宰相派はここまでのスピードで事が変化するとは思っていないだろうから、かなり慌てることになるだろう。


 宰相ってどんな人なんだろうね。


「ヴォルフが考えると、すぐに実現してしまいますね。しかも、なにも失うことなく」


 カルラが僕を誉める。


「たまたまじゃないかな?」


 誉められて悪い気はしないけど、僕の実力とは思えない。もっと力があったら、もう少しうまくやれそうな気もするんだけどなあ。


「ふふふ。たまたまでも結果がすべてですよ」


 ビルネンベルクの人たちはそういう考えの人が多い。結果がすべてで、過程を重視しないから僕は商人のところへ養子に出されることになったんだけど。


「国の名前は決めたのか?」


 タルに問われて僕は考える。国ができるわけではないけど、暫定的に名前をつけた方が何かと分かりやすくなる。「妖精統治グローセン」でも問題ないけど、もう少し分かりやすい方がいい気もする。


「スーの話から取って『自由都市グローセン』にしようか。なんとなく商人の人たちに受けがいい気がするし。あと、自由都市と名付けるからには税金は免除しておこうかな」


「ふむ。ヴォルフはよい為政者になれそうじゃな」


 タルの呟きの意味がよくわからなかったけど、僕は自由都市という響きがなかなか気に入っていた。



◆ ◆ ◆



 妖精王と北の妖精から兵を借り受け、約千人の戦力を用意した。ビルネンベルクの北も南もグローセンを守るための兵力をさくことはなく、町の守備隊もスーが無力化していた。


 僕たちはなんの抵抗を受けることもなく、グローセンに入る。


 町の入り口でなぜか町を支配している豪商総出で出迎えを受けた。


「これはヴォルフ様。よくぞおいでくださいました。話はソニアから伺っております」


 ソニアには情報を集めてほしかったんだけど、逆に僕の情報が伝わっている。


 ソニアの方を見ると「やっときましたあ」とやりきった顔で僕を見ていた。


「これはわざわざお出迎えありがとうございます。僕はヴォルフ。これからお世話になります」


 僕は怒るわけにもいかず、笑顔で商人たちに挨拶を返す。


「ヴォルフ様には寛大な処置をしていただき大変感謝しております。我々はヴォルフ様の意図に沿うよう、すでに王都向けの便の休止を決めました。また日持ちのする食糧を多数用意しております。運ぶ準備を整えている最中です」


 あまりにも手際が良すぎる気がする。


「ありがとう。では、僕も自分の役割をはたしましょう」


 そういって背後に控えているノームたちに指示を出す。


「町の治安を守るために妖精が力を貸します。また港も大変でしょうから、雪の妖精たちが力を貸しましょう」


 僕が言っていることは「これから実効支配を始めます」という意味になる。妖精たちには怪しい動きがあったら報告するように伝えてある。


「ご、ご配慮、恐れ入ります」


 商人は七人いるのだけど、そのうち二人の顔色が悪い。すでに売れている積み荷があり、それを出そうとしているのだろう。


「ドーラ、港から出る船を押さえて」


「わかった」


 ドーラはすぐに飛んでいった。


「カルラ、僕たちも港へ行こう。カルラの力が必要になるかもしれない」


「わかりました」


 カルラは威嚇するように二十騎ほどのタレットを展開する。


「これでひとなぎすればいいんですね?」


 そうじゃないけど、見たことない魔法に商人たちは冷や汗が止まらないようだ。ちょうどいい脅しになったかもしれない。





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