175.魔戦
ご飯を食べ終わったあと、タルの先導でブラウヴァルトの西にある森の中に来ていた。
ここは少し開けた丘になっていて、ブラウヴァルトの町が見下ろせる。辺りいったいは惣元になっていて、森が多いブラウヴァルト周辺にしては少し違う感じだ。
まるで何年か前にここで大きな破壊行為があったような。
「ここは神域のひとつじゃから何も気にせずに戦うとよい。骨は拾ってやるからな」
タルはそういうけど、二人が本気で戦ったらどっちか死んじゃうんじゃない?
「あと、カルラはメテオーアは禁止ね」
「使いません!」
怒られてしまった。カルラはヒートアップすると何するかわからないからなあ。
「メテオーア使えるの?!」
ミーはここに来て誰に喧嘩を売ったのか理解したようだ。
「ちょ、ちょうどいいわ。それぐらいじゃないと私の相手にもならないだろうし!」
完全な強がりだ。足がめちゃくちゃ震えている。
「戦う前にやめておいた方がいいと思うよ」
「なんでよ! 私だって強いんだから!」
カルラは全包囲から撃てるレーザーあるし、どう考えても勝てるとは思えない。
「さっさと始めるわ。ヴォルフが精神攻撃してくるから」
ミーは僕を押し退けるとカルラの前にたつ。巻き込まれたら大変なので、僕も下がってみることにする。
一応ドーラとタルが守ってくれるらしい結界の中にみんな入る。候補も含めて婚約者たちが全員揃っていた。
「どっちが勝つかな? 私は魔法に関してはあまり詳しくないからな」
ナターシャはワクワクしながら二人の戦いが始まるのを待っていた。他の婚約者たちも似たようなもので、二人の戦いが楽しみなようだ。
カルラの魔法を目の当たりにしているのは無人島からいるメンバーのアイリやドーラたちなので、他のみんなはあまりカルラのすごさはわかっていないようだ。
「では、わしの合図で始めるとよいのじゃ」
ミーを応援しているのはフリーデンのメンバーだ。スーもなんだかんだでミーのことが好きらしく、応援している。
「始めるのじゃ!」
タルの合図でカルラのタレットが一斉に飛び出していく。まだレーザーを放たないのは、一気に勝負をつけるつもりだからか、ミーを殺してしまう可能性を考えてなのかはわからない。
対するミーはツララを自分の前面に展開している。ミーが氷を動かしているところは見たことがなかったけど、どうもカルラのように操れるようだ。
カルラはタレットの一部をツララにぶつけて壊す作戦のようだ。それにしてもタレットはいくつぐらい飛んでいるんだろう。
無人島のときより格段に数が増えている。この前の戦闘では直接カルラを見てなかったから、これは僕も驚いた。
ミーのツララは無数のタレットの直撃を受けてバラバラになる。
「なっ!」
ミーは驚いている。だが、すぐに厚い氷の壁を作ってタレットが自分に飛んで来るのを止めた。
「それ固すぎよ!」
ジリコニウム銅なので、氷ぐらいなら余裕で砕けるようだ。もうグラビィタだけで勝負がつきそう。
「もう!」
ミーは氷を拡大させてタレットを氷の中に閉じ込めた。
「くっ!」
カルラの表情を見ると、タレットの制御ができなくなってしまったらしい。いくつかのタレットを残して氷の壁を攻撃するのをやめた。
「じゃあ、今度はこっちの番よ!」
カルラの頭上に無数のアラレが降ってくる。勢いが強く、直撃したら血が出るだけじゃすまないだろう。
カルラが横に滑るようにして動いてこれを避ける。なに今の機動。人間業じゃないんだけど。
「あれはカルラの新しい魔法で空中移動らしいです」
クララが解説してくれた。たしかにわずかに浮いて移動するホバークラフトみたいだ。
「その実体は体に取り付けたタレットを動かしているだけみたいですけど」
カルラ自身が段々戦略兵器になっているような気がするぞ。
「あんな無限機動の動きをされたんじゃミーは攻撃を当てられないんじゃないの?」
「ミーは割と頭がいいんだよ」
僕の呟きにスーが答える。
九十六歳なんだから、そこそこの知恵は回るかもしれないけど、はじめてあったカルラの癖を短時間で掴めるほど戦闘慣れしているとは思えない。
ミーを中心に氷が張り巡らされる。地表が氷り、常人であればツルツル滑るか、靴が張り付いてマトモに歩けなくなる。
でも、カルラは少し浮いた状態なんだから、これは意味ないのでは?
「さあ! これからが本番よ!」
ミーが威勢良く声をあげるが、カルラは冷静なようだ。いや、顔が変な風に笑ってる。楽しいみたいだ。
「カルラってあんな顔もするのね」
スーが少し驚いている。僕も最初にあったころのカルラとは違って自信に満ち溢れた顔をするようになったと思う。
「カルラは海賊の血を引いているというビルネンベルク王家の姫だしね。戦いは好きなんだと思う」
「え? カルラってお姫様なの?」
おや、まだ話してなかったか。
「うん。お姫様なんだよ。第三王女で王位継承権第十七位」
「道理であの年齢で貫禄あると思った」
貫禄については同意だ。カルラは魔法を覚える前は無力に等しかったからその権力を最大限に活かす方法を知っているのだろう。
カルラが単純な魔法を駆使して色々なことをする応用力を持っているのはそういった境遇のおかげかもしれない。
それに加えて今は魔法が使えることでほぼなんでも自分で出来るようになって、王位継承権を持つものとしてはトップレベルの実力者になったのではないだろうか。
僕が考えを巡らせているうちに戦いは第二段階にはいったようだ。
ミーが無作為に降らせていたと思ったツララは地面に突き刺さり、新しい氷の壁となっている。
さっきのタレットが氷の壁に取り込まれたことからわかるように迂闊に触るとすぐに氷付けにされてしまう。
そして、いつの間にかカルラの回りは氷の壁だらけになっている。はた目から見ても大ピンチだ。
「さあ、逃げ道はなくなったわよ!」
ホバーがどういう魔法か正確には知らないけど、空を飛べるまではいかないようだ。仮に空を飛べたとしても上からツララが降ってくるので、安全とはいいがたい。
僕がカルラと同じ状況に置かれたら即行で降参するけど、カルラには考えがあるようであきらめていないようだった。
「ミーは絶望的な状況に出会ったことがないの?」
氷に囲まれながらカルラが笑う。
氷の魔法を使っているのはミーの方なのに、まるでカルラが氷を操っているように見える。
多分、余裕が違うのだ。
カルラは絶対絶命の状況だとは思っていないばかりか、この状況を自分のものにしているかのようだ。
「降参しなさい! 次の攻撃で終わりよ!」
「ふふふ」
降伏勧告に不適な笑い。
「もう! しらないから!」
ミーの台詞と共に大量のツララがカルラに向かって降り注ぐ。
何もないままツララが突き刺さる。
「カルラ!」
僕は思わず叫ぶ。見ているみんなも、魔法を使ったミーでさえ叫んだ。
そして、一瞬の静寂の後、氷が爆発する!
細かくなった氷の破片が周囲に飛び散った。僕たちに向かってくる破片はアイリとナターシャがすべて弾いた。
はじめて見たけど、アイリもナターシャも凄い剣さばきだ。このレベルはもうアニメでしか見たことないんだけど。
「あははは!!」
そして、弾けた氷の中からカルラが表れる。もう魔王の登場シーンみたいだ。
「楽しい! 楽しいよ!」
怖い!
血だらけなんですけど、本当に大丈夫なんだろうか。
「さあ、続けましょう! 氷をつかった魔法をもっともっと教えて下さい! 師匠!!」
師匠というよりもう遊び相手に近いんではないだろうか。今までカルラはめいいっぱい魔法を使えるような場所や相手はいなかった。
よく考えたらドーラ相手にも余裕があったということだけど、それは考えないようにしよう。
「もう。カルラったなんなの?!」
そういいながらも大きな氷のかたまりを自分の頭上に作り出した。
「これは凄い硬い氷なんだから!」
そう言いながら放つ。
カルラもそれをマトモに受けるつもりはないようで、目の前にタレットを展開する。
「そんなんじゃ受け止めれないわよ!」
ミーはそれでも止めるつもりはないようで、巨大な氷を投げつける!
カルラはニヤリと笑った。




