161.電光
本日二話目です
カルラに教える新しい魔法は、由緒正しき魔法で「ライトニングボルト」という魔法をもとにしている。その性質は電撃なのでエネルギーを操る火系の魔法に属する。
ライトニングボルトは色々な異世界転生小説に出てくる有名な魔法でその特徴は貫通力と直進性にある。前世で言えばレーザー兵器がイメージに近い。
ということで、カルラに教えるのも増幅光だ。
レーザーは仕組みが難しく、カルラには理解し難いので、魔法の術式を呪文で呼び出せるように儀式を使ってもうひとつ別の呪文とまとめて登録した。
「大変強力な魔法を教えます。光を使った魔法で、魔力を直接相手にぶつけるようなものなので、魔力も大量に消費するものです。長時間の運用はできませんが、その分、威力は申し分ないので要所要所で使えば凄い効果を発揮すること間違いないです」
僕はカルラに呪文を教えて、まずは空に向かって撃つように指示する。
「そんなに強力なんですか?」
カルラもシャルも半信半疑のようだ。
「僕も自分で使える訳じゃないからね。やってみないとなんともいえないんだ」
こういうときはもどかしい。
「じゃあ、撃ちますね」
カルラがレーザーの呪文を撃つと細い光の筋が空高くまで伸びた。しかし、ただそれだけだった。ずっと先まで光は確認できるが爆発などしない。
「地味です」
「地味ですね」
「いやいやいや! 凄い威力だよ? あんなに先まで光の筋が拡散せずに延びてるんだし」
「何かに向けて撃って見ましょう」
クララの提案に僕は用意していた鏡を取り出し、カルラからの射線がちょうど四十五度になるように置いた。
でも、前世でフェニックス財団のあの人の話を見たとき鏡も一瞬耐えただけだったので、カルラには一瞬だけ撃ってみてと言い含める。
「そんなに心配することないと思いますけど……」
僕としてはカルラのレーザーは「なぎはらえ!」レベルだと思っているので、扱いには慎重を期したい。
「撃ちます」
カルラが鏡に向けてレーザーを撃つと当たった瞬間に鏡が粉々になって飛び散った。さらにその後ろの岩を抉り、周囲の岩をどろどろに溶かす。
その段になって初めてカルラはレーザーの発動を止めた。
「これは……」
みんな言葉が出ないようだった。
「人間には当てたくないですね……」
シャルの感想はもっともだ。こんなの人間に当てたら爆発して肉片が四散してしまう。
「大体の威力と使用方法はわかりました。これって私から撃つ必要ないですね。インテリゲンと同じ方法で小石のなかに書き込んで使用できそうです」
確かに原理は理解するのに難しいが、仕組みは簡単なものだ。小石にも書き込める。
「いくつか雛形が考えられますが、まずは王道からやってみますね」
カルラはひとりで納得しているようで、どんどん話を進めるが、カルラ以外はさっぱりわかっていない。
カルラがいつも持っている小石は硬度の高い宝石に代わっている。グラビィタですぐに壊れてしまうので、宝石にしたそうだ。
ちょっと勿体ない気がするが、そこまで価値が高い宝石ではないからいいそうだ。
宝石が空中に上がり、カルラの真上に並ぶ。
そして、カルラが合図するとレーザーが宝石から空へ放たれた。
完全に剣の名前を冠する戦闘機のオプション攻撃だ。
「えげつない」
クララがつぶやいた。
えげつないどころではない。谷にいる兵士を撃つとき、自分は射線の確保のために少し身を乗り出さないとならないが、これがあれば安全を確保した上で攻撃が出来る。
それだけではない。
後ろから攻撃したり、小石を周囲に配置すれば全方位から攻撃したりできる。
「しかし、威力はそこまで出ないですね。グラビィタの魔力をアブソで吸収させているんですが、効率は悪そうです」
オプション攻撃は、どうやらレーザー、アブソの組み合わせで出来ているようだ。
「流石、カルラ! 魔法使わせたら天才ですね」
確かにクララの言うとおりだった。カルラの応用力がすざましい。レーザーを離れた任意のところから射撃に使うのは、リモートコントロールが不朽していない、この世界では画期的だ。
「ヴォルフ、光には魔力が宿っていないので、黒虎には吸収できないです」
シャルの意外な言葉に僕はびっくりした。レーザー光を作る部分だけ魔法にしたと言っても、空へ撃った実験結果をみると、凄い威力だっただけに、魔力的な何かが関係していると思ったが、単に発射するカルラの魔法が凄いだけだったようだ。
「いきなり、シャルに向けて試さなくて良かったね」
「もう少しでわたくしミンチ肉にされたところでしたね……」
「ふふふ。ハンバーグが食べたくなっちゃった!」
それはどうなんだろう、カルラ。ちょっと猟奇的な雰囲気を感じるよ。
「なんにしろ、これがあれば味方が前にいようと撃ち放題ですね」
クララの感想で雪の妖精の使い方が決まった気がした。
妖精王の軍隊は明確に敵対していない雪の妖精たちは攻撃出来ないだろう。仮に攻撃したとしても、雪の妖精の方が強いので被害はほとんど出ない内に戦闘は終わると思われる。
ちょっと卑怯な気もするけど、騙していないし、対抗手段がなければ退けば良いだけなので、余計な恨みは買うまい。
何よりもいいのは、今回出てくるだろう、どんな妖精にも有効なことだ。正にレーザー様々だね。
「これって、間隔開いてもいいから、撃ち続けられるの?」
クララがなにか考えながら言った。
「大丈夫だと思います」
カルラは見本をつくって転がした。確かに数秒おきにレーザーを撃っている。
「どうするんですか?」
カルラの問いにクララは手に持っていた滑車になにか施す。
「レーザーを一旦止めて」
カルラが作った見本を滑車に取り付けた。それを横におき、ターンテーブルのようにする。そして、呪文を唱えて何かを書き込んだ。
「動くものを追いかけるように設定しました。暫くの間、動かないでください」
みんなが頷く。
「では、カルラ。再度レーザーを発射するようにしてください」
カルラが簡単に呪文を唱えると再びレーザーを一定間隔で撃ち始めた。
少し向こうにある木々から葉がひらりと落ちると、レーザーはそれを正確に撃ち抜く。
何枚か落ちたときは、そのうちの一枚だけ撃ち抜かれた。
僕が前世のFPSゲームで見た、自動追尾システムが着いた砲台そっくりだった。ここで兵器のイノベーションが発生してしまった。しかも、こんなに簡単に、何段階兵器の進化をすっ飛ばして。
何回かそれが繰り返されると、カルラが呪文を唱えて止めた。
「クララ。これは凄いね」
問題は無差別に動くものを撃ち続けることと、撃ち続けるがゆえに相手にばれやすいことだけど、このままでも強力な防衛兵器として使える。
「妖精だけを狙ったり、特定のアイテムを持つ人を除外する機能をつければ今回の戦争には使えそうですね」
それって人工知能だったり、識別信号だったりするわけで、イノベーションは連続して起こるものだと言うことを実感した。
「カルラ以外が使えるように、何か鍵を作ったらいいのでは?」
シャルもアイデアを出すと、そこからはブレスト大会になった。クララはみんなの意見を聞きながら、紙に思い付いたアイデアを書き出していく。
それが一段落すると、カルラに元にする材質の質問を始めた。
カルラの話によるとやはり宝石が書き込める領域が大きくて、複雑な機能をつけやすいそうだ。またクララもそれには同意していた。
「それならエメラルドと銅を化合してできるベリリウム銅なんかどうかな?」
ベリリウム銅は鋼の合金ほどの強度ではないが、非常に硬く鉄を加工する工具などに使われる。
「なんですかそれ!」
どうやらクララの好奇心を刺激してしまったようで、僕にキスでもしそうな勢いで迫ってくる。
「サファイアと銅を化合するとか聞いたことありませんよ! サファイアは珍しくてほとんどとれないんですが、他にはないんですか?」
僕が知っているのは、異世界転生小説で「最強の銅の剣」を作る話を見たからだ。そのなかで最強はベリリウム銅だった。
その次の次ぐらいにジルコニウム銅があったはず。
ただジルコニウムが何から取れるのか僕は覚えていない。確か、レアメタルのひとつで花の名前のような鉱石から微量に取れるはずだ。
なんだったかな。
「一応、名前だけ知っているんだけど、ジルコニウム銅という化合銅が硬度が高かったはず。ただ何と銅を混ぜたらいいのか覚えていないんだよね。何かの鉱石から取れる結晶だと言うことは知っているんだけど」
「それだけヒントを貰えば充分です! さあ、カルラ。最強の銅を作りますよ!」
クララは時々カルラに原材料の分離を頼んでいたようで、カルラは本来液体に使うトレナンを、固体や気体にも使って協力していたようだ。
「あ、少し思い出した。たしかダイヤモンドににているけど、ダイヤモンドではないジルコンという鉱石があれば、それを使えば良いと思う」
ジルコンは昔から無色透明なものはダイヤモンドとして宝飾品に使われていることがあるという話を読んだことを思い出していた。
うちにはドーラもいるし、もしかしたらドーラのコレクションの中にあるかもしれない。
「多分、これです」
カルラがダイヤモンドに似た宝石を見せてくる。僕は宝石鑑定は出来ないので、数あるダイヤモンド類似石の中でこれがジルコンと断定はできない。
「トパーズほどではないですが、この宝石は硬いのです。名前を知りませんでしたが、これがジルコンと言う宝石なのですね」
流石は本物のお姫様と言うところだろう。
「クララ、銅を用意してください。早速帰って実験してみましょう」
宝石からできる固いか銅にカルラも興味があるらしい。
「なんだか理科の実験みたいになってきたな」
僕は連れだって帰っていく三人を見ながらそんなことを思っていた。
「最強の銅の剣」は架空の小説です。
そして、ベリリウム銅とジルコニウム銅のどちらが固かったか思い出せないまま書きました。




