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【17万PV】戦略級美少女魔導士の育て方  作者: 小鳥遊七海
第1章 無人島サバイバル
50/181

150.領域

 待合室の部屋の扉が開けられると、そこにはタルそっくりの少女が立っていた。後ろにはカーリーが付き従っている。


「ようこそおいでくださった。わしはタル。このブラウヴァルト神殿の主祭神じゃ」


 少女はタルの双子というべき容姿だったが、その姿はタルとは異なっていた。


 まず髪の色が虹色に見える。禍々しい気配というのだろうか、タルの落ち着いた髪の色と比べると不安を覚える。


 そして、目が黒目しかない。いや、瞳はあるのだが、白目である部分が黒く塗りつぶされているのだ。化粧でもしているかのように目の回りに塗られた墨がより禍々しい感じを出していた。


「タル、あやつは切ってよいか?」


「タル、やりますよ」


 不穏な空気を感じてバルドとカルラが臨戦態勢にはいる。即時に切りかからないのは見た目からタルの関係者だとわかったからだろう。


 しかし、僕には物理攻撃が聞くようには見えないんだけど、二人とも何か考えがあるんだろうか。RPGによくある物理攻撃無効の能力があるかのように時々透明な板が光っている。


「タル、あれは?」


 神様ならタルの姿を借りているだけなのかも知れない。それならタルに説得してもらうのもありだ。


「わしが現出して脱け殻になった依り代に集まったよくないものの集合じゃな。あれは面倒だぞ。わしと同等の力をもっておる」


 しかし、そうは問屋がおろさなかった。


 こんなことならタルの持っている力をちゃんと聞いておくべきだった。そうすれば何か対策を打てたはずなのに。


「カーリー、正気にもどれ」


 タルの言葉にカーリーは反応しない。操られているとしたら厄介だな。


 僕にはオカルトな対抗手段がない。魔法はそのほとんどが物理的な現象を扱うものだ。僕が知る中で唯一の例外は回復魔法だ。邪悪なる意思に回復魔法が効くとは思えないし、なにより僕は魔法が使えない。


 何かヒントになることはないかな。


 そう言えば、タルは「空になった依り代」と言っていたな。でも、タルの依り代は古い鏡になっていたはずだ。


 タルと初めてあったときは、古い鏡から返信していたんだから、間違いない。


「タル、古い依り代って?」


「もともと主祭神を形どった人形があり、わしはそれに宿っておった。しかし、あれだと持っていくには重いじゃろ。故に古い鏡にかえたわけじゃ。しかし、神域に置いてあった人形によくないものが侵入出来るとは一体何が起きているんじゃ……」


「お主ら、わしを偽物だと断じているようだが、そちらの方が偽物なのだぞ」


 黒タルは僕たちのやりとりを見て、自信満々に断言した。確かに黒タルの言うとおり、こちらのタルが本物である証拠はなにもない。


 僕としてはカーリーの様子がおかしいのに、それを気に止めていない黒タルの方が偽物の可能性が高いと思うだけだ。


 そして、なにより僕の婚約者になったタルは偽物だろうと本物だろうと信じるだけだった。


「ほら、わしが本物じゃと言う証拠にわしの子らを呼び出そう」


 そう言うと三人の男性が後ろから出てきた。呼び出すというと、目の前に突如として召喚するイメージだったけど、予め召喚していたのか。


「タル、あの人たちは?」


 タルの表情が歪む。


「本物じゃ。あんな低級の淀みに操られおって」


 とても悔しそうだった。自分の子供が忌み嫌っている淀みという敵に操られているというのは、親としては苦々しい気分だろう。


 しかし、タルが一瞬で祓えないと言うことは、神様も万能ではないし、淀みが神に対抗できる手段を持っていることを表しているのではないだろうか。


「そっちのタル。目的はなに?」


 淀みが神の依り代を使って現出したのだから、何か目的があるはずだ。僕の理解が正しければ、淀みとは霊みたいなもので、現世に執着を持った意思の塊なんだと思う。それならば、目的を達成させてあげるか、消滅させてあげればいいはずだ。


「ははは。わしは本物ゆえ、本物がすることをするだけよ」


 黒タルは悪いことをしようと思っているわけではないようだ。もしそうなら放っておいてもいい気がするんだけど……。


 いや、逆に考えよう。本物らしく振る舞わないと存在を維持できないんじゃないのか?


 本物らしく振る舞い、存在が固定化されたところで悪さをし始める気がする。


「タル。黒タルは『本物』になることで存在を固定化しようとしているんじゃない?」


 僕は考えていたことを小声で伝える。


「まあ、そうであろうな。わしがかつてそうであったように、神になるには信じるものが信じる通りに行動する必要がある。何れは自我が出来ようが最初はそうするほかない」


 なるほど。


 黒タルは神様のなりそこないというわけだ。本来なら意思を持つことも敵わない淀みがたまたまあった依り代を見つけ、それを媒介にすることでここまでの力を得た。


 しかし、タルとして行動することが信じるものたちが信じるように行動することになるため、まだ自由には動けないということなのだろう。


「しかし、厄介なのは存在を消滅しようとするものは敵として扱っても問題ないことじゃ」


 真正面から戦うのなら神様としてのタルの能力をフルで使えることになる。普通に考えてもそれは得策ではない。


「ならば、黒タルを偽物だと周知させればいいのではないですか?」


 クララが提案してくる。


「それはダメじゃ。カーリーほどの巫女が操られるのであれば、その辺のものでは抵抗できぬ」


 僕にはひとつアイデアがあった。それをするには黒タルの元々の材質を知る必要がある。


「カルラ、あの依り代の元々の材質はなんだった?」


「木の人形だったと思います」


 ならば問題ない。魔法的に木は有機物ではあるが、その生命を止めると、無機物と同じように扱える。神様が生きていると言えるかわからないが、多分無機物として扱えるはずだ。


「カルラ、インテリゲンを作ったときと同様に、振動(バイブラ)をめいっぱい書き込んで」


 カルラは僕のやりたいことを理解したようだ。


 このアイデアは、無人島にいるときにカルラがグラビィタで操作した小石を使って、木に擦り付け火を起こしたことをヒントに思い付いた。


「少し時間が掛かります」


「何をしても無駄じゃ。神は倒せぬ」


 黒タルは自信たっぷりだった。確かに神そのものだったらこの手は使えなかった。


 何故なら神は依り代に対して、その一部をコピーしたに過ぎない。依り代はあくまでも入れ物であって神そのものではないのだ。


 そして、黒タルは神ではないがゆえに依り代を使いきっていなかったのだ。


 カルラが時間がかかるといったのは、依り代の余った領域が大きいことを示していた。


 通常の木ならそこまで魔法を書き込む容量はなかっただろう。しかし、タルが長年依り代として使ったことで木は変化し大きな容量を持つ神木と化していたのかもしれない。


 そう考えると燃やしてしまうのは勿体無い気がする。


「黒タル。降参しない?」


 僕は思わず助け船を出す。相手は淀みとは言え、準神様ぐらいの格は得たはずだ。何か別の依り代に移ってくれれば、助けられるんじゃないかと思った。


「降参などするものか。わしはブラウヴァルト神殿の主祭神じゃぞ。一番偉いんじゃぞ」


 黒タルの言うことは本当なんだろうなあ。


 僕は自分の婚約者になったタルを見る。タルは視線をそらすと、ボソッと「くそタルめ」と呟いた。


「もう少しで終わりそうです。一番初めに書いた術式から起動します」


 カルラは書き込み終わった術式を起動しはじめる。黒タルの外見にはなんの変化もない。今は単に振動しているだけだからだ。


「もう勝負は着いたよ。黒タル。降参して別の依り代へ移ろうよ」


 もう一度だけ説得を試みた。


 みんな黒タルは倒すべき敵として認識しているみたいなんだけど、僕は神様の卵という存在に興味があった。


「ねえ、タル。小さめの依り代ってない?」


 僕は黒タルの避難先を予め準備しようと思った。もしかしたら燃え尽きちゃう前に少しは避難してくれるかもしれない。


「ヴォルフも物好きじゃの。そこにおいてある藁人形なんかよいのではないか。人形しておるし、怨念が宿るには充分なものじゃろう」


 なんで藁人形が応接室にあるんだろう。


「なんじゃこりゃあああ!」


 僕の疑問は黒タルの悲鳴で中断した。


 見れば黒タルが凄い勢いで燃えていた。身体中のあちこちから火を吹き、床を転げ回っている。


「何を見ておる! 火を火を消さぬか!」


 黒タルはカーリーやタルの子神に命令しているが、ここには水も砂もない。


 もっとも、水や砂があったとしても、あの火は消えることはない。なぜなら黒タルの依り代である木が自分の振動で出した熱から出た火だからだ。


「こ、このままでは!」


 タルは僕に燃えたままの手を伸ばしてくる。僕は手に持っていた藁人形を渡してあげる。すると黒タルは藁人形に触れたとたん、パタリと倒れた。


 藁人形は床に転がる。黒タルに触れて燃えてしまうかと思ったが、少し焦げただけだった。


 あとに残るのは燃えている黒タルの遺体だけだ。もうピクリとも動かない。


「火を消しますね」


 カルラはトロポを使い真空状態を作りつつ、黒タルに書き込んだバイブラを停止する。すぐに黒炭化した黒タルだけが残った。


「凄い魔法じゃな……」


 タルが感心してカルラを見た。


「ヴォルフの魔法です。ヴォルフはいつも凄い魔法を教えてくれるんですよ」


 カルラが自慢げにこたえるが、凄いのは魔法を作った僕よりも使いこなしているカルラの方だと思う。


 僕の魔法は単純でその仕組みを知れば誰でも使えるように出来ている。単体ではそんなに大したことはない魔法だ。


 しかし、カルラみたいに使い方を工夫したり、組み合わせを工夫することで、状況によっては凄い効果を発揮する。


 前世で少し遊んだカードゲームに似ていると思った。僕はあまりうまくなかったけど、うまい人は弱いカードのみで強いカードを使っている人を倒すことが出来る。


 今回の黒タルとカルラの戦いがそれを思い出させた。


「ところで、こやつはどうするのじゃ?」


 タルは藁人形を摘まみながら僕に問う。僕は藁人形を受けとると「飼っちゃダメかな?」とみんなに聞いた。




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