148.神威
本日二話目です
異世界転生小説では、転生したときに神様にあい、特別な能力をもらうことが多い。しかし、僕は異世界転生したときに神様にはあっていない。
だからこそ、僕は自分が魔法を使えないことに気がつかず無駄友達思えるような魔法の研究をしていたのだから。
神様にあったことはなかったので、僕もどうしていいかわからない。フリーデンもモデルとなっているであろう神道は神様の数も多いが、その分、力は強くない。
フリーデンの主祭神と予想できるのだけど、明らかに幼い容姿なので、見た目通りの力しかないと予想できた。
よし。落ち着いた。
「わしはヴォルフの好意にいたく感動した。よって、わしもみなと同じよう許嫁になることにした。それが一番喜ぶであろう?」
光栄なんだけど、なんだ、この犯罪者になった気分は。カルラだけでも微妙なのに、一気に五歳とか、倫理観がヤバい気がする。
「か、神様は何歳なのですか?」
ここは異世界小説にありがちのロリBBA設定がないか聞いてみよう。
「わしは……おなごに歳を聞くものではない」
途中まで言いかけたのに、そっぽを向いてしまった。五歳ならあっけらかんとして答えるだろうが、これは恐らく僕より、というか人間の寿命より相当上だと思った方が良さそうだ。
「すみません。でも、人間の社会では十六歳にならないと結婚はできないものですから」
「婚約なら問題ないのだろう?」
おっしゃる通りです、神様。しかし、年齢が聞けないのなら直接名前を聞くしか、どの神様か確認する手段はない。
「神様の御芳名を頂いてもよろしいでしょうか?」
「タルじゃ。タルと呼んでたも」
タル……。
異世界転生小説では神様の名前は色んな神話から引用されたり、登場人物として出てきたりするが、異世界転生小説をたくさん呼んでいても、転生先の世界の、しかも異国の神様の名前まではわからない。
これが魔法に関係することであれば良かったのだけど。
タルの名前はあとで神格をサリーに確認しよう。
しかし、タルはどうしたものか。
僕の少ない知識でも神様が移動することが大変なことだとわかる。
土地神なら動かせないし、氏神なら氏族に断りを入れなきゃならない。神様というものはなんらかのしがらみがあるものだし、しがらみがあるからこそ、信仰を集めて力にできるのだと思う。
このまま山へお帰りになっていただく方が丸く収まるんじゃないかな。
「タル様は……」
「タルと呼んでたも」
「いや、そういうわけには……」
「タルと呼んでたも。大事なことなので三度は言わぬ」
神様を呼び捨てか……。異世界転生小説で神様を呼び捨てしたりするのを見て「いいのかなあ」と思っていたけど、まさか自分がやらされる羽目になるとは。
「タルは守るべき氏子がいらっしゃるのではないですか? 僕たちは外国人ですし、いずれは自国へ帰ります。そのときにタルは氏子から離れられないですよね?」
「大丈夫じゃ。わしの子らは優秀じゃ。わしがおらぬでも氏子をよく守ってくれるじゃろ」
まさかの五歳なのに既婚者!
「もう結婚してたんですか?」
聞き直したらタルははっとした顔をした。
「もとい、兄神たちは優秀じゃから、わしがおらぬでも問題ないのじゃ!」
言い直した!
精神的には五歳なのか、それとも人間との会話になれていないだけなのか、婚約者で押し通したいから嘘を重ねているのか区別がつかないな。
「では、タルのことを聞いてもいいですか?」
「うむ」
タルは話が仲間くなりそうだと思うと、ベッドに座り直す。うんしょうんしょと上る姿は完全に五歳だ。かわいい。
「カルラはご存知ですよね?」
僕は部屋の端で丸くなるように固まっているカルラを呼び戻すと、タルへ向けて紹介する。
「カルラは僕の第一の婚約者です。このまま無事結婚という運びになれば正妃、つまり正室となります。その他にもここにはいない婚約者がいて、全部で七人になります」
ここまで言うとカルラは何を言いたいか気がついたようで、僕を見て首をブンブン横に振る。言ってはいけない!とジェスチャーで伝えてくるが、僕は無視した。
「タルは八番目のお嫁さんということになります。それでもいいですか?」
場がシーンとなった。
タルは怒るわけでもなく、肯定の返事をするわけでもなく、沈黙を保っている。
「これを了承してくれなければ、婚約の話はなかったことになります」
神様だからと言って特別扱いはしたくなかった。ここまでやり取りした感じだと神罰がくだるなんてことはなさそうだけど、タルに嫌われてフリーデンには二度と来れないぐらいのペナルティはあるかもしれない。
タルは十分に考えたあと、大きく頷いた。
「あい、わかった。八番目の妃とは末広がりでめでたいではないか」
この世界に漢字はないんだけど、数字の八に当たる文字は確かな末広がりの形をしている。
「いいの?」
思わず素で聞いてしまう。
「もちろんじゃ。先達を尊ぶのことは神にも必要な資質じゃし、カルラはわしを助けてくれた。命の恩人とも言える」
神様なのに弛いな……と思ってしまうほどだった。日本の神様はもう少し人間の事情を考慮しないひどい感じだと思ったけど、フリーデンの神様はもう少し穏やかな人格を備えているようだ。
でも、僕が読んだ小説の中では神様と交わっていいことなんかなかったような気がするんだよね。そこは気を付けよう。幸いにもタルは五歳で通すようだし、あと十年以上は余裕がある。
「では、わしも許嫁と認めてくれるな?」
ここまで妥協してくれるのなら、僕は異論がない。カルラたちは端から異論なんてなかったようだ。
「はい。よろしくお願いいたします」
「その口調は止めぬか? わしは五歳だぞ」
あ、言い切った。
「わかった。タルは五歳として扱うよ」
僕も幼児に対して敬語を続けるのは大変なのでありがたい。
「カルラたちもわしを五歳として扱え」
反論する気はないようで、うんうんとうなずいていた。
「早速だけど、タルは何の神様なの?」
「国譲りの際に実務をしただけじゃ」
あれ、それって日本の神話で言うニニギノミコトじゃないのかな? 天孫降臨だと思うんだけど、そう考えるとタルの年齢って何千歳?
「わ、わしは天孫ではないぞ! あと一年実務をしたあと、寝てたので今は五歳なのじゃ」
ああ、これは嘘で嘘を塗り固めるタイプだ。タルは本当に実務をこなせたのか疑問に思うな。
「じゃあ、神様としての力はほぼない?」
「その通りじゃ。何せまだ五歳じゃからな!」
嘘をついていることは丸わかりなのだが、見た目が五歳なので微笑ましい。僕もタルの神様としての力に頼りたくないし、何が出来るかは追及しないことにした。
僕の懸念事項だった土地神や氏神を奪うようなことにならなくてホッとした。状況から推測すると、ブラウヴァルト神殿のある山には複数の御神体があり、タルはその中の一柱ということのようだ。
宰相派の手の者に狙われるような高い神格みたいだけど、気にしないようにしよう。
「あとは神官長のサリーが戻ってきてから詳しい話を聞くね」
「神官長……」
あれ、タルの顔色が変わっている。
「今は北の妖精に助力を乞いに行っているので不在だけど、ブラウヴァルトで神官長をしているサリーと、雪の妖精のユキノ、黒虎のシャル、それに巫女のカーリーのところへ報告へ行っている騎士のアイリがいるよ。全員婚約している」
恐ろしいことだ。無人島で増えるはずのない婚約者が増え、短期滞在の外国で婚約者が増えている。これが転生者特典だ特典だ言われたらどうしよう。
「カーリーとも婚約しているのか?」
「いや、カーリーは違うよ」
そういうとタルは明らかにホッとして溜め息をついた。なんだろう。カーリーが苦手なのかな? もしかして最初にカーリーへ泣きついていれば良かったのか。
でも、流石に今からやっはなし!とは言い難い。
「巫女が苦手なの?」
でも、意地悪して直接質問してみた。
「そうじゃ。やつら、御願いと言う名の強制労働をさせるからな。ひどいんじゃよ。サリーがひどいことしたら助けてくれよ」
ふるふる震えている。なんだ、フリーデンは神様に強制労働させるブラック宗教国家なのか。
あ、もしかしたら僕の大先輩である異世界転生者がそういう仕組みを作ったのかもしれないな。なんと言っても妖精を簡単に使役するゲオルグという怪しげな職業もいることだし。
僕がそのレベルに達することはないんだろうけど、やっぱり、凄い異能力はほしかったなあ。
「タルは五歳だから僕が守るよ。でも、僕もこの中では一番非力だから、どこまで守れるかわからないけど」
「心強いことじゃ」
そう言いながら抱きついてきた。僕はしっかり受け止める。見た目通りの軽い体だった。
ふわふわしたさわり心地が癖になりそうだ。
「今日はわしと一緒に寝てたもれ」
「タル、今日はアイリがヴォルフと一緒に寝る番です」
カルラはタルを抱き上げ、諭すようにいった。先程までの怯えた態度はなりをひそめ、毅然とした態度だ。
もう吹っ切れたのかもしれない。
「ふむ。わしは一番最後ということじゃな。あい。わかった」
この辺は本当の五歳と違ってものわかりがいいなあ。神様なんだから、わがままも通せるのに凄いなと思う。
なんだかんだ言っても神様だから力の使い方をわかっているんだね。
「では、みんなでアイリを迎えに行こうではないか」
タルの提案にみんな頷いた。もうやることなくなったしね。




