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【17万PV】戦略級美少女魔導士の育て方  作者: 小鳥遊七海
第1章 無人島サバイバル
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147.防戦

 神殿へ入るための割符がない僕とクララは神殿の正面には向かっていなかった。当然、侵入者たちも正面からは入っているわけではない。


 人が比較的少ない西側を通り北の森に向かって進む。門前町だけあって塀で囲まれているような作りをしていなかった。


 ただ、森を結界として町があるだけだ。森を自由に歩けるものにとっては町の境界など意味がない。


 侵入者たちは森を通り、僕たちも見た吹きさらしの渡り廊下から神殿へ入ったようだ。神殿はセキュリティがないと言ってもいい。守るのに全然向いていない。


 そもそもの発想が違うのだから仕方ないのだが、神域というのはその宗教だからこそ有効なのであって、今回の侵入者のようにまったく信じていない上に、敬意も払わないような奴にとっては邪魔物が少なくなるだけの便利なものになってしまうのだ。


 僕たちは渡り廊下が望める場所まで来ると、本を取り出す。


 取り出した本には「時間遡行」と書いてある。これは過去を司る妖精が封じ込められた本で、僕が指定した対象の行動を過去を遡って巻き戻すことが出来る。今回のケースで言えば、侵入者四人に絞って時間遡行を行うことが可能になる。


 凄い能力なので、ずっと使いたいんだけど、ゲオルグが言うには過去妖精は時間を戻し多分だけ居なくなり、大変珍しい上に滅多にイタズラしないんだそうだ。


 今回で使いきるだろうとゲオルグはクララに伝言していた。


 友達になりたい妖精ナンバーワンだなあ。ユキノと違って。


「じゃあ、御願い」


 僕が本に向かって御願いすると妖精たちが耳元で肯定の返事をする。過去妖精は決まった姿がない。いつもは目に見えず耳に聞こえず僕たちの回りにいるらしいので、どこへ向けて御願いするか迷ったが、肩にいたらしい。


 今回の作戦は時間遡行を使い、侵入者たちの位置を知り、再侵入したところで、僕たちは位置を侵入者たちの死角に移動し、再度時間遡行を使って戻ってきたところを殺す手筈だ。


 ちょっと面倒ではあるが、こちらの方が安全に遂行できるため、この方法を選んだ。


 しばらくすると、黒い衣装に身を包んだ四人の男が回りをキョロキョロしながら後ろ向きに歩いてくる。


「あれはハフステファイアの手の者ですね」


 なんとなく忍者っぽいなと思ったら、クララを連れてきた男たちの仲間だったようだ。


 男たちの歩みは思った以上にゆっくりで、向こうも何の警戒もしていない神殿のじょうかに驚いているようだ。僕も侵入する方だったら同じように過度に警戒してしまうかもしれない。


 しかし、これは困った。


 あまりキョロキョロされていると、止めるタイミングが難しい。出来れば何かに注目している方がありがたいのだが。


 神殿の渡り廊下を降りてきて、僕たちの方へ向かってくる。


 ふと思い付いたのだけど、時間遡行中に傷つけた場合はどうなるのだろう? 疑問に思ったけど、今は実行できる暇はなさそうだ。


「よし、彼らが渡り廊下へ上る直前を狙おう。その時なら注意が渡り廊下に向いている」


「わかりました。人を殺した経験はないのですが、どこをつけばいいですか?」


 そうだよね、僕も人はないんだよな……。まあ、人とは言え動物なのだから、心臓か精髄か呼吸を止めるかすれば死ぬのだろうけど、動いている目標を仕留めようとするとどうしても無理がある。


「過去を司る妖精。時間を止めることはできる?」


 肯定の返事がある。


「そのときに人間に傷をつけられる?」


 よくあるのが時間を止められるけど、干渉できないという能力だ。


「無理のようだ。でも、そこだけ確認できていれば問題ない。動き始める前にナイフを当てていればいいだけだからね」


 時間遡行に時間停止の能力とか過去妖精は凶悪過ぎると思う。ただ人間が使役する条件はかなり厳しいようなので、それだけが幸いだ。こんなの敵も使ってくるとかあったら僕たちなんてすぐにやられてしまう。


「よし、そこで停止して」


 なんとなく、そろりそろりと歩く。四人の時間は停止しているので、そんなことをする必要はないなだが、本当になんとなくだ。


 四人の近くに着くと、呼吸していないことを確認して、ナイフを後ろ二人の心臓へ肋骨を避けて刃を横にして当てる。


 この四人は皆、隠密行動を前提にしているようで鎖かたびらなんて面倒なものはつけていなかった。


「いくよ。合図したら思いっきり突き刺して」


「はい」


 僕が頷くと時間が流れ始める。そして、数秒ののちにまた停止する。


「うまく刺さった?」


「はい」


 まだ血が吹き出してはいない。クララも人を殺したという実感はないようだ。


「次の二人にも同じことをしよう」


「はい」


 僕たちはナイフを引き抜くと、次の二人にも同じように刃を当てる。そして、時間が流れナイフが胸にめりこむ。


 再び時間が停止したところで僕たちはその場を離れ、また森の中へ戻った。


「時間を流して」


 妖精たちは滞りなく仕事をした。四人の男はすぐに崩れ落ちる。どうやら息の根を止めることが出来たようだ。


「これで打ち止めみたい」


 先程まで、封印の呪文がかかれていた本の中身は白紙に戻っていた。過去妖精はその役目を終え戻っていったようだ。


「また会えたらいいな。今回は凄い助かった。ありがとう。過去を司る妖精」


 僕はお礼を言って虚空を見た。


 これで相手の三本の矢を防いだわけだけど、これ以上の策を打ってくるかどうかはわからなかった。


 門前町、神殿、御神体と宗教の根幹を狙って打つ策としては三つもあれば十分だと僕は思う。全部つぶれることの方がまれだからだ。


「それにしてもビルネンベルク側の策略だったとは。第三者はビルネンベルクの中の宰相派だったんだね」


 僕は油断なく男たちを見張りながらクララに話しかける。猫の玉というアーティファクトを見てから死んでも生き返る可能性を排除出来なくて、凄い面倒だ。それも宰相派の思惑なのかもしれないけど。


「でも、なぜ同じビルネンベルクのバルド将軍の邪魔をするのでしょうか。ビルネンベルクの利益になるようなことならまだしもブラウヴァルトを潰そうとするなんて」


「やり方が強引になってきたときは、相手が焦っているときでもあるからね」


 言葉には出さないが、ビルネンベルク王の命がつきかけているのだと思う。王位継承権第一位のバルドを排除するため、フリーデンの国民が激怒して特攻でもかけるような卑怯な手を使ってきたのだろう。


 よほど宰相は自分の小飼を王にしたいようだ。


 いや、もしかしたら宰相の方が立場が弱く、王位継承者の方が宰相を操っているのかもしれない。宰相は権力があるといえども、現在の王が任命しているのだろうし、王がメテオーアを教えたカルラを守りこそすれ、遠ざけようとはしないのではないだろうか。


 僕たちはたっぷり一時間半待って男たちが動かないことを確認すると、男たちが持っているものを取り出し始める。


「うへぇ」


 クララが血だらけの布袋を開けて中を確認している。


 僕も血だらけの懐を探るが、身元が割れるようなものは何も持っていなかった。当たり前と言えば当たり前か。


 それにしてもブラウヴァルトの神殿は本当に警備もなにもないんだな。神域に対する信頼が強いのか、それとも何か別の防衛機構があるのか。


「退却するか」


「そうですね。お風呂入りたい」


 流石に血だらけで公衆浴場へはいけないので、僕たちは一度宿に戻って井戸水で血を洗い流すことにする。


「カルラが帰ってきてくれているといいですね」


 クララもカルラが作ってくれたお湯を使って体を洗っていたらしく、カルラへの尊敬の念が深まっているようだ。


「そうだね。カルラも無事に任務を終えているといいけど」


「あはは。カルラが失敗することなんて考えられないですよ」


 クララ、それはフラグなのでは?と思ったけど、通じないので指摘するのをやめておいた。僕もクララが失敗するとは思っていない。でも、違う方向へ失敗することは考えられるんだよね。


 カルラもドーラも好戦的でやり過ぎるので、考えられる失敗としては、派手に暴れて御神体まで壊してしまうとか、一人に逃げられるとかぐらいだろうか。


 帰り道もフード付きのマントを被って道を歩く。


 未だにドーラの話で持ちきりだった。裏で起きていることを知らず楽しむのは一般人の特権だとは思うけど、フリーデンは仕組みが良すぎて為政者までもが裏で起きていることを知らない可能性もあって、平和ボケをこの世界へ来て初めて見た気がした。


 宿に着くとすでにカルラとドーラは帰ってきていた。


「居なくなって心配しました」


 カルラが駆け寄って抱きついてくる。僕は優しく抱き締めた。


「ごめん。書き置きぐらいしていけばよかったねカルラも無事で良かった」


「はい……」


 何か歯切れが悪い。


 まさか僕の想像通り御神体を破壊しちゃったとかじゃないだろうね。


「カルラを責めないでやってくれ」


「何か失敗したの?」


 カルラもドーラも口を開かない。


 僕には言い淀むぐらいの凄い失敗は思い付かないが……。


「もうひとり婚約者が増えてもいいですか?」


 すぐに「ダメ!」と答えようとしたが、そこは僕も大人にならないといけない。何かやんごとない事情があるのなら許さなければならない。


「じ、事情を話してみて」


「御神体が生きてた」


 ドーラが信じられないという表情をしながら語る。うん。意味がわからない。


 御神体というのは神様の魂を一時的にいれる依り代でそれが生きているものであれば巫女と呼ばれる。そりゃ生きてるのは当たり前だ。


「あの、御神体は古い鏡だったのですが、変身できるようでして、小さな女の子になってました。そこを私たちが駆けつけ、襲っていたものたちを撃退したのです」


 カルラは事の敬意を話しているが、その小さな女の子は部屋にいない。別の部屋で休ませているのだろうか。


「そこに鏡があるじゃろ」


 ドーラがベッドにおいてある古い鏡を指差す。前世の博物館で見るような銅鏡だった。


 それがボフンと軽い爆発音を立てて五歳ぐらいの小さな女の子になった。


「わしは神様じゃ」


 古めかしい言い方だが声は五歳そのものだ。


「ヴォルフとやら、わしを守ってくれたこと、礼を言うぞ」


 神様は僕を見つけると、ベッドから下りて行儀よくお辞儀した。




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