146.隕石
本日三話目です
亡者を退けた僕たちは、宿に集まってきていた人たちに迎えられた。みんな一様に高揚しており、僕たちの恐るべき力に恐怖した様子はない。
味方と認識しているのだろう。
そして、タイレンはその集団から僕たちを遠ざけようと、大男たちと共に奮闘してくれていた。
「お客様の邪魔になりますから、お下がりください」
口調は丁寧だけど、ものすごい突っ張りだ。それを受けて平然としている周囲の人たちも凄いけど。
「タイレン、部屋へ戻る」
「わかりました。お客様。お食事の準備は別のものにさせています」
相変わらず気が利くな。僕たちは騒ぎが収まるまで他のところへ行けないことを察してくれたのだろう。
因みにドーラは再び飛び上がり、適当なところで人間の姿になって戻ってくる予定だ。
カルラとともに階段を上がる。
四人部屋ではシャル以外にも出掛けていた婚約者たちが戻っていた。
「なんか、もう援軍呼ばなくても良くなってない?」
サリーが呆れ顔で言ってくるが、僕は首を振る。
「楽観的に考えないように。死者が無限にはいないからと言って第二団がないとは限らないし、更に多くの死者が送り込まれてくるかもしれない。最悪のケースは死者が四方からバラバラに迫ってくるケースだ」
今回カルラはメテオーアを使った。これは広範囲へ攻撃する強力な魔法だ。もちろん敵はそのことを知ったから、密集体形で攻めてくることはもうないだろう。
つまりゲリラ戦になるかも知れないということだ。それはフリーデンが得意としていた攻め方を逆にされるのだ。それに対抗するにはより多くの戦力を裂かなければならない。
今回も気がつくのが遅れなければメテオーアは使わなかっただろう。なんらかの足止め手段を講じた上で軍隊同士の戦いにしたはずだ。それぐらいゲリラ戦は避けるべきだった。
「じゃあ、ユキノと一緒に援軍を呼んでくる」
「うん。でも、とりあえず、みんなの持ち寄った情報を共有しよう」
僕はアイリに水を向ける。
「ブラウヴァルトの軍隊は打って出ると言っていた。カルラの魔法で数が減ったと言っても退却していないのだから、方針は変わらないだろう」
アイリの見立ては確かだ。僕もそう思う。相手の情報は伝わっていないだろうが、そのうちに正確な情報が伝わり、殲滅戦へ移行するだろう。
「地図はなかったけど、結界魔法というものを使える妖精を貸してくれたわ」
クララの肩には丸い毛玉みたいな妖精がいた。
「この子の兄弟が町の周囲に結界を張りにいってくれている。邪悪なる意思を弾くと言っていたので、この町に敵意があるものの侵入を弾くようよ」
そんな便利なものがあるなら最初から使っておいてゲオルグ。
「因みに、結界の妖精は稼働時間当たりのお賃金がものすごい高いと言ってた」
誰が払うんだろう?
「とりあえずは安心していい状態のようだね」
「雪の妖精には興味があるので、わたくしも同行しましょう」
シャルが一緒に行ってくれるのなら安心だろう。ユキノとサリーだけだと、どうも信用できない。あの二人はどちらも落ち着きがないというか、面白いことを優先する気質があると思う。
「助かるよ」
僕はシャルの頭を撫でる。
「ふふふ。お任せください」
そういうと黒虎に返信する。
「乗ってください」
サリーはちょっと怖がっていたので、抱き上げてシャルの背中に乗せる。ユキノは興味津々で前に乗る。
「怖かったらユキノにしがみついていればいいよ」
「べ、別に怖くはないわ」
強がりを言っているが、ユキノに強くしがみついていた。
「じゃあ、気をつけて」
「はい」
ドアを開けるとシャルは勢いよく出ていった。すぐに「うわっ」とか「虎?」とか言う声が聞こえてくる。
「あとは第二派が来る前に本体を探したいところだよね」
カルラが打ち漏らした数は少ない。相手は十分に戦果をあげられなかったことを知れば、次の手を打ってくるだろう。これだけの絡め手を使ってくる人間が第二の矢を準備していないとは思えない。
更に言えば、これは王弟バルドの立てた策略で
はない気がする。話に聞くバルドは正々堂々とした戦いを好むはずだ。
いくら侵略が進まないからといってこういう死者に鞭打つようなことをするとは思えない。
「もしかしたらフリーデンを狙っている別の国の仕業なのかも知れないね」
見えない敵はフリーデンとビルネンベルクの共倒れを狙ったかもしれない。そう考えた方が自然に思えた。
「でも、第三者がいるとしたら、一体誰が……」
フリーデン宗教国は大きいが周辺諸国とは仲が良い。調味料や食糧の輸出をしており、それがないと困る国は多い。ビルネンベルクもその食糧を狙って進軍しているのであり、食糧そのものを潰すような戦は仕掛けていなかった。
「それは僕にはわからない。でも、心当たりならあるよ」
出来るかどうかわからないけど、こういうときは利害関係者本人に聞くのが一番だ。つまり、バルド将軍ならなにか知っている可能性は高い。
事の顛末を知ればバルド将軍は激怒するだろうし、僕たちに力を貸してくれると思う。すべてはアイリやカルラから聞いた話による判断なので、現実にそうなるかわからないけど。
「カルラに頼ることになるけど、バルドにあって話をすればわかるはずだよ」
「なるほど。カルラならバルド将軍の元にたどりつければ話をすることも可能ですね」
アイリが頷く。
「問題はバルドがどこにいるかだけど」
「バルドおじさんに会う必要はなさそうです。インテリゲンに反応がありました。北の森に四人程度の集団がいます」
「北の森?」
それならクララの肩にいる封印の妖精の結界に反応がないことも理解できる。結界はあくまでも町のなかに入る人が対象だからだ。
「話の内容からすると、フリーデンの御神体が狙われているようです」
「でも、御神体の場所は秘密のはずでは?」
クララの言うとおりだった。
部外者が簡単に御神体の場所を特定できるとは思えない。内部に手引きしたものがいる可能性がある。こうなると、サリーを外に出したのは惜しかった。
「アイリ、この割符をもって至急神殿へ。カーリーを呼び出して御神体が狙っていることを伝えて」
「はい」
アイリは返事が早いか部屋を出ていく。
「カルラ、四人を足止めできる?」
「ちょっと難しいです。距離が離れすぎていますね」
「ドーラ、またカルラを乗せて北の森まで行ける?」
「大丈夫だ。だが、ヴォルフは行かぬのか?」
僕は四人も陽動に見えてならなかった。相手は陽動と言えども放っておけない策を何重にも巡らせている。この次の手もあるだろう。
ただ相手の目的はわかった。
フリーデン宗教国の権威の失墜だ。首都を壊滅させる亡者の集団。御神体を狙う四人組。
あと来るとしたら宗教指導者と政治の中心の神殿の壊滅。
もしかしたら違うかもしれない。でも、神殿は狙われる確率が高い。もしかしたら、相手にとっては第二の矢が神殿の襲撃かもしれないけど。
「クララ。結界で神殿への侵入者は分かる?」
「えっと、わかるみたいです」
クララは肩にのった妖精と意思の疎通が出来るらしい。結界はれたり、言葉がわかったり、外見の割には凄い妖精だね。
「じゃあ、神殿へ侵入してくるものがいたら教えて」
「どうするつもりですか?」
クララと僕は直接的な攻撃手段はない。確かに侵入者に対抗する手段を考えなくてはならない。
「まだいい考えはないんだけど、婚約者ばかりに働かせるわけにはいかないからね。僕もちょっとは働かないと」
クララは一つの本を渡してくれる。
「ゲオルグから預かったものです。ヴォルフに渡せと言われたんですが、あまりにも物騒な代物なので渡しそびれてました」
僕は本の中身を読むと、ニヤリと笑ってしまった。確かに物騒だ。これはけしからん。僕がこの世界へ来て今まで見た全部の本の中でも一番役に立つ本だ。
「ヴォルフ、気持ちはわかりますが、悪い顔になってますよ」
「ごめん」
僕は真面目な顔へ戻すと、クララに向き直った。
「一緒に来る?」
「それは、もちろん」
僕とクララは部屋にあったフード付きのマントを被ると、中庭から別の部屋を通って大通りに出た。
未だに町の中はカルラの打ったメテオーアの話題でざわめいている。あれが味方であるうちは恐怖も感じないようで、何が来ても平気だ!という意見が大半を占めている。
あれを打ったのが外国人で、しかも現在交戦中の国のお姫様なのだが、多くの人は自分の信じたい情報しか信じないようだ。
僕もそういうところがあるので、人のことは悪く言えない。何しろ、婚約者を増やさないように行動しているつもりでもなぜか増えてしまったのだ。大半の原因をカルラに求めているが、多分原因は僕にあるんだろうなあ。
「ヴォルフ。神殿に侵入者です」
歩いているとクララが小声で報告してくる。
「わかった。急ごう」
「はい」
クララの先導で神殿へ侵入したものがいるポイントへ急行した。




