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【17万PV】戦略級美少女魔導士の育て方  作者: 小鳥遊七海
第1章 無人島サバイバル
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145.偶発

本日二話です

 しばらく一人になりたかった僕はブラウヴァルトが一望できる塔の上に来ていた。


 皮肉なことにここに来るのにサリーから貰った割符が役に立った。ブラウヴァルトが一望出来てしまうこの塔は本来なら旅人に解放されるような場所ではないらしい。戦略的に地形などの情報を敵に与えるのは望ましくないからという理由だった。


 しかし、サリーと婚約している証の割符は、フリーデンの味方であることを表しており、情報を与えても大丈夫という訳である。


「それにしてもブラウヴァルトは細長いなあ」


 山の麓に作られているが、町の入り口から神殿まで町が続いている。町の入り口は東西つまりブラウヴァルトとは垂直に交わる街道と接しており、旅人が西か東か、どちらかへ旅立っている様子が見えた。話によれば西回りでも東回りでも、神殿の山の反対側にある北の町に続いているそうだ。海は東側の街道から行けるといっていた。


 僕たちは西の街道から来たので、東側へ帰っていくつもりだ。もちろん、途中でドラゴンになったドーラに乗り換える必要があるのだけど。


「よく考えたらこの町に来て二人も婚約者が増えちゃったんだよね」


 異世界転生小説だとしても、ちょっとひどいストーリーではないだろうか。ハーレム化と言えばハーレム化しているのだろうけど、実際に手を出せる状況にはなっておらず、僕たちの基盤は脆弱なままだ。


 せめて安心して眠れる場所がなければ……などと考えたところで僕は首を振る。


 危ない。今、手を出したらカルラの父親と会うときに殺されちゃうかもしれない。僕は精神を落ち着けるために景色を見ようと西を向いたときだった。


「なんだあれ?」


「敵襲! 敵襲!」


 僕が疑問に思うのと同時に塔で見張りの任務についていた兵士が鐘を鳴らしながら大声をあげる。


 ブラウヴァルトは内陸にあるし、ビルネンベルク軍が攻めるのは用意でないと思っていたが、フリーデンはビルネンベルクとしか戦争をしていない。あれはビルネンベルク軍に間違いないようだった。


「なんてタイミングだ!」


 僕は急いで塔を降りる。はやくみんなと合流しなくては。


 焦る気持ちを押さえながら塔から出るとシャルがそこにいた。


「ヴォルフ、無事でしたか」


「シャル、町が囲まれるまで一時間ないと思う。みんなを呼び集めて」


「たまたま宿に全員いました。あとはヴォルフだけです!」


「わかった。急ごう!」


 僕はシャルの手を取り走り始める。すぐにシャルが僕を追い越して引っ張るようになった。シャルの力強さが頼もしい。


 宿に着くと四人部屋へ行く。そこにはサリーも含めて全員揃っていた。


「ドーラ、上空から敵の進軍経路を調べて」


「了解した」


 ドーラはぬいぐるみ形態のドラゴンに変身すると窓から出ていく。


「カルラはインテリゲンを展開。敵が進軍してくる西だけじゃなくて東西南北に」


「展開済みです」


 いつの間に……。


「サリーは僕たちに伝えられる限りの情報でいいから神殿で集めてきて」


「それは出来ない。(いくさ)は男の領分ゆえ、神官長には伝えられない」


 サリーは事も無げに言う。なるほど、シビリアンコントロールではないのか。それなら仕方がない。


「アイリ、探れる?」


「承知」


 アイリの隠匿スキルと軍関係の知識があればそれなりの情報は集まるだろう。


「クララは地図がないかゲオルグに聞いてきて」


「はい」


 これで情報収集に関する行動は出来る限りのしただろう。問題は集まった情報で僕たちが逃げるか、戦うか判断しなきゃならないことだ。


 もちろん、カルラの身分を明かしてビルネンベルク軍へ投降するという選択しもあるが、それはあまりにも掛けの部分が大きすぎる。ビルネンベルク軍と言っても宰相派もいるだろう。


 そうなれば、身柄を確保されたところで偽物などの適当な理由をつけて処刑する可能性もあった。


「さて、僕たちはどうするべきかな?」


 カルラとサリーに聞いた。正直、僕はドーラの正体をばらしてでも逃げたい。しかし、そうなるとサリーやユキノはおいていくことになる。二度とブラウヴァルトにはこれないだろうからだ。


 逆にブラウヴァルトでビルネンベルク軍と戦うのもカルラの心情的に難しいだろう。何せ自分の故郷の軍隊なのだ。


 あとドーラの情報待ちではあるが、ビルネンベルク軍の目的だ。奇襲に近い形で軍が進軍してきたということはそんなに人数はいないはずだ。ブラウヴァルトを落とすには少なすぎるだろう。


 ここまでして内陸部へ奇襲をかける目的は僕には思い付かなかった。


「戦いましょう」


 カルラは平然と言った。


「今の私たちはブラウヴァルトの食客です。敵を退け恩を売りましょう」


 カルラの意図は汲み取れた。フリーデンにとって大ピンチを救い、恩を売ることでカルラが実権を握ったときに、両国の仲を良好に保とうというわけなのだ。


「サリーの意見は?」


 十四歳の少女に何を聞いているのだろうと思うが、僕にとってはフリーデンの代表だ。何をしたいか聞いておきたい。


「北の長に協力を求めます。もう冬が来ます。冬がくれば北の妖精は無敵でしょう」


「ユキノ、案内役を頼める?」


 ゲオルグによれば片道一日分ぐらいのところに入り口があるということだ。ユキノに案内させれば交渉できるだろう。


「サリーもカーリーに話を通しておいて」


「わかったわ」


 サリーとユキノは神殿に戻るため、共に部屋を出ていく。これで部屋の中にはシャルとカルラだけになった。


「もう少しゆっくり観光してたかったんだけどなあ」


 わざと軽口を叩く。


「そうですね。ヴォルフには他の婚約者とももっと仲を深めてほしかったです」


 シャルもうなずいている。


 仲を深めるのはいいんだけど、違う方向に深めたがる人が多いからね。


「なんにしろ、ここは門前町だから本格的な防御設備がない。戦いになったら打って出るしかない。侵入者が町の混乱を誘わないように、僕たちは侵入者の排除に力をいれようか」


「そうですね。でも、まずは先制攻撃しましょう」


 カルラがニヤリと笑った。


「先制攻撃?」


「もうお忘れかもしれませんが、メテオーアですよ。今なら敵だけを排除できます」


 でも、街道や旅人も巻き込んでしまうような気もするな。


「もちろん、ドーラに乗って目標をしっかり見極めた上で打つのです。敵が少数なら殲滅も容易でしょう」


「それはドーラが戻ってきてから判断しようか」


 今は情報が少な過ぎて判断できない。はやく通信系の魔法を開発しなきゃ。


 僕たちがあれこれ考えたところでドーラが戻ってきた。


「ヴォルフ。あれは良くないな」


 開口一番の台詞がそれだった。


「どういう意味?」


「ありゃ、死者の群れだ。何をしても止まらん」


 ゾンビ的な何かなのだろうか。


「我も似たアーティファクトを持っているが、生きている者を求めてさ迷っているにすぎん。旅人たちは飲み込まれておった。そして、新たなさまよう死者の出来上がりだ」


「どうすれば止まる?」


「原因となったアーティファクトを壊すか、粉々にするかだな」


 カルラの目が輝く。


「カルラのメテオーアでやれる?」


 気になることがあったので、端的に聞いてみた。


「大半は問題なく倒せるであろう。しかし、散り散りになったものは各個撃破が必要だな」


 そうなると打ち漏れがないようにフリーデン軍や北の妖精と連携が必要になるだろう。


「なに、心配しないでも、カルラのメテオーアと我のブレスがあればすぐに片付けられるだろう」


 そんなに上手くいかないと思うけど、やってみる価値はありそうだな。それにもう時間がない。本格的に軍隊が動き始める前にやらないと、味方を巻き込んでしまう。


「じゃあ、やろう。僕も一緒に行くよ。シャルはみんなが戻ってきたときのために伝言を御願い」


 僕が御願いするとシャルはうなずいた。


 宿の外に出るとドーラは僕とカルラが乗れるぐらいの大きさのドラゴンへ変身した。早速乗り込む。


「では行くぞ!」


 ドーラが掛け声と共に羽ばたくとすぐに空中へおどりでる。まわりで喚声が上がるのを聞きつつ僕たちは敵の方へ向かう。


 亡者の行進は街道に沿って延びており、先頭の方が団子になっていた。一番後ろはよく見えないが、全員が街道をブラウヴァルトの方へ向かって来ている。


「では行きます!」


 カルラは集中し始める。メテオーアを撃つのは何回目か知らないけど、そう何回も打てる魔法ではない。


 ちゃんと集中しないと威力の調整が出来ないだろう。


「メテオーア!」


 カルラが呪文を唱えると、上空から一本の線が走る。それは目では終えない速度で亡者の集団の先頭に落ちた。


 瞬間的に光と音が爆発する。


 ドーラが突風に煽られて体勢を崩す。


『もう少し加減せい!』


 文句をいいながらも、体勢を整え直すと、再び上空へ舞い戻った。光と音のあと、亡者の集団は消しとんでいた。街道に沿って東へ大きな穴が延びている。


 集団の後方は出来た穴に落ちて行っているようだ。吹っ飛ばされた亡者のうち何体かは穴に落ちずに進めているようだが少数だった。


 僕たちの目的は達したと思っても良かった。


 カルラの様子を見ると、うまく打てた高揚感に包まれているようで、うれしそうだ。


「よくやったね、カルラ」


 僕が誉めると、うれしそうに頷く。


「ドーラ、戻ろう」


 僕たちは再び宿へ戻ろうと向きをかえた。




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