140.雪女
本日二話目です
ユキノに変な本を買わされた僕はしゃべらないノームから筆談による説明を受けていた。
――この本は雪女を召喚した本です。
「した? すると召喚された雪女はどこにいるの?」
ノームはユキノを見た。
「ご紹介にあずかりました。アテが雪女のユキノです」
まさかユキノが妖怪だったとは……。僕もなんとなくおかしいなあと思っていたんだけど、ユキノが召喚された対象だとは思っていなかった。
「なんでユキノは働いていたの?」
「自分で自分の本を買うためです。本を自分のものに出来れば自由になれたのに!」
その境遇には同情するけど、ユキノの言動を思い起こしてみると、僕を騙そうとしたってことだよね。「なんでもする」と言いながら自由になって逃げようとしてたんじゃないのかな。
それに本屋自体が怪しいから、ユキノにも何かあるんじゃないかって思う。例えばイタズラしたから本を買えるお金が貯まるまでは罰としてあの仕事をさせられてるとかね。
「ねえ、ノーム。ユキノはなんで召喚されたの?」
――ユキノは召喚されたわけではない。イタズラが過ぎたから旦那様に封印された。
「な、なにをいっているのです! アテはイタズラなんてしてません! ただ池の氷を凍らせて滑って遊んでいただけです」
「イタズラしてるじゃんか」
僕とノームはうんうんとうなずく。
――ユキノはイタズラ好きなので、一生飼い殺しにすることを提案する。
「ノーム! あなた、アテを姫と知ってそんなことを言うのですか!」
もしかして、ノームとユキノは仲が悪いのだろうか。
「いいですか? アテは雪の精霊と交神できる雪の妖精族の姫です。雪の妖精族は土の妖精族と中が悪く、いさかいが耐えません。だから、ノームのいうことは信じてはいけません。それはノームの策略です!」
うーん。こうなるとどうにも判断しかねるな。これは旦那様と呼ばれていた本屋の主人が帰ってくるのを待って話を聞くしかないか。
「ノーム、本屋の主人はどれくらいで帰ってくるの?」
――明日の朝
「わかった。じゃあ、話を聞くまでユキノを預かってもらえる」
――無理。本の持ち主の言うことしか聞かない
なら僕が「ノームの言うことを聞け」と言えばいい気がするけど、そういう問題ではないのだろう。仲が悪いふたりに明確な主従関係を作るのも酷かな。
「仕方ない。ユキノは宿へ連れ帰るか……」
「な、何をするつもりですか」
ユキノが胸を押さえて後ずさりする。
「何もしないよ。これでも婚約者がいるからね」
これ以上、嫁候補を増やさないよ。僕は流されやすいから、こういうのははっきりしておかないと。
「なら安心です。ヴォルフの宿に案内してください」
僕はまた変な姫様と関係が出来たことにため息を付いていた。
ユキノを連れて宿に帰る道すがら、みんなへなんて説明しようか考えていた。ありのままを話せば良さそうだが、女子会でカルラが変なテンションになっていて、また婚約者を増やそうとする可能性もある。
まずは、部屋の外でまたせて十分に事情説明した上でユキノを紹介するのがいいのではないだろうか。
「ユキノ。宿には僕の仲間が五人いるんだ。紹介する前に事情を話すから、下の食事どころで飲み物でも飲んで待っていてもらえないかな?」
「アテは飲んだり食べたりしません。姫ですから」
アイドルはオナラしない的なものなのだろうか。妖精はワイン飲んだり、ミルク飲んだりするものだと思っていたが、この世界ではそうじゃないのかな。
「じゃあ、何もなくて悪いけど、呼ぶまで待っててね」
「あい」
ユキノは大人しく椅子に座った。食事処の飾りつけを興味深そうに見ている。
僕は今のうちに事情説明だ。
階段をあがって四人部屋のドアをノックする。
「ヴォルフだけど、入っていい?」
「どうぞ」
声と同時にアイリがドアを開けて招いてくれる。
「ちょうど私たちもヴォルフに言うことがあったんです」
なんか、みんなの様子が変だ。これから公開裁判に掛けられるような異様な雰囲気を感じる。
「ヴォルフの婚約者にドーラとクララも追加されます」
本人の居ないところで判決が出る欠席裁判だった! 学校とかで一番やっちゃいけないやつだ。
「なんでそんな話になったのか聞いていい?」
僕はこめかみを押さえながらカルラに説明を求める。
「ドーラもクララもヴォルフを好きだといっています。私はドーラもクララもヴォルフの婚約者としてふさわしいと認めました。あとはヴォルフが否と言うかどうかです」
外堀埋められていた。この状況で断ったらカルラの顔を潰すことになる。
「否とは言わないけど、少し考えさせてくれるかな……」
この返答が精一杯の反抗だった。いずれはうなずかされるのだが、すぐには認めないことで「簡単には言いなりにならないぞ」という意思表示をだね、できてるといいなあ。
「話は終わり?」
「ええ」
「じゃあ、僕から話があります」
僕が話を始めようとしたときだった。突然ドアがバーンと開け放たれる。
驚いて見るとそこにはユキノが立っていた。
「ヴォルフ! アテも許嫁にしてくれるという約束を果たしてください!」
くそー。僕はユキノの性格をまだ甘く見ていたらしい。待っていろと言って大人しく待っているような性格じゃなかったんだ。封印されたのも納得だ。
「ヴォルフ……その方は?」
カルラとしては僕の回りに増えていく女の子たちをやっとまとめて丸く納めたところなのに、ユキノが新しく増え、しかも婚約者にしろ、と言ってきているように見えるのだろう。
「雪の妖怪だよ。これについて話があるんだ」
「雪の妖精です!」
ユキノは無視してカルラに向き合う。カルラは僕を見てにっこり笑った。怖い。
「女性をもの扱いするのは感心しませんね」
ユキノの策略がうまくいってしまった。こうならないように下へおいてきたのに。
「わかったよ。ちゃんと説明するから聞いてくれる?」
「では、ユキノも座ってください」
ユキノはカルラが怖いのか、僕の隣に座った。そして、なぜか僕にすがり付く。
「この人がヴォルフの許嫁ですか? 年下みたいなのに怖い……」
なぜ口に出して言うのか。
「カルラは優しいよ。そして、とても頼りになる」
僕はカルラをフォローする。間接的にはユキノを庇ったのだが、ユキノは空気が読めないようで「信じられない」と言っていた。もう知らないぞ。
「ユキノはイタズラして本に封じられた妖精だそうだ。罰として本屋の手伝いをしているところ、封じられた本を僕がユキノに買わされた」
何か言いたそうにしているユキノをおいて続ける。
「誓って言うが、ユキノと何の約束もしていない。返品できるかどうかは本屋の主人が不在だったので確認できなかった。明日の朝に帰ってくる予定なので、すぐに確認する予定だ。本屋の留守番であるノームとは仲が悪く預かってもらえなかった」
よし。全部真実を言えたぞ。
「なるほど、わかりました。その本を持っている限り、ヴォルフの言うことしか聞かないという訳ですね?」
カルラが確認する。
「そうだけど……?」
カルラは何を言いたいのだろう。
「ユキノはヴォルフの言いなりなのですから、ヴォルフの意にそぐわないことは言えないでしょう?」
あ、そういう意味か。
「違う。なんなら本屋の留守番のノームに確認してくれてもいい」
「大丈夫です。ここまで来たら婚約者が十人になろうと纏めて見せます!」
なんだ? カルラは何を言ってるんだ?
「ちょっと待って」
「さすがカルラ様!」
僕に被せるようにユキノが言う。
「アテはカルラ様の言うことをちゃんと聞きますよ」
これはなんとかしないと、本当にユキノまで婚約者にされてしまう。
待てよ。ユキノにこの本を渡せば万事解決じゃないのか?
「ユキノ、この本を返すよ」
もうイタズラの罰なんか知ったことじゃない。僕は利己的に生きさせてもらう。
「いいえ、それは旦那様がお持ちください」
ユキノは僕が考えていたのと違う反応をする。
「アテはここまで慕われる旦那様に興味が湧きました。これからも一緒にいさせてもらいます」
こうして、六人目の婚約者が決まったのだった。
読者の皆様にお願いします。
もし「続きが読みたい」「面白い」と思いましたら、広告欄の下にある☆☆☆☆☆をいくつか塗って評価いただけると嬉しいです!




