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【17万PV】戦略級美少女魔導士の育て方  作者: 小鳥遊七海
第1章 無人島サバイバル
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139.召喚

 神殿を観光するのもほどほどに、神殿近くの食事処で蕎麦を啜る。蕎麦の汁にも醤油が使われておりとても美味しい。


「醤油を買えて良かったですね」


「うん。シャルそっちのけでごめんね」


「ヴォルフのそういう姿を見るのも楽しいです。いつも自分を隠そうとするから、ヴォルフが我を忘れて行動すると、本当のヴォルフを見れたようで嬉しいのです」


 そんなに隠しているつもりはないんだけどなあ。


「前も言いましたけど我慢なさらないでくださいね。わたくしはヴォルフのことをすべてしりたいのですから」


「うん。わかったよ」


 蕎麦はかなりおいしかった。蕎麦の乾麺もあったようなので、帰りに仕入れるのもいいかもしれない。


 蕎麦屋を出ると、シャルと帰り道に夜中に食べるおやつを選びながら帰る。今日はシャルと寝る予定だ。もう色々しないように夜通しおしゃべりしようと思っている。


「このマタタビ味のお菓子は美味しいのかな?」


「それはちょっと辛いけど美味しいよ」


「シャル、それは嫌な予感がする。やめておこう」


「そうですか? とても美味しそうな匂いがしてますよ?」


 シャルは確実に猫科なのでマタタビで酔うのは間違いない。僕はなさけないことにシャルに対抗できる筋力がないので、シャルが本能を剥き出しにしたら止められない。


「絶対だめ」


「そこまで言うのならやめておきましょう」


 シャルが聞き分けのよい子で良かった。


 しかし、マタタビを人間が食べられるなんて知らなかったなあ。シャルには内緒で別の日に買って食べてみよう。


「では、この蕎麦の揚げ菓子とお米の揚げ菓子を買って帰りましょう」


「シャルは甘いお菓子は好きじゃないんだね」


「ええ、わたくしは塩味が強い方が好きです」


「お肉のお菓子もあるけど、どうする?」


 ビーフジャーキーみたいな奴やサラミみたいなお菓子もあった。お菓子というか酒のつまみなのだろうけど。


「カルラが喜びようなので、それも買いましょうか」


 大量のお菓子をかかえながら宿に帰ると、みんなももう帰っていた。そして、みんなお菓子を抱えている。


 買いすぎじゃないかと思ったけど、まだまだブラウヴァルトに滞在する予定なので、明日以降で食べればいいだろう。


 お昼を食べたばかりなのに、四人部屋に集まってお菓子を食べながらおしゃべりをすることになった。


 女子会に僕が混ざるのは気が引けたので、その辺を散歩することにする。


 昨日と今日歩いた感じではブラウヴァルトはとても治安がいいみたいだから、久しぶりに一人になってみたいのもあった。


 昨日は鍛冶屋街を歩いたので、今日は本屋街を歩いてみようと大通りの西側に来る。なんでも鍛冶屋街がうるさいので、本屋街は西側に移ったという話だ。


 確かに西側の町はとても静かだ。


 人はたくさんいるんだけど、みんな話もしていない。目的の本を求めてひたすらキョロキョロしている。本屋には貼り紙がたくさんしてあり、そのどれもが中で売っている本を書いたリストだ。


 僕は魔法関係の本を探してみる。クララが買った本はすべて魔工やアーティファクトに関する本だった。あと余裕があればアイリのために戦記ものを探そうと思う。ビルネンベルクとは違い、争い事をよしとしない国風なので、あまりないかもしれないけど。


「そこのお兄さん」


 そんな風に本を探していると、やけに色の白い女性に呼び止められる。着ている服も白いのだが、肌の色も白い。この世界へ来てから見たことないぐらいの白さだ。髪の色は白ではなく金色で、目の色も青だが、どことなく雪女を思わせる容姿だった。


「なんでしょう?」


「本をお探しならアテと探しませんか? お安くしますよ」


 僕が首を捻っていると女性が近づいてきた。


「回りを見てくださいな」


 言われた通りに回りを見ると、なんかカップルが多い。


「ああやって本を探すのを手伝っているんです。もちろん、観光案内もできますよ」


「いくらか払うんだよね?」


 なんか秋葉原で問題になっていた観光案内業を思い出すなあ。異世界でもこういう観光地では怪しさが爆発しているお仕事があるもんだね。


「お探しの本が見つかるごとに1ドラクマ鉄貨いただきます」


 本の値段は代替1ミナ銀貨弱だ。日本円に換算すれば30万円なので三千円ぐらいの1ドラクマ鉄貨は安いと思う。もっとも本を買うぐらいのお金持ち相手だからこそなんだろうけど。


「じゃあ、お願いしようかな」


「それでは誠心誠意お手伝いさせていただきます。アテはユキノと言います」


 ユキノは僕にお辞儀した。つられて僕もお辞儀を返す。


「僕はヴォルフ。魔法関係の本を探している。出来ればフリーデンでしか手に入らないような本がいいな」


「魔法使いの方ですか」


 ユキノは僕の腕に嵌められた腕輪を見た。もちろん光っていないので魔法は使えないとわかるはずだ。


「魔法関係に強い本屋へご案内します」


「ユキノはこのお仕事長いの?」


「いえ、始めて3ヶ月ぐらいです。でも本屋街はアテの庭みたいなもんですから、ご安心を」


 言葉の通りユキノはなれた調子で歩いていく。そして路地裏に入ると、さびれたところにある一件の本屋を指差す。


「え、あれ……?」


 指差す先にあるのは確かに本屋ではあるのだが、雨戸は閉まっていて、辛うじて一枚だけ空いている。その中に本は見えるのだが、雑然と積み上げられており、とても売り物には見えない。


 前世で寂れた商店街にこんなイメージの本屋さんがあったけど、エッチな本しか売ってなかった気がする。


 これ、なんか騙されてないかな?


「ユキノ、この本屋は魔法関係の本が本当に売っているのか?」


「本本本と並びましたね。アテから座布団一枚差し上げます」


 なんだろう。ユキノの名字は山田じゃないよね? と言うか、あの長寿番組を知っている転生者がいるのかな。もしかしたら生きているかもしれない。


「まあ、冗談はさておき。あの本屋は魔法の本を売っています」


 ユキノの言い方が気になった。


「魔法関係の本じゃなくて?」


「一応、魔法の本も魔法関係の本ですよね?」


「そうだけど……」


 僕は「本当かな?」という信じられない気持ちと、「見てみたい」という好奇心で揺れ動いていた。これが嘘だった場合、僕はお金を強奪されたり、拐われたりするかもしれない。何せ本を買える金額を持ち歩いていることは知られているのだ。さらに頭が回る人なら、その家にはもっと本があり、それを買える財力があると理解するだろう。


「アテを信用度していないのは分かります。嫌なら別の本屋を紹介しましょう。アテはお兄さんが本を買ってくれればそれでいいのですから」


 なんかそこまで言われたら見てみたくなる。


「入ってみよう」


「それでこそ、お兄さん!」


 ユキノは入り口らしきところをくぐって入っていく。僕もそれに続いた。


「ごめんください」


 ユキノが挨拶すると、本棚の影から小人が出てきた。


「ノームさん、旦那はおいで?」


 この小人は妖精なのか。初めて見た。この世界にも妖精がいるとは知識で知っていたが、僕が読んだ本には妖精を見ることができる場所は限られていると書かれていたような。


 ノームは一言も喋らず首を横にふる。ユキノは「なら勝手に見させてもらいます」と言って本棚を物色しはじめた。


「これなんか、お兄さんにいいのでは?」


「なにこれ……」


 本に書かれた文字は読めないが、明らかに何か呼んじゃいけないものを召喚しそうな装丁だった。足が七本しかないタコとか呼べないよ……。


禁止編(きんしへん)とか言ってましたか……」


 それって漢字が違うよね? あとジャンルエラー起きてるし。


「他にも色々呼べる召喚系の本が揃ってますよ」


 召喚魔法には興味があるけど、なんか怪しすぎていけない。この本屋は何を考えているんだろう。


「因みにあまりに売れないので特価になっています。一冊50ドラクマ鉄貨だそうです」


 普通の本の二十分一だ。割引率にしたら九割五分引きだ。セールなんてものじゃない。怪しさが爆発している。


「あ、これなんかいかがですか?」


 ユキノが取り出してきた本は凍りついていた。まるで冷凍庫に入っていたみたいだ。表紙と裏表紙には霜が降りている。


「本……?」


 もはや本なのかあやしいところだ。


「買ってくださいな」


 買うのはいいんだけど、一緒に面倒事を引き込みそうで嫌だ。


「これを買ってくれたら、アテはお兄さんの言うことをなんでも聞きます」


 ユキノが必死すぎる様子で、僕に頼んできた。この本が売れるとユキノになんの特があるんだろうか。


「アテはこれでもいいところの姫なんです。この本を()おてくれれば別の御礼もできます」


「わかったよ。買うよ」


 あまりにも必死なので買うことにする。


「ありがとうございます!」


 ユキノは喜んで僕の手をつかんで跳び跳ねた。いいところの姫といっていた気がするが全然そんな感じがしない。僕は懐から1ミナ銀貨を取り出す。そして、店番をしていたノームへ渡した。


 ノームはおつりの10ドラクマ鉄貨を5枚渡してくれた。


「ありがとう」


「では、この本はアテが持ちますね」


 ユキノが凍っている本を持とうとすると、ノームはユキノから取り上げ僕へ渡した。本を持つと魔力が吸いとられる感覚があった。


「ああー」


 ユキノの悲鳴と共にこの本がなにか理解した。

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