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【17万PV】戦略級美少女魔導士の育て方  作者: 小鳥遊七海
第1章 無人島サバイバル
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134.教義

本日二話目です

 ブラウヴァルトでは、心から宗教を信仰しているからお参りに来るというよりは、街道が整備されていて来やすいから観光がてら来ている人たちが多いようだ。


 みんな大通りに面したお店に並ぶ商品を見ながらお土産には何がいいか相談しながらワイワイと楽しんでいる。


「このお菓子は豆を甘く煮たものを使っているんですね。この中に入っているモチモチした食感のものも歯応えがあって美味しいです」


 カルラが舌鼓を打っているのは完全におはぎだった。甘く煮た豆の色はうすいピンクなので、小豆ではないのだろうが、中身は単なるお餅だ。


「緑茶があれば良かったなあ」


 僕が呟くと近くにいた店員さんが「お持ちしましょうか?」と聞いてきた。


「え? 緑茶があるんですか?」


「はい! 抹茶がいいですか? それとも煎茶?」


 種類まで前世と同じだ。


「じゃあ、抹茶をお願いします」


「お、お客様はわかっていらっしゃる。彼女の分も用意しますか?」


「はい。お願いします」


 僕はカルラの分も頼む。カルラは苦いものが苦手かも知れないけど、甘いものと緑茶の旨味のコンビネーションを知って欲しいと思った。


 店員はお盆を胸に抱えて厨房へ戻っていった。


「抹茶とはなんですか?」


「茶葉を発酵せずに乾燥させて粉にしたものをお湯で溶いて飲むんだ。苦いんだけど、甘いものを食べたあとに口の中をさっぱりさせてくれる飲み物だよ」


 改めて抹茶を説明すると飛んでもない飲み物のような気がしてくる。たしか、元ロシア領のジョージア(グルジア)ではサラダ感覚で緑茶を食べるとかいっていたから、抹茶はまだ良い方だろう。


「ふーん」


 カルラはピンと来ていないようだった。何種類かある甘いお菓子を紅茶と共に食べていく。この分でいくと抹茶が来る前にお菓子がなくなってしまいそうだ。


 ほどなくして店員が茶碗を2つと、鉄瓶、茶筅に、茶入れと本格的な道具を持ってきた。僕はさすが異世界だな、なんでもありだ、などと考えていたが、店員の作法を見ていると前世の動画サイトで見た手順とは全然違っていた。


「こうやって泡立てると口当たりが柔らかくなるんですよ」


 などと言いながら茶筅を素早くかき混ぜている。かき混ぜ方はなれた手つきなので割と売れる飲み物なのかも。


「はい。どうぞ」


 出された抹茶は泡立っていて美味しそうだ。これもサポニンなんだよなあ。サポニンは苦味の成分なんだけど、それが泡立つことで苦味が押さえられるのは不思議な気がする。


 カルラのお皿からお菓子がなくなっていたため、僕のお皿には残っていたおはぎをわける。


「お菓子を食べてから抹茶を飲んでみて」


 カルラは言われた通りにする。抹茶を少し飲んだ瞬間は苦味に眉を潜めたが、あとから来る旨味に驚いたようで残りも続けて飲み干した。


「少し苦いけど、独特の美味しさがありますね」


「色んな成分が入っていて健康にもいいんだよ」


「ヴォルフは凄いですね。こんな遠くの国の美味しい飲み物まで知っているなんて」


 ここより遠い国にもあったとは言えないので曖昧に笑ってごまかしておく。


「そろそろ時間みたいなので、帰ってからも食べられるお菓子を買って帰りましょう」


 日保ちするお菓子は、生姜の砂糖付けや、甘納豆みたいなものがあった。ますます日本のようだなと思いながら、リュックサックに入るだけ買い求めた。


 待ち合わせの場所につくと、みんなすでに待っていた。手に荷物をたくさん持っている。はっきり言って買いすぎだ。


「遅いですよ」


 クララが本を十冊ぐらい持ちながら立っていた。この世界でも異世界転生小説と同じく本は割と高価なものだが、カルラが持っていたムーンライトはたくさんあったらしく、みんな数個は持っていたらしい。


 なにそれ、僕は聞いていない、と思ったけど、結局カルラが全部払ったんだから同じことか。


「では、今日の宿に行くぞ」


 ドーラは色っぽいお姉さん姿になっており、一番の年長者に見えるので、宿屋の部屋を取る役目を担ったらしい。苦戦しながらも高級な宿屋の二部屋を取れたと自慢していた。


 僕は二部屋と聞いて嫌な予感しかしなかったけど、もう突っ込むのはやめておいた。


 ドーラについて宿に向かう。宿は門からそんなに離れていない場所にあるらしい。大通りから外れて比較的な大きな横道を進むと、「大肉の主飯店」という名前のレストランがあった。一階はレストランだけど、二階以上が泊まれる部屋になっているようだ。


 飯店がホテルとか中国みたいだな……。


「ここだ!」


 ドーラが店の前で仁王立ちになりドヤ顔になる。


「へえ、なかなかいい宿ですね」


 クララが感想を述べる。どこを見て判断しているのか僕にはわからなかった。ザッカーバーグ領では宿と言えば簡易的なコテージを指していたので、この世界へきて初めて本格的なホテルに泊まることになる。


「では手続きしましょう」


 カルラが宿泊者用の入り口から中に入る。中は広々としており、レストランになっているスペースはフロアの半分ぐらいだった。どうやらレストランはついで程度のものらしい。


「これはドーラ様!」


 中に入るとすぐに高そうな服を着た男性が出てくる。口髭がいかにも中国人らしい。目は細く表情があまり読み取れない。


「うむ。タイレン。仲間を連れてきた。世話になるぞ」


「はい。七日間の滞在でしたね。もうお部屋は用意できております」


 ん?


「では、早速お荷物をお運びしましょう」


 タイレンの後ろから体の大きい男たちが出てくる。頭は完璧に剃っており、毛の一本もない。タイレンと同じく目は細く、こういう種族なんだと理解した。


「ねえ、タイレン」


「なんでしょう、お嬢様」


「大肉の主亭というからには、お肉料理は期待できるのかしら?」


「そうですね。私どもはあまり食事処には力を入れていないのですが、もしご所望なら明日の夕食から特別な料理をご用意させていただきます。もちろん、肉料理を中心にいたしますよ」


 タイレンはカルラの肉好きを一瞬で見抜いた。まあ、誰でもわかるか。


 それよりもお店の名前って「大国主命」のもじりな気がするんだよね。こう、古くから伝わる四文字の神様の名前が失われしまったように、大国主命の名前も変化してしまったんではないだろうか。


「では、明日からお肉料理をお願いします」


 カルラが勝手に決めてしまったが、僕たちの中には文句を言うものはいない。シャルとドーラの食事は魔力だし、クララはカルラの言うことが絶対だし、僕もアイリもお肉は嫌いじゃない。


 唯一、草食のウリ丸はお留守番だ。


「はい。承りました」


 僕たちは荷物を大男たちに運んでもらう。部屋は2つで男女で別れているということはなかった。


「今日から一日交代でヴォルフと一緒に止まる人を変えましょう」


 待て。それはおかしい。


 僕が口に出すより先に順番が決定する。


 カルラ、シャル、アイリは、仮といえども婚約したので問題ないが、なぜドーラとクララまで順番に入っているのか。


「誰が一番早くヴォルフの寵愛を受けるか勝負だな」


 それは勝負にはなりません!


 ドーラの宣言に突っ込みたかったけど、みんなのやる気が怖くて声にできなかった。僕はどうしたらいいんだろう。


「と、とりあえず、荷物を置いたから鍵を閉めてお昼御飯を食べに行こうよ」


 僕はバチバチ飛び散る火花に我慢できなくて、食事を提案する。できれば、食事をしてどんな調理器具がありそうか確認したいというのもある。


「それならあたしが見つけたお店はどうかな?」


 アイリの話では、前世でいうラーメンみたいなものを出すお店のようだ。暖かいスープに細長いパスタ、たくさんの具材と言う構成らしい。色は山吹色といっていたので、ラーメンかどうか怪しくはあるのだけど。


「せっかく町にいるから手の込んだものはよいですね」


 なぜかシャルが賛成する。


「シャルは魔力以外も食べられるの?」


「はい。取らなくても平気ですが、味はみなさんと同じように感じますよ」


 そうなのか。黒虎の謎の生態がまた明らかになったね。


「我も同じだ」


 ドラゴンも人間の食べ物を食べられるらしい。


「では皆問題なしということで、まいりましょう」


 アイリが先導して歩き始める。みんな道々に売っているものを眺めながらなので歩く速度は遅い。僕とカルラはお菓子を食べているのでそこまでお腹は空いてないけど、アイリとクララはお腹を押さえているので、お腹ペコペコのようだ。


「見るのは後にしようか」


 みんなを促して推定ラーメン屋へ向かう。僕も異世界でラーメンを食べられるのなら凄い嬉しい。ザッカーバーグではラーメンらしきものも蕎麦もパスタもなかったので、麺類は転生後一切食べていない。


「ここです」


 しばらく歩いて着いたのはラーメン屋ではなかった。鉄鍋でグツグツ煮込まれているのは山梨県の郷土料理である「ほうとう」だった。確かにアイリの説明通りの料理である。麺が細いかと言えば主観的な問題だろう。


「美味しそう」


 クララはヨダレが口からこぼれそうだった。色んな具材が煮込まれているのだから美味しさは保証されているだろう。


 早速、席に着く。


「皆さん、ホートーでいいですか?」


「はい」


 他にメニューがあるか気になったけど、ホートーを注文した。すでに煮込まれているので、それを木の器に移すだけのようだ。


「いただきます」


 僕は挨拶してから食べ始める。味はほうとうそのもので、味噌あるのか!とビックリした。それなら醤油もありそうだ。砂糖もたっぷり使ったかお菓子もあったからお土産屋が立ち並ぶ大通りから外れればたくさん調味料がありそうだ。


 麺はほうとうというよりは伊勢うどんそのものだった。やっぱりお伊勢参りなんだ、と思う。


 ここまで日本に似てくるととある可能性を視野に入れなければならないかもしれない。


 つまり、僕の前にも転生者がいたと言うことである。でも、状況証拠を見ると、凄い昔の話なので今はもう死んでいる可能性の方が高いだろう。でもフリーデン宗教国は確実に日本人の影響を受けている。


 一億総玉砕とか考えてた人だったら嫌だなあと思いながらも、この先に神殿で奉られている神様を見ればわかることなので、目の前の料理に集中した。



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