327.森林
野宿に慣れているとはいえないまでも田舎育ちの私は森で眠るときの心得ぐらいはあるのだ。
なるべく高いところに寝床を作らなければならない。できれば足がかりが何にもないところが望ましい。
「やはり、魔法だよね」
手近な木の枝を折り取ると、軽く振って使い心地を確認する。
「これならいけるかな?」
エネルギー変換魔法の新しい使い方を思いついたので試してみることにする。まずは超微細な振動を持っている木の枝に与える。
これは関から聞いた振動する刃がヒントになっている。振動することで刃にあたる部分をのこぎりのように動かし切れ味を増すという。もちろん、刃にあたる部分は切るものより固くなければならない。
だから私は空気中の水分で木の枝を覆い、凍らせた。これで簡易のこぎりとして使えるはず。
「うまくいくかな」
理論上は完璧でも実際に使うと失敗することは多々あるので、私は軽い気持ちで枝を幹に当てた。
その刹那。
パン!
という大きな音を立てて氷の刃を当てたところがはじけ飛んだ。
「な、なに!?」
何が起きたのかわからないけど、削られた幹は自重を支えきれなくなって、次第に傾いていく。
「やば」
私は木の倒れる方向から直角に逃げ出した。
そのあとすぐにバサバサドドーンと派手な音を立てて木が倒れる。幹の太さは私が両腕を回しても半分届かないぐらい大きな木だった。
あまりの威力に手に持った枝を見つめる。
「これは危険だな……」
扱いを誤ると命が消し飛ぶぐらいの威力があるとは考えてもいなかったので、すぐに魔法を中断した。
「今度は振動をゆっくりめから徐々に早くしていこう」
振動を調整しながら、倒れた木の枝を落としていく。ちょうどいい速さに調節すると、一気に枝を落としてしまった。
これでのこぎりは出来上がった。
「うーん」
枝はそこそこ太く強度もあるので建材として使えそうだが、板がない。
普通、板は専用ののこぎりで太い幹を切るわけだが、ここにはそんなものはない。
「なければ作ればいいじゃない」
しかし、一枚ずつ切っていては日が暮れてしまう。
「関が言っていた水流ジェットカッターを使えればいいんだけど」
ただ周辺にそこまで水が豊富にない。
結局、高周波ブレードを使うしかないのだが、一気にたくさんの板を作れないかと考える。
「あ!」
いい考えを思いついたので、すぐに実行した。
日が暮れる前になんとか樹上に寝床が完成した。屋根は天然の葉っぱでなんとかしている。雨が降らないことを祈るまでだ。
木の枝から蔦を等間隔に垂らし、高周波ブレード化し、そこに丸太を通すことで板を作ることができた。大量生産できたが、釘がなかったので蔦で縛り固定するしかなかった。釘があればもう少しましな基地ができたと思うけど、仕方がない。
この空間の気候は夜でも寒くなく、風邪を引くことはなさそうだが、初めての夜なので油断はできない。周囲の空気の温度を一定に保つようにエネルギー変換魔法をかけておく。
「ふわぁ」
さすがに初めての場所で緊張して疲労がたまったのかとても眠くなってしまった。明日はボスの情報を集めなくては……おやすみなさい。




