323 .好敵
カルラ先生はカフェテラスにあるデッキチェアに横たわっていた。
目を閉じており、ゆっくりと胸が上下している。眠っているようだ。
「眠っているところを邪魔しちゃ悪いよね」
隣に膝まづくとカルラ先生の顔が近くなる。
カルラ先生はビルネンベルク王国の第三王女で、そこまで私と離れていない。そもそも魔法学園の先生たちはみなさん若い。
そして、ヴォルフ先生の許嫁でもあるため、美人な方しかいない。
カルラ先生も礼に漏れず、若くて肌の綺麗な美人だ。近くで見るとそれがよくわかる。
普段はちょっと乱暴でバトルジャンキーではあるが、こうやって黙ってじっとしているところを見ると、理想の女の子のように見える。
ただ疲れているのか、眉が少し寄っていて表情がこわばっている。
「疲れているよね」
私はさっそくエネルギー変換魔法でカルラ先生の疲労を取る準備を始めた。
このエネルギー変換魔法は、扉の向こうの世界でモコ様から習ったものだ。個々の威力は普通の魔法より少ないが、応用範囲がとても広く、さらに熟達すれば最強の魔法のひとつになるらしい。
私はこのエネルギー変換魔法の応用として疲労を回復させる使い方を編み出していた。
この世界で唯一の回復魔法の使い手であるヴォルフ先生にも認められた疲労回復魔法で、魚人族の襲撃を退け続けている戦いの中心人物であるカルラ先生を癒す。
そうすることであまり役に立っていない私でも魔法学園を守ることに協力できるのだ。
私はカルラ先生の頬に手を添えた。
柔らかい頬の感触が伝わってくる。
ゆっくりとカルラ先生の細胞に生命エネルギーを送り込むと次第にカルラ先生の表情がやわらいていくのが分かった。
疲労が少しすつ取り除かれているようだ。
肌の血色も良くなってきて、頬が少し紅潮している。
「うんうん」
疲労回復魔法の効果に満足しながら、頷く。
「あ、太ももに擦り傷が……」
軽い怪我だからなのか、治療を施してなかった。
私は同時に海福魔法もかける。
「ん……」
カルラ先生から色っぽい声があがった。
「んん……」
「もう少しですから」
傷は浅いので時間がかからず治せるはずだ。
「き、気持ちいい……もっと……」
ため息をつくような囁きに私はいけないことをしているような気分になった。
「えっと、もう終わりました」
傷が治ったため、回復魔法は終わりだ。
「ダメ、やめないで」
カルラ先生はうっすらと目を開けて私を見ていた。
「もっとして……」
きれいな顔で懇願されると私も断りにくかった。
「は、はい」
傷はないものの、回復魔法をかけ続ける。カルラ先生は少し苦しいのか、自分の胸と下腹を押さえていた。
見ようによっては自分を慰めているように見える。
「ん……んん……」
声がヤバい。
私もなんだか変な気分になってしまいそうだった。
「もう終わりです! 終わり!」
回復魔法と疲労回復魔法を止める。
「もってしてほしかったのに」
カルラ先生は不満を口にしていたがそれでも満足だったのか、すっきりした顔で再び眠りについた。
「おやすみなさい」
私は変な体験をしたと思いながら、その場をあとにした。




