322.快癒
ヴォルフ先生は、今は休憩中のようで学生たちが食事をする大きな食堂で、何かを食べていた。
「ヴォルフ先生」
呼びかけて近寄っていく。
「ミリア、どうしたの?」
みんなの回復を手伝っているため、ヴォルフ先生にも名前を覚えてもらたようで、少しうれしい。
「新しい回復魔法を考えたんですが、ヴォルフ先生に試してもいいですか?」
「え……」
ちょっと遠慮したいという雰囲気を感じる。
「あ、試すと言っても、すでに試した後というか」
私は適当な言い訳をしてしまう。
「あのね、ミリア。僕も他人のことを指摘できないんだけど、新しい魔法を使うときは慎重にしないといけないよ」
エネルギー変換魔法の応用であり、新しい魔法ではないのでセーフではないだろうか。
「えっと、回復魔法の応用というか、疲労を取る魔法なんです」
「へぇ。それで?」
ヴォルフ先生は興味が出てきたのか、話の続きを促す。
「実際に使ってみるとわかると思うので、少しだけお時間くれますか?」
「うん。いいよ。何すればいい?」
ヴォルフ先生に見つめられると私は顔が火照るのを感じる。年齢はそんなに違わない。そのうえに救国の英雄であり、この世界でほぼ唯一の回復魔法の使い手。それだけではなく、魔法理論体系の第一人者であり、数多くの許嫁を持つ。
こんな高スペックの男性に見つめられたら赤くなるのも仕方ないと思う。
「えっと、手を握ります」
本当は手を握る必要もないのだけど、それぐらいの役得はあってもいいはずだ。
私はヴォルフ先生へ生命エネルギーを送り込んでいく。
それは周囲の熱エネルギーを変換しているため、少しずつ気温が下がっていくが火照っている頭にはちょうどいいぐらいだ。
「ん……」
ヴォルフ先生がちょっと色っぽい声を出す。なんだろう、この気持ち。
手が届かないことはわかっているんだけど、片思いならいいよね。
「……これでどうですか?」
手を離すとヴォルフ先生は目を閉じて考えているようだった。
「疲れが少し抜けた気がする」
時間が短すぎたためか、はっきりと実感できる効果は上がらなかったようだ。
「これって僕以外にも出来る? どれぐらい魔力を消費するのかな?」
「誰にでもできます。魔力の消費はちょっとです」
「なら、ミリアの負担にならない程度でいいから、カルラの疲労も取ってあげてくれるかな? 僕より無理をしているようだから」
カルラ先生はクララ先生やレト先生と協力して大量のタレットを製造したり、前線に出て戦ったりしていて碌に休憩をとっていないらしい。
「わかりました。カルラ先生を探して疲労を取ってみます」
「うん。お願いするね」
ヴォルフ先生の役に立てるならと、私はカルラ先生を探すためにその場を離れた。




