319.禁止
何気なくゲーム画面を見ていたけど、どうも私が見てはいけなかったもののようで、セキに目隠しをされてしまった。
ゲームには音楽なんかもついていたはずなんだけど、モコ様はヘッドホンというものをつけており、音はモコ様しか聞こえない。
いったい何が起きているかわからないけれど、私は手に持ったポテチを食べながら静かにまっていた。惜しむらくは喉が渇くけど飲み物を飲みにくいという点だろうか。
ポテチが空になるころ、私の目隠しが外された。
「必殺技ゲージは見つかったんですか?」
「見つかったのよ? これは盲点だったのよ?」
モコ様の説明によると必殺技ゲージと感情の高ぶりは同じことらしい。つまり、物理的なエネルギーを精神的なエネルギーに変換して蓄積する手法が必殺技ゲージと名付けられていたようだ。
「それは逆に感情の高ぶりを物理エネルギーとして取り出せるということでしょうか?」
精神的なことなのに、物理的な干渉を受けるのは、バカな私でもあまり納得のできない仕組みだなぁと思っていた。
「そういうことなのよ? ヴォルフにキスされて感情が高ぶったときに、ものすごい魔法をぶっぱなしていたのよ」
モコ様の熱の入った説明にも私は半信半疑だった。
段々とわかってきたことがあんだけど、ゲームというのは「非現実的な世界」を描いたもので、現実の法則とは違うようだ。
偶然にも私の住んでいる世界と、モコ様が遊んでいるゲームの世界が似通っているので、ゲームの中のことはすべて私の世界でも現実になると思い込んでいたけど、本当はそんなことはないのではないだろうか。
魚人襲撃のときも結果的にはひとりも死亡者が出なかった。しかし、多くの人が瀕死になってしまったのだ。
希望する学生は故郷に送り届けるという通達があった。
私も悩んだけど、モコ様に相談すれば回避できる何かが見つかると思って判断を保留にしている。
私以外の学生は元々プライドが高いこともあって誰も帰ろうとしなかった。それどころか魚人たちと戦う決意すら固めていた。
死ぬかもしれない。学園は元無人島であり、守る必要も薄い。
それでも魚人と戦うと決めたのはビルネンベルク王国の輸送のほとんどが海路によるものだからだ。
ここで、魚人たちの拠点を増やしてしまうと、海路を使った輸送ができなくなり、ビルネンベルク王国全体が衰退してしまうことになる。
学生のほとんどは将来的にはビルネンベルク王国をはじめとして各国でエリートとして活躍することになるのだ。今ここで命をかけることに疑問を持っていないようだった。
「必殺技ゲージの方はあとで練習してみるんですけど」
仕組みに納得いかないけど、もし使えるようになれば非常に有用であることは間違いないのでやるだけやってみようと思っていた。
「それよりも回復魔法をどうにかして早く使えるようになりませんか?」
「何を言ってるのよ?」
「だから回復魔法を……」
「もう使えているのではなかったのよ?」
「え……」
回復魔法は複雑な術式なので、私はまったく理解できていない。使えるようにはなっていなかった。
「ミリアはカルラと戦った時、どうやって空を飛んだのよ?」
「位置エネルギーを運動エネルギーに変換して飛びました」
「何の位置エネルギーなのよ?」
「私の……あ!」
そこまで言われてモコ様が言わんとすることを理解できた。
カルラ先生はあくまでも身に着けた小石などの無機物を操って空を飛んでいる。私のように自分自身を操っているわけではなかった。
一般的な魔法は有機物に対して直接の影響を与えることがとても難しい。だから複雑な魔法陣が必要になるのだ。
しかし、エネルギー変換魔法は複雑な魔法陣を必要としなくても、有機物に影響を与えることができる。
「エネルギー変換魔法なら人体に影響を与えられますけど、どうやって回復魔法にするんですか?」
「エネルギー変換魔法は万能なのよ?」
モコ様がヒントを出して私自身に気が付かせようとしているっぽい。
「……うーん。生体エネルギーがあるとかですか?」
人間が生きる力がエネルギーとして扱えるのなら回復魔法はとても簡単になる。
「そうなのよ!」
あるんだ……。
「正確には細胞が扱えるエネルギーだけどな」
セキが注釈を入れてくれた。
「つまり、細胞に熱エネルギーを与えれば回復能力が激増するのよ?」
「でも、ヴォルフの使っている回復魔法ほど便利じゃないからな。すぐに傷が治ったり、全快するわけじゃない」
そうなんだ。どちらかといえばウリ丸が使っている回復魔法の劣化版ということなのだろうか。
そう言えばヴォルフ先生が以前に回復魔法はウリ丸の使っているものを改良したものだと言っていた。
「わかりました。明日の魚人再襲撃までに必至に練習します」
死にたくない。誰も死なせたくない。私の感情はある意味高ぶっていた。




