318.相違
戦争の処理が終わり、扉の向こうに来る時間が取れた私は、モコ様とセキに魚人襲撃の一部始終を語った。
「ということで死にかけました」
「別に死にかけてないね」
窮地を脱した人に掛ける言葉とは思えないほど冷たいセキの反応が少しイライラします。
同時に、本当に死にかけたことがある人しか、この気持ちはわからないんだなぁと思いました。
おそらく、以前の私だったらセキと同じような反応をしただろう。
「直接の被害はないのだから死にかけたとは言えない」と。
でも、違う。人間は死ぬときは一瞬なんだ。状況さえ揃ってしまえば、あの先輩やナナのように死ぬような傷を負う。
結果的にはウリ丸の回復魔法で助かったけど、いつも回復魔法を使えるわけじゃない。
私だって、あの状況ではほんの紙一重で生き残ったに過ぎないのだ。
「ミリアは怖かったのよ」
モコ様は私の頭をそっと抱いてくれた。
モコ様の胸はとても柔らかくて暖かかった。
意識していないのに、自然と涙が出てくる。魚人たちが聖堂に入ってきたときでさえ泣かなかったのに、今になって恐怖が認識できたのだ。
「……怖かった。怖かったんです」
「恐怖はさらに大きい恐怖で克服するのよ!」
そう言いながら、泣いている私の肩を叩く。
「え……?」
「たぶん、明日辺りに魚人再襲撃イベントがあるのよ?」
「はい?」
ちょっと理解できない。魚人が何回も襲撃してくるとは聞いていたものの、あのレベルがそんなに何回も来るということなのだろうか。
「魚人再襲撃イベントではやっと一年生の出番なのよ。ナナは魚人に対する恨みを晴らすべく活躍するのよ。ミリアも負けてられないのよ?」
敗けたいです。
もう田舎に帰って平和に暮らしたい。
昨日の決意もすでに忘れるほど、私は魚人に対して恐怖心を抱いていた。
「まあ、今はつらくてもレベルアップすれば、魚人なんて屁とも思わなくなるよ」
「下品なのよ?」
セキはあの魚人たちの強さを知らないから、簡単に言っているのだと思った。魔法が一切効かない。生半可な剣術では弾き飛ばされる黒い鱗。私は対応できる手段を持っていない。どうやって戦えというの。
「ミリアも必殺技ゲージの使い方を覚えれば、魚人に対する恐怖もなくなると思うよ」
「必殺技ゲージ?」
おそらくゲームの専門用語なのだろうけど、必殺技が使えるようになるということだろうか。戦場で『必殺』が実行できるのなら、それは心強いと思う。
「とりあえず、ミリアにはエネルギー変換魔法で必殺技ゲージをためる方法を覚えてもらうのよ? これは訓練ではないのよ。実戦なのよ?」
訓練なしで実戦するとか頭おかしいと思ったけど、モコ様はいつもそうだった。
モコ様の説明を聞くに、『必殺技』とは蓄積したエネルギーを一瞬で爆発させることであり、わかりやすく言うと、カルラ先生と戦った時に使った運動エネルギーを爆音に変えたような使い方であるらしい。
「その『必殺技ゲージ』ってどこにあるんですか?」
「セキ、どこにあるのよ?」
「え、知らないよ」
無言になる三人。
エネルギーを貯めるには何かに変換しなければならない。位置エネルギーとか運動エネルギーとか。
私が考えるなら小石を回転させる運動エネルギーに変えれば良さそうだけど、カルラ先生が前に使っていた土魔法では小石はすぐに熱くなり熱エネルギーに発散してしまっていた。
「ちょ、ちょっと調べておくのよ」
「魚人の再襲撃は明日って言ってませんでしたっけ?!」
大事なところを忘れるとか、ちょっとひど過ぎる!
「チョコあげるから落ち着いて」
「チョコぐらいで落ち着けません!」
「ハーゲンダッツのクッキークリーム上げるから」
「それなら……」
ハーゲンダッツは以前に食べさせてもらった時にとても美味しかったので、食べている間なら落ち着けると思う。
「その間にゲームやるぞ、ハナ様」
「わ、わかったのよ? 必殺技ゲージに関するテキストを何とかしてみつけるのよ?」
私はふたりがゲームをしているところをハーゲンダッツを食べながら何気なく見ていた。
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