317.霊獣
ウリ丸は苦しんでいる先輩の脇の下に収まると、そこで蹲った。
何が良いのか私にはわからなかったけど、先輩の顔色は段々と良くなっていく。呼吸も弱弱しかったのが、嘘みたいにしっかりしている。
「助かった……?」
その場にいた全員が安堵する。噂には聞いていたけど、ヴォルフ先生以外に回復魔法を使えるのが、こんな可愛いウリ丸だなんて……。
ウリ丸はこの無人島に元々住んでいて未だに生態が解明されていない霊獣らしい。ウリ丸以外にもたくさんいるらしいのだが、学園内では見たことはなかった。
私たちはそれから外の音が聞こえなくなるまで、聖堂の防備を固め、なんとかしのぎ切った。一年生にしてはしっかりやれたほうではないだろうか。
◆ ◆ ◆
しばらくして戦いの音が止み、高い窓から様子を見ていた学生が大丈夫そうだと言ったので、私は入口の気温を徐々に戻していく。凍っていた机や椅子も次第に溶けて崩れていく。下には水たまりができてしまったので、あとで掃除しなきゃ。
誰も一言も言わず恐る恐る外に出る。
「ひゃぅ」
マリーの悲鳴に視線を追うと、至る所に魚人の死体が転がっていた。幸いにも人間の死体は一つもないようだ。
黒光りしている鱗は未だ乾いておらず、生臭い臭いがそこら中に漂っている。
私はウリ丸をぎゅっと抱きしめる。これが本当の戦場というものなんだと思い知った。
「迎撃にいった人たちは大丈夫だったかな……」
「まだ打ち漏らしがいるかもしれないから、まとまって行動しよう」
男子学生が女子学生を守るように囲んでくれる。
警戒しながらゆっくりと正門の方へ向かうと、そこには負傷者が横たわっていた。
だいたい三十人ぐらいだろうか。いずれも迎撃に出ていった一年生のようだ。
ヴォルフ先生が重傷者から回復魔法を掛けていた。ただ人数が多く、すぐには回復できないようだ。
みんな心配で負傷者に寄っていく。
「ヴォルフ先生、ウリ丸を連れてきました。次に治療が必要な人を教えてください」
私はヴォルフ先生に駆け寄ると指示を仰ぐ。
「じゃあ、ナナをお願い。ウリ丸、よろしく」
すぐにナナの元に駆け寄る。
ナナは背中を大きく抉られているようで、出血こそ少ないものの痛みが激しいらしく、ものすごく苦しんでいた。
「ウリ丸、お願い」
ウリ丸はナナの近くによると蹲る。ナナの傷がゆっくりと、しかし、目に見える速度でふさがっていくのがわかった。
「これが回復魔法……」
私はエネルギー変換魔法を使えるようになって、落第せずに済むとよろこんでいた自分を恥じた。
現状、回復魔法の使い手は少ない。
だからこそ、回復魔法の素質があるといわれた私は、もっと早く回復魔法を身に着けるべきだったのだ。そうしたら、ウリ丸に頼らずとも苦しんでいる同級生を救えたはずだ。
「他に出来ることはないかな」
私はナナの回復をウリ丸に任せて、軽症者の治療をするために医療キットを取りに行った。




