315.魚人
今、魔法学園は魚人の襲撃を受けていた。ここまではセキの言った通りの展開だ。
魔法が使える先生方が重傷で運ばれてきており、攻め手にかけている。魚人たちは魔法学園を包囲していた。
「先生たちが戦えない今、わたくしたちでなんとかしましょう!」
二年生や三年生は魚人襲撃の防衛線に当たっている。もちろん、先生たちもホバーやレーザーと言った兵器を使って防衛をしている。
今、私たち一年生は先生の指示に従って学園の比較的奥にある聖堂に集められていた。
つまり、一年生は戦力外通告を受けているのだ。
「今はおとなしくしていた方が……」
落ちこぼれの私には矜持なんてないので、誰も死なないのだし、危険な戦闘は先生や先輩に任せておいた方がいいと思っている。万が一、私たちが足手まといになってしまったら、それこそ先生や先輩たちが危ない状況になってしまうと思う。
しかし、そんな私の考えをみんなは理解できなかったようで、非常に冷たい視線を送られる。
モコ様に説得されて私はここでじっとしていることに納得しているが、他の人たちは地元では優秀だといわれていた人たちなので、何もできないという状況が歯がゆくて堪らないのだと思う。
「わたくしは行きます。志願する方は一緒についてきてください!」
「じゃあ、せめて、この魔法防具を!」
元々、カルラ先生が身に着けていてヴォルフ先生からもらった魔法防具をナナへ渡す。死なないとわかっていても重症になることを避けられるかもしれない。
「ありがとう。では、行きましょう」
ナナと一緒に半分ぐらいが出ていってしまった。
こうなったときの結果をハナ様に聞いておけばよかったと思いつつも、今はどうにもすることができない。
聖堂に残った人たちも戦闘向きではない人だけ。
「ナナ、格好良かったね」
「えーと、たしか、マリー?」
「そうだよ。マリー・カスターニョ。よろしくね」
良かった。うろ覚えの名前はちゃんとあっていたようだ。栗色のおかっぱで背の小さな女の子のマリーは魔工師を目指していると自己紹介していた気がする。
「ナナみたいに才能と自信があれば、戦えるようになるのかなぁ……」
「うーん、人には向き不向きがあるから」
私はどれにも向いていないような気がしてならないけど。
「魔工師としては、防衛兵器の修理とかで支援したいんだけど、最低限身を守れる能力がないと足手まといになりそうで怖いんだよね」
「わかる。私も身を守れないし……」
今の私の問題はマリーのように支援できるスキルは何もないということだけど。
「でも、カルラ先生との勝負に勝ったり、すごかったじゃない。CASの魔法を見てから私の中ではミリアは天才魔工師だと思っているよ」
「魔法陣は作れないんだけどね」
「あはは」
マリーは笑ってごまかしてくれる。
「「はぁ……」」
そして、ふたりでため息をついた。
「早く一人前になりたいね。こういう異常事態に何もできないとモヤモヤしちゃうんだよね」
マリーも他の優秀な学生に漏れず、地元ではとても優秀な人だったようだ。私とは大違いだ。
――ギャー!
突然、聖堂の入り口の方から悲鳴が聞こえた。
「……なんだか騒がしいね」
「確かに」
「敵襲?!」
私とマリーは奥の部屋から出ると聖堂の入口の方へ急ぐ。
走っている途中で、状況が確認できた。
どうやら、聖堂の入り口を守っていた先輩が侵入した魚人の銛に刺されているようだった。
銛の先にいる先輩は遠目からでも息がないのが分かる。
魚人は一人だけ? と思っていたら入口からぞろぞろと入り込んでくる。
「やばいのでは?」
横でマリーがつぶやく。
あれだけの人数が侵入してきたということは防衛線のどこかが突破されたと見ていいだろう。
「火・槍!」
「炎・矢!」
私たちのあとから追い付いてきた他の一年生の攻撃呪文が飛ぶ。
しかし、そのすべてが魚人たちに到達する前に消滅した。
「対魔法装備……」
初めて威力を目の当たりにすると、これほど衝撃を受けるものなんだ。
「こんなの、どうやって戦ったらいいの……」
マリーのつぶやきは他の一年生の心情を代弁しているようだ。
もちろん、私の心の内も。




