313.再生
「……ということがあったんです」
私は扉の向こう側にまた来ている。目の前にはヘーゼルナッツをチョコレートで包んだ夢のようなお菓子が山のように積み上げられていた。長い話を終えて、ひとつつまんで口に入れる。
ナッツとチョコのそれぞれの香ばしさがたまらない。
「そのままカルラを殺しておけば良かったのよ? そうすればヴォルフとのトゥルーエンドも間違いなしなのよ?」
物騒なことを言うモコ様。
「そんなことできません……」
相手は恐れ多くもヴォルフ先生の第一婚約者であり、ビルネンベルク王国の第三王女だ。殺すどころか傷をつけるだけでも万死に値すると思う。
「それにしても、ヴォルフは未だに童貞なのかな?」
「それは間違いないのよ? 前作ではエンディングで結ばれたはずだけど、『戦略級美少女魔導士の育て方D】ではみんな処女に戻っているから」
「え、カルラ先生って処女なんですか?」
「そうなのよ。処女膜が再生しているはずなのよ?」
「えっと、再生?」
処女膜って再生するものなのでしょうか。今までこういう話に疎かったせいもあり、モコ様が冗談を言っているのか本当のことを言っているのか判断できません。
「うーん、長いことエッチしてないと再生するっていう噂も聞いたことあるけどなぁ」
「黙れクズなのよ。キモいなのよ」
思いっきり後頭部を叩かれ、セキは目に涙を浮かべてます。ハナ様、容赦がありません。
「どちらにしろ、最初にヴォルフの寵愛を受けなければトゥルーエンドは訪れないのよ? 毎晩、お風呂で胸をもんで大きくしておくのよ?」
本当にそんなことで胸が大きくなるのかな。
モコ様の豊かな胸を見ると、ちょっと説得されそうになってしまう自分がいる。
「ヴォルフは胸の大きさなんて気にしてないと思うけどな」
言われてみれば許嫁の先生たちを見ても胸の大きさは様々だった。何よりソニア先生ほどの立派なスタイルの持ち主が未だに寵愛を受けていないということは胸の大きさが判断基準ではないということだと思う。
「それは冗談として、カルラに勝ったのは素晴らしいのよ。褒めてつかわすのよ」
「ありがとうございます!」
モコ様に褒められて単純にうれしい。エネルギー変換の魔法の訓練はかなりつらいのだけど、褒められるとあの苦労が報われる気がする。
「次は何をすればいいんですか?」
「ゲームではそろそろ海底王国からの強襲イベントが発生するころなのよ」
「あれかぁ……」
ハナ様の目は笑っていない。セキの反応を見ても非常に大変なことが起こるのだろうと予想できた。
「海底王国って聞いたことがないんですが……」
意味合いからすれば、魚人とか人魚とかそれに類する種族が私たちがいる魔法学園を襲いに来るっていうことなのかな。
「今作からだもんなぁ。前作ではミニゲームはすべて地上が舞台だったけど、今作から海上や海中も戦場になるんだよ」
「あれは常時消費される魔力が地味に痛いのよ。それに使える魔法も制限されるから強化する魔法を間違えていると、そこで詰むのよ?」
ハナ様は少し悔しそうな表示をしている。最初ゲームをしたときに痛い目にあったのかもしれない。
「確かに海の中で火魔法を使うのは困難が伴うと思うけど、それは海底に入るからで地上におびき出して戦えばいいんじゃないですか?」
私がふと思った疑問を口にすると、ハナ様は可愛そうな子を見る目で私を見た。
「ミリアは想像力が足りないのよ。もう少し想像力を働かせるのよ」
「はぁ」
想像しても思いつかないものは思いつかない。そもそも無人島では空を飛んで移動する手段がほとんどで海上を移動する手段はあまり使わない。せいぜい食料を大量に運ぶ……。
「あ、食糧が届きません!」
「それだけじゃないのよ。豊富にいる魚を取って食糧にしているなら、それもなくなるのよ。無人島なんてすぐに干上がるのよ!」
飛空船ならと思ったけど、飛空船はたくさんあるものではなく、無人島と本土との行き来だけをしているわけにはいかない。あとはドーラ先生が大きな龍となって運んでくるという手もあるけど……。
「それではドーラとヴォルフが結ばれてしまうのよ? ミリアはいらない子になってしまうのよ?」
「困ります!」
あれだけ盛大に田舎を送り出されてきて一年経たずに戻りたくない。
「その前に、魚人って地上にいてもめっちゃ強いからね。命の心配の方が先だと思うよ」
セキが忠告してくれる。
「え、そうなんですか? なら海中で戦った方がいい?」
「それはダメなのよ? 序盤なのに海中で戦おうものなら、百回やって千回死ぬぐらいの難易度なのよ? ルナティックどころの騒ぎじゃないのよ?」
ハナ様の例えはよくわからなかったけど、勝てないということだけ理解できた。
「とりあえず、ミリアは対海底王国戦で活躍してもらわないとね。ゲームではスーやユキノの氷魔法が強かったけど、エネルギー変換魔法では凍らせるにしても速度が遅すぎるよなぁ」
「そうなのよ。未だにエネルギー変換魔法だけ育てていたキャラではクリアしたことないのよ」
「え、エネルギー変換魔法しかまともに使えない私では勝てないということなのでは?」
そこで二人は目を伏せた。
「ちょっと! ちょっと、ちょっと!!」




