312.性能
私がカルラ先生に借りた高性能な魔法防具を使ってやっと目を開けていられるような急降下についてくるカルラ先生。
「流石です」
でも、私の狙いは急降下による逃亡じゃなかった。スピードが早すぎてほんの少しブレーキを掛けるタイミングを間違えば地上に激突する中、カルラ先生は私に追い付いた。
「はやく止まった方がいいんじゃない?」
カルラ先生のおっしゃる通り、急降下から停止するとき、停止する時間が短ければ短いほど、体にかかる負担は大きい。いつもの私だったら急停止なんかしたら、気絶するどころか死んじゃうかもしれない。
「カルラ先生もはやく止まった方がいいですよ。今日は魔法の防具を付けていないんですから」
「あ! それが狙いなの?!」
この作戦には穴がたくさんある。
カルラ先生が急降下しないで、ゆっくり降りてくればそれで終わりなんだし。
「よーし、負けないよ!」
でも、カルラ先生は負けず嫌いなので、付き合ってくれると思った。急降下からの急停止は普通なら地面や水面にぶつかったような衝撃を受けるのでやってはいけないこととされている。
それこそカルラ先生から借りた高性能な魔法防具でも身に着けていない限り大怪我は免れないだろう。
段々と地面が近づいてくる。
横に並んでいるカルラ先生の顔も真剣だ。一つ間違えば大けがだからだ。
「もうダメ!」
カルラ先生が叫び声を上げて急減速を掛ける。私は減速せずにそのままの速度で地面に向かう。
「ちょっと、止まりなさい! 死んじゃう!!」
ただ静止の声は少し遅く、ほぼ同時に私は地面に到達する。
同時に今まで溜まっていた運動エネルギーを波エネルギーへ変換した。
――ドドーン!!
すごい音だけが周囲に響く。
音だけはすごいが地面に穴が開くでもなく、私はすっと降り立つ。
地上で見ていた生徒たちは見えている光景と音が合っていなくて、耳をふさぎながら驚いた表情で私を見ていた。
「大丈夫?!」
あとから降りてきたカルラ先生が私の横に降り立ち、怪我がないか確認している。
「はい。大丈夫です」
「良かった~」
と言うほっとした瞬間を狙って私はカルラ先生の胸に手を置いた。
「え?」
一瞬何が起こったか分かっていないカルラ先生。
「ああーーー!!」
次の瞬間、何をしている最中だったか思い出したらしく、くやしさが滲みだした奇声を上げた。
「勝ちですか?」
あまりに大きな声に私は恐る恐る確認をする。いや、ちょっとずるいと思ったんだけど、まともに戦ったら勝てないし、こういう作戦しか思いつかなかったんだよねぇ。
「うん。勝ちだよ、ミリアの勝ち」
カルラ先生は負けを認めてくれたようだ。これで戦闘術の授業も良い評価をもらえたはず!
「一応、ヴォルフに見てもらってね。あれだけ急停止したら内臓にダメージがあってもおかしくないから」
あ、結局、ヴォルフ先生に見られることになるのか。でも、今回は服は破けてないので恥ずかしいことにはならないと思う。
「じゃ、次行こうか!」
カルラ先生はもう気持ちの切り替えが終わったようで次のチームを読んでいた。
私はヴォルフ先生のところに歩いていく。
「すごい音だったけど、どこもなんともない?」
ヴォルフ先生は私に触れようとはしなかった。見た目上、どこにも傷がないので遠慮しているらしい。
「はい。大丈夫です」
「うーん、気分が悪くなったらすぐに言ってね」
「はい」
「その服よく似合ってるよ」
「あ、返し忘れていました。すぐに脱ぎます。カルラ先生へ返しておいてください」
「いや、あげるよ。同じ服がなんちゃくかあるし」
「え、こんな高性能な魔法防具が何着も?」
「カルラはすぐに壊しちゃうからねぇ……」
「あぁ……」
もしかしたら、この魔法防具はそんなに高いものではないのかもしれない。
「では、お言葉に甘えていただきます」
「うん。カルラに勝つのはミリアだけだと思うし、ご褒美だね」
それはどうだろう。私と同じ手口はもう使えないと思うけど、他の生徒の方が優秀だし、カルラ先生の胸を一瞬触れるぐらいならなんとかなるんではなかろうか。
などと思っていたら、私の次に挑んだ5人組が地面に叩きつけられていた。
「やば! 道開けて!」
ヴォルフ先生が慌てて飛び出していく。
叩きつけられた生徒はナナが使った風魔法で少しだけ衝撃を和らげたようだが足や手が変な方向へ曲がっていた。
「う、まともにやらなくてよかった……」
私は改めてカルラ先生のすごさを見せつけられた。
エネルギーを発散させる効率で一番いいのはやはり音ですよねぇ。




