304.変換
モコ様に熱エネルギー変換のやり方を習った。
扉の向こうでは魔法の行使が出来なかったので、戻ってきてから練習している。
「エネルギー変換には魔力を少ししか使わないけど、集めるのに時間がかかるなあ……」
例えば空気からエネルギーを集めようとすると、燃えるような温度にするためには10分ぐらい掛かってしまう。
そんなんだったら、カルラ先生に教えて貰った着火の方が1秒も掛からず、燃えている炎を作れるのだから便利だ。
使う魔力はエネルギー変換が0.0001だとしたら着火は1ぐらいだ。その比率は1万倍だけど、いくらそんなに魔力がない私でも1なら何発でも撃てる。
モコ様は嘘を言っているようには見えなかったけど、目の前でバンバン強力な魔法を撃つカルラ先生の方が正しいことを言っている気がするんだよね……。
「ただ練習しているうちに段々早くなっているんだよね。微妙な感じではあるけど」
このままいけば着火と同じレベルにはなるけど、消費魔力が少い着火を覚えたからと言って、強くなれる訳じゃないんだよね。
授業を受けながら練習しているけど、同じことを繰り返すのは苦痛この上ない。
練習嫌いの性格も今のおちこぼれの原因だと自覚しているので、ここでサボろうとは思わないのだけど、苦痛は苦痛だ。
次に扉の向こうへ言ったら相談してみよう。
今はソニア先生が商業ギルドの話をしている。魔法使いに必要ないような気もするが、なんでも商業と魔法使いは切っても切れぬ関係らしい。
ミー先生は商業ギルドに氷を卸し、新鮮な魚を売るのを手伝っていた時期があったとか。
ただその氷を産み出す量は膨大なミー先生だからこそ出来たのであり、私のようなおちこぼれには……あ!
そこで私はひらめいてしまった。
1万分の1に魔力を節約できる熱エネルギー変換なら大量の氷を精製するのも現実的だ。
水は用意していただく必要はあるものの、それを凍らせるには燃える温度を作るよりも容易い。
魔法学園を卒業したら、フェルゼンハントで氷の卸しをして生活しよう。
将来の職業が決まり安泰になったことで、私の心には余裕が生まれてきた。
「では、ナナ。最上級の氷魔法は何か答えて」
商業の先生が氷魔法を質問するのもおかしな話だけど、それほどまでに氷魔法と商業が深い関係にあるんだと思う。
優等生のナナ・レビジュは自慢の縦ロールの金髪をさらりと肩の後ろへ流し、立ち上がった。
「絶対零度です」
私のような落ちこぼれとは違うので、先生の質問にも簡単に答える。
美少女で頭もよくて魔力も多いとかチートこの上ないと思う。
「正解。絶対零度は強力で長期間ナマモノを運ぶときに役に立ちます」
私には使えもしない魔法の名前を覚えても意味がないような気がするけど、将来の仕事にするかもしれないのでメモしておく。
しかし、ある疑問が浮かび質問したくなった。
「ソニア先生。質問があります」
「はい。とうぞ」
「絶対零度よりも下の温度は存在するんですか?」
「存在するわけないじゃない」
私の質問に被せるように答えたのはナナだった。
「そうなの?」
教室の中で私の疑問に賛成してくれる人は誰もいない。あれ……もしかして常識なの……?
「絶対零度よりも下の温度は存在し得ます」
でもソニア先生の答えは違うものだった。
「例えば、高圧力下では実質的な融点の低下が起こります。絶対零度でも凍らない物質を凍らせるには圧力を高くするのが有効ですよ」
藪をつついてしまった! ソニア先生の言っていることがまったくわからなかった。
しかし、私の疑問は正しかったわけで、教室はザワザワしている。
「あ、ありがとうございます」
回答のお礼を言うと、再び席についた。
「では、次回の実習はミーやユキノと一緒に氷魔法で絶対零度よりも低い温度を作ってみましょう。それが出来たら評点をSにします」
その一言に私は凍りついた。
「あ、あの……出来なかったらどうなるんですか?」
「出来なくても、問題ないですよ。でも、別のことで頑張ってくださいね」
その別のことは壊滅的な出来なので、これで評点を取りたい!
「頑張ります!」
私が気合い入れたのと同じようにみんな気合い入れたようだ。




