303.魔法
『魔法は4つに分類できる』と言うのは、魔法学園の学長であるヴォルフ先生の言葉だ。
しかし、その概念は難しい上に、私が素質をもつと言う回復魔法は4つの概念を複合的に扱えなければならない。
回復魔法を使えるのは未だにヴォルフ先生だけで、才能も知性もあるカルラ先生でさえ使えないらしい。
魔法の天才と言われたカルラ先生でも無理なものを田舎者の私に使えるはずがない。
「ヴォルフの魔法分類には穴があるのよ。あれはミスリーディングなのよ? あれを信じると後半はまったく魔法が通用しなくなってクリアが難しくなるのよ?」
「だよなあ。真エンド見る前に、教え子に何度手を出したことか……」
なんのことか分からないけど、どうやらヴォルフ先生の魔法理論にケチをつけているようだ。
「ヴォルフ先生の理論は完璧ではないと言っていました。これからまだまだ発展していく余地があるので、私たちも疑問に思ったことを指摘するようにと」
「……その辺もイケメンだな」
「そうでなければ、ヒロインたちもすぐに股をひらかないのよ?」
「ちょっと下品だぞ」
「モコ様は謝るのよ。ヴォルフの品位を落とすようなことを言って悪かったのよ」
「き、気にしてないです」
どこが下品なのか分からないけど謝られた。
「とにかく、今の魔法理論より進んだものを覚えるといいのよ。そうすればヴォルフの覚えもめでたくなるのよ」
黒板に「運動」「熱」「音」「光」「質量」などと書かれていく。知らない文字なのに読めてしまう感覚は不思議だった。
「物理現象はエネルギーを操ることでもあるのよ。特にエネルギーの形を数多く知っていることが重要なのよ。ヴォルフの理論ではエネルギーを得て形が変わる物質の方に注目していたから、色々矛盾点が出てしまったのよ?」
「あの……テレパスみたいな魔法は……」
「そっち系は物理現象とは異なるのよ。また別の魔法体形なのよ」
「世の中はひとつの原理原則では成り立ってないんだよ。その辺は俺たちも詳しくは知らないんだけど」
「モコ様は知ってるのよ?」
セキは「そうでした」とすぐに訂正をした。
「では、まずは物質現象を扱う魔法から覚えると言うことですね?」
「そうなのよ。この魔法はすべての基本にして現実世界に直接干渉できる手段なのよ」
テレパスが使えれば情報共有が出来て、戦場では有利になる。
しかし、それは戦況に影響を与える魔法を使えてこそだ。
「わ、私は火の魔法は少しは得意です!」
「火の魔法なんて忘れてしまえなのよ!」
え、ええ~。
「さっきも言ったようにエネルギー変換が鍵なのよ」
「言ってないな」
「そうだったのよ? エネルギー変換を自由に出来るようになれば火のない火の魔法だって使えるようになるのよ。目に見えないのに高温なんて最強なのよ!」
段々ヒートアップしてきたモコ様はまた机を叩き始める。
「チョコ食べる?」
セキはそういう様子のモコ様に慣れているようで、平然としてチョコレートをすすめてきた。ありがたく頂戴する。チョコレートおいしい!
チョコレートを食べながらモコ様の話をまとめる。
ああ、ちゃんとノートを取りながら真面目に聞いた結果、エネルギーと言うものはどんな場所にも存在しているという。
なんとなくエーテルみたいだなと思ったけど違うらしい。
熱と光はエネルギーが体感できるように変換された結果であり、この発生や変換に干渉出来るようになれば火の魔法は使いたい放題だという。
「モコ様。それは魔力がなくても魔法が使えるようになると言うことですか?」
「そうなのよ」
「えーと、魔法使いの腕輪が光らなくても?」
「ヴォルフは光らなくても回復魔法を使えるのよ」
そうだった。ヴォルフ先生は魔力はたくさんあるけど、魔法使いの腕輪は光らない。着けたところを見たことはないけど、本人がそう言っていたのだから間違いないだろう。
「だから、ミリアちゃんも腕輪外した方がいいぜ」
「え、いやです!」
これはヴォルフ先生から貰った大事な腕輪なのだ。外すことはできない。
「困った子なのよ? チョコ1年分と交換でどうなのよ?」
「わかりました」
こうして私はチョコレート1年分で魔法使いの腕輪を売ったのでした。




