242.街並
「人間は土から離れて生きられないのよ、か」
有名な台詞を呟いて見たが、それは土の中なので、そんな心配はない。
逆に日光不足なのでビタミンDが不足するのではないかと思った。この世界にもビタミンがあるかどうかは知らないけど。
「ゴッテスフルスは鉱山が有名なのですから鍛冶屋を探しましょう」
ハイジの提案には異論はなかった。
この世界の鍛冶レベルは鍛造から鋳造と言うところだと思う。
フリーデンには鍛造の出来る鍛冶屋がいて、鋳鉄から練鉄へ転換した鋼を使った武器を使っていた。
ゴッテスフルスはさらに高度な製鉄技術を持っていると思われる。
魔法が使える世界では製鉄技術も幅があるから、木材や石炭、石油などに頼った熱源を使わずにすむ。
昔は鉄製品が高かったのは鉄の値段よりも熱で鉄を溶かすエネルギー源がコストの大部分を占めているからだ。
エネルギー源の木材が製鉄コストの9割を占めていたら、森林はあっという間に禿げ上がってしまう。
前世ではそれが原因で初期の文明があったところはどこも砂漠になってしまっている。
ゴッテスフルスを見る限り、森林が過剰に伐採されているあともなかったし、エネルギー源は魔力か、僕たちが知らないものなのだろう。
懸念されることは、精霊がエネルギー源として不当に拘束されていることだ。
「この先は鍛冶屋街みたいだね」
フリーデンでも嗅いだことのある鉄の匂いが漂ってきた。
少し歩くと道に屑鉄が散乱していた。
学校で旋盤を使ったときに出る鉄の削りカスだ。
鍛造や鋳造だけではなく、旋盤加工まで出来るんだろうか。
僕が思ったよりも技術力が高いようだ。
「あれなんですか?」
ハイジが指差す方を見ると、鉄製の細かな部品があった。
どうみてもボルトとナットだ。
木ネジよりも高度な技術が必要で、かつ大きなトルクを掛けられる。工業部品の中でもかかせないものだった。
「あれは部品と部品を強力にくっつける道具だね。しかも誰でも使える」
そして、ボルトとナットの凄いところは誰でも簡単に使えるということだ。
木を継ぐ方法はたくさんあるし、ひとつの木材のように扱えるが、技術が身に付くまで時間がかかるし、ひとつ継ぐにもいくつものホゾをほらなきゃならない。
しかし、ボルトとナットは穴を開けるだけで誰でも継ぐことができる。
「じゃあ、あれを帰りに仕入れていきましょう」
国家機密で持ち出しできないんじゃないかな?と思ったけど、機密だったら、街の鍛冶屋で作っているわけないか。
「すみません! どなたかいらっしゃいますか?」
ハイジは商人らしく、早速交渉に向かう。
「へい!」
鉄がぶつかり合う音に負けないぐらいの声で返事が帰って来た。
「なんでしょう?」
出てきたのは「ザ・ドワーフ」という感じの背の低くがっしりした体型の髭もじゃだった。




