240.会話
「ビルネンベルクは相変わらず戦争してるの?」
「まあ、そうですね。フリーデンやゴッテスフルスと戦争してます」
僕が知る限りではその二国だけど、南の方では別の国と戦っているかもしれない。
でも、僕たちにはそれを知るすべはないし。
「なるほどね。まあ、戦争が収まるまでゴッテスフルスにいるといいよ。働く必要があるなら、仕事を紹介してあげるから」
今回は商人になっているので、それなりの蓄えがあると思われているのだろう。仕入れに使うお金がないと商売になんてならないし、道中で使う旅費に比べたら滞在費はそこまで比率は高くない。
「ありがとうございます。じゃあ、早速お仕事お願いします! ちょっとでも多くの商品仕入れたいですし」
働く必要なんかないけど、スパイとしては情報を仕入れるときにしっかりした身分があったほうがいい。
この場合はパン屋のお姉さんの口利きで仕事をもらった方が色々な情報を集めやすい。
「さすが商売人だねえ。もし宿がないようなら今日はうちに泊まるかい?」
「いえ、宿はあるので大丈夫です」
ハイジは即答した。
「そう。仕事は見つけておくから、明日の朝にまた来て」
「わかりました」
食事も食べ終わった僕たちは結局名前を聞けなかったお姉さんに挨拶すると、お店を出た。
しばらく歩く。
「泊めて貰えば良かったんじゃ?」
「流石に昨日今日来た人だったら驚かれるんじゃない?」
確かに。
「地下に潜っているこの状態がいつからか分からないと、情報を聞くにも不便だよ」
「見た感じ潜って数日かなと」
「どうして?」
「人は地下に来ているけど、生活や仕事に必要なものは地上に置いたままのようだし。戦時に一時的に潜る場所なんじゃないかな?」
ビルネンベルクは攻めてばかりなので都市防衛の概念がなかったり、技術レベルが低かったりする。
もちろん空襲なんてホバーが開発されるまで誰も警戒しなかっただろう。
だから、この地下街も掘りっぱなしで急造なんだと思う。
「なるほど。もし地下に長くいるなら荷物は地下に持ってきた方が便利だもんね」
ハイジが納得したところで、今日の宿を探すことにする。
戦時と言えども旅人は何人も帝都に来ているはずであり、帝都の宿も数件ということはないはずだ。
何かの問題で宿を変えることもあるだろう。
僕たちは少しお金を上乗せしてでもグレードの高い部屋に入りたいと交渉するつもりで、空き室のある宿を探す。
地下街には看板がないため、なんのお店か分かりにくいが、なんとか宿を探し出した。
「いらっしゃい」
カウンターの代わりになっているだろう机の上に座っていたお姉さんが声をかけてくる。
「部屋を探しているんですけど……」
「二人部屋なら空いてるよ。それでいい?」
「はい!」
ハイジが元気よく返事をした。
出来れば別々の部屋が良かったんどけど、スパイとしての設定や状況を考えるとしかたがない。
「じゃあ、ここに名前を書いてね」
「私たちはビルネンベルクから来たんでゴッテスフルスの文字を書けないんです」
「そうなの? じゃあ、私が代筆するから教えてね」
文字が書けない旅人も多いのであろう。
宿屋のお姉さんはなんの疑問もなしに、スムーズに僕たちの行ったことを書いていく。
ハイジはその様子をじっと見つめていた。




