239.食事
パンは所謂ドイツパンと呼ばれる黒パンで、ライ麦のパンのようだった。
「これと一緒に食べて」
そういって出されたのは、ソーセージ。そう、挽肉の腸詰めだ。
添えられた黄色のつぶつぶ状のペーストを見ると、マスタードらしかった。
これは美味しそうだ。
「いくらですか?」
ハイジが先ほど質屋で手にいれたゴッテスフルスの貨幣を取り出す。
パン屋のお姉さんはハイジの持っているお金を指差して、「パンひとつ分。ソーセージ一本分」と価値を教えてくれた。
「でも、とりあえず、これはあたしの奢りだよ。同郷のよしみでね。次からは買ってもらうけどさ」
いい笑顔だった。
「じゃあ、遠慮なく!」
「ありがとう」
僕とハイジはお礼を伝えたところで、パン屋のお姉さんは新しい客の対応をしに行った。
僕たちは焼きたてのパンを食べることにする。ソーセージもゆでたてで湯気が立っていた。
「美味しそう!」
地形や気候が前世とこの世界で似ている地域は食事も似るのかも知れない。
早速、ソーセージを添えられているフォークで突き刺して食べてみる。
パリ!
破裂音を立てて皮が破れ、中から熱々の肉汁が出てくる。
「あちち」
と言いながらも肉汁を味わう。
油の美味しさと岩塩の柔らかな塩味、それにどこから調達しているのか、バジルやセージなどハーブの香りがほどよく鼻をつく。
少しすると胡椒のピリリとした刺激がより食欲を誘う。
今度は黒パンを少し千切って口に入れる。
焼きたてなので思ったよりも固くなく、味がダイレクトに伝わってきた。
ライ麦パンはグルテンが少な目だが、味は格段にいい!
前世では柔らかいものばかり食べていて固いものを食べると顎が疲れて味わう余裕はなかったけど、この世界に来てからは固いものも食べる必要があって、顎もよく鍛えられていた。
外側のクリスピーな部分も噛めばかむほど味が出てきて、また違った味わいを感じることができる。
「これはもって帰ったら売れるな……」
ハイジの商人としての本能が出てきたのか、ここが敵地であることを忘れて目の前の商品を分析しにかかっている。
「たしかにこれは売れそうだね」
各地の名産は各地で食べられるけど、出来れば食の幅は大きい方がいい。
前世では食事の偏りが風土病の原因となっていることも少なくなかった。
僕が死ぬ直前では風土病はほとんどなくなっていて、なぜ発生していたのかを研究する人たちばかりだったと思う。
もう発生しない風土病を研究することで、人間に必要な栄養素を明らかにするという目的があるそうだ。
人間に必要な栄養素を明らかにすることで、宇宙滞在日数を長期間させることが出来、アニメで見たような大移民団を宇宙に送り出す計画なのだとか。
僕が百歳まで、生きても実現しなかっただろうけど、その計画を聞いたときはワクワクしたことを覚えている。
そういえばこの世界にも宇宙ってあるのかな……。
「おまたせ! 味わってる?」
パン屋のお姉さんが戻ってきた。
「さて、一段落したし、ビルネンベルクの話を聞かせてよ」
と自分の分の食事を持ってきて席についた。




