238.調査
とりあえず、ご飯を何か食べようと思った。
お腹は減っているわけじゃないんだけど、食糧事情が気になったのだ。
異世界転生小説と言えば異世界グルメ!というものが多かった。
昔は食べるのにも困っている異世界が多く、ジャガイモの話とかが出てきていたけど、僕が死ぬ直前はほとんどなくなっていて、異世界特有の食材を材料にした現実世界の料理を主人公たちがおいしそうに食べるものが多かった。
この世界も例に漏れず、食材や調味料はそこそこあるし、食糧難になるほど人口が増えているわけでもない。
だから、美味しいものもちょくちょくあって、僕はゴッテスフルスの地元ならではの料理を楽しみにしていた。
「あんまり、ないね……」
ハイジも賛成したので、料理の匂いを探して街をうろついているのだけど、食堂どころかお店自体がない。
「やっぱり、地下で火を使うことを禁止されているのかな……」
割りと広大な空間がある地下街だけど、人間の排出する空気を入れ替えるのが精一杯で、街の人が火を使うことを禁止されているのかもしれない。
多少なら問題ないだろうけど、みんな一斉に火を使ったら一気に酸素を消費されて酸欠になるだろうし。
もし、その予測が正しければ、帝都の人は火を使わない料理を食べていることになる。
さっきの質屋で聞いてくればよかったかな。
「あ、そこにパンらしきものがありますよ」
ハイジの指差す方にはたしかに丸いパンが並べてあった。
「行ってみよう」
僕は足早にパンに近づく。
火を使い終わったのか、近づいても全然暖かくない。
「すみません」
店のなかに向かって声をかけると、中から若い女性が出てきた。肌は浅黒く、ゴッテスフルスの人間というよりは僕の出身地であるザッカーバーグ領の女性を思い出す。
「はいはい。おや?」
向こうも僕たちがゴッテスフルスの人間ではないと気がついたようでまじまじと見つめてきた。
「ビルネンベルクから来た商人のハイジと言います」
「ビルネンベルク? そりゃまた……」
ハイジがビルネンベルクの名前を出したことで、僕は内心驚いたが、ハイジに考えがあってのことなんだろうと思い、様子を見ることにした。
「こっちでいい商品があるって噂を聞いたんで、おこぼれに預かろうと来てみたはいいんですけど……」
ハイジはこの先は言わずもがなでしょ?と言わんばかりにパン屋さんを見た。
「なるほどねー。実はあたしもビルネンベルクのザッカーバーグ領の出身でさ」
おお、同郷だ。
「もう来て5年になるかな? 来た当初はザッカーバーグとのコネを活かして甘い焼き菓子を作っていたんだけど、こっちのパンの美味しさに目覚めて今じゃパン屋のお姉さんさ」
「へえ。そんなに美味しいんですか?」
「初めて食べる人には少し固く感じるかもしれないけどね。かめばかむほど味のでるパンなんだ。ひとつ買っていく?」
「ええ。ひとつ下さい」
正直見た目は冷めた固いパンなので食欲を誘わない。
「じゃあ、今焼きたて出してやるよ」
そういうとパン屋のお姉さんは店の奥にひっこんでいく。
「どこで焼いてるのかな?」
焼きたてと行っていたので凄い気になる。
「戻って来たら聞いてみましょう」
パン屋のお姉さんはほどなくして戻ってきた。
「窯が地上にあってね。おまたせ」
手には湯気が見えそうなパンを載せたトレイを持っていた。




