232.動力
カルラの言うとおり、真ん中辺りに穴を開け始める。
念のために少しずつ穴を大きくしていくことにしたが、動力源自体が人体に影響あるような物質を使っている気配はない。
熱も光もない。
膨大な魔力を使っていることは間違いないはずなのだが……
僕の顔ぐらいに空いた穴から恐る恐る中を覗いてみる。
中は薄暗く魔力のうねりも見えない。
たぶん、動力源に至るまではもうひとつ壁があるのぢろう、そう思っていた。
『あれは……』
クロが違和感を感じたようで、首を捻っている。
「どうかしたの?」
『私の思い過ごしならいいのですが、あれは精霊ではありませんか?』
僕の目には何も見えない。ただ黒い平面が見えるだけだ。
「カルラは見える?」
「いえ……」
クロは神様の元とも言える人々の想いが募って出来上がった存在だ。
当初は本物の神様であるタルが使っていた依り代に集まった悪霊や怨霊の類いだったが、それがひとつの人格を持ち、タルの真似をして神殿を乗っ取ろうとした。
そこでカルラにやられ、神様の種として藁人形にはいったのだが、僕たちと行動しているうちに物凄く賢くなり、今では人間となんら代わりない。
いや、人間を超越しているかもしれない存在になっていた。
だからこそなのかもしれない。精霊が見えるのは。
『助けますか?』
「うん。お願い」
『では脱出の準備を』
そうか。動力源を失うということはこの船が墜ちるということなんだ。
「わかった。僕とカルラはホバーで脱出する」
『私は精霊を解放したのち、脱出します。他の船も同様だと思われるので、順次精霊を解放します』
僕とカルラは甲板に戻る。
クロは開けた穴をさらに大きくしていた。




