229.潜入
ドーラの飛行速度は空中戦艦と比べたら比較にならないぐらい速い。
そのドーラで空中戦艦の旗艦とおぼしき大きめの戦艦の頭上から降下し、甲板に降り立った。
この「旗艦」は本来の姿であるドラゴンになったドーラと比べてもかなり大きい。搭乗員は300人は下らないだろう。
空中戦艦は自分より上にいる敵のことはあまり考えられておらず、武装のほとんどは船底に着いている。
広めに作られた甲板にはホバーがところ狭しと置かれている。滑走路が不要なため、甲板を埋め尽くしていても運用に支障がないのだ。
「クロ、このホバーは念のために制御を奪っておいて」
戦艦を無力化する電子戦を仕掛けているときはクロは他のことができなくなる。今のうちに相手の戦力を奪っておいた方がいい。
「破壊しないで良いのですか?」
「もしかしたらこの船が沈む……落下することになるかもしれないから、脱出用に残しておくよ。沈みそうになったときは浮遊機能だけ解放して」
僕たちはそんなに人はないが、この船の乗組員はホバーがないと船から脱出できないだろう。
「敵にも情けをかけるとは、さすがヴォルフですね」
以前のカルラだったら、もっと非情になれと言っただろう。
カルラも僕の影響を受けて、少し考え方が変わってきたようだ。
「艦内へは……」
大きく口を開けた入り口が見える。
恐らくホバーを修理するためのドッグへ続く入り口なのだろう。
ホバーよりも大きなサイズのため、自走できなくなったホバーを運ぶための機械のサイズなのだろうか。
「クロは電子戦を開始して。カルラは周囲を警戒。僕は先行して進路を確保する」
クロの制圧下になれば、空中戦艦の制御と、その指揮下にある他の空中戦艦も無力化できると思う。
完全に無力化出来なくとも混乱させて戦力を削げればそれでいい。
『移動速度が上がりました。シメキタを通過します』
真下にシメキタがあるため、シメキタを見ることはできない。先ほどドーラの上からシメキタを見たときは、かなり広い町だという印象を受けた。
それをほぼ一瞬で通過したしまうのは、空中戦艦に強力な動力源が積まれていることを示していた。
「クロ、動力源を探して。動力源を押さえれば攻撃力も封じられるはず」
『了解です』
空中戦艦がビルネンベルク軍に到達している。恐らく射程に入っているだろう。
もう時間はない。
「いくよ!」
僕の掛け声にカルラとクロが頷いた。




