227.電子
前世ではなんとなくインターネットは現実世界とは切り離されたものだと考えていた。
現実のものだと思い知るときは、大きな災害でネットワークインフラが破壊されたときなのだけど、僕が生きていた16年間にはそこまで大きな災害はなかった。
だが、この世界では通信インフラを構築する仕組みから作る側に回ったため、現実世界と情報だけで出来ている世界は繋がっているのだと、はっきりと理解できた。
よく異世界転生小説でスマホが使えたりする場面が出てくるけど、あれは正しくない。もちろん作者や読者はそれを承知の上で小説を読んでいるので問題ない。
また、軍事を主題にした小説では通信制御するドローンがテロに使われるけど、あれもインターネットの基本原則に守られているから可能な手段に過ぎない。
無線通信と言っても大気圏内である限り、通信可能な範囲は大きく限定される。
遠くから通信制御するにはそこまでの現実世界でのルーティングが必要になる。
インターネットは相互接続が大前提のAS(自律システム)を運用単位としている。そして、ASは通信内容はブロックしない。
だからこそ、ここまで広がったのであり、自由に通信出来ているのだが、中国の金盾の登場でその原則が崩れた。
インターネットの原則から外れていた金盾による制御を中国政府は最初否定していた。しかし、中国の国力が上がり、重要性が高まると金盾を隠さなくなった。
金盾で制限されたASはインターネットから遮断されてしかるべきだが、僕が死ぬ直前まで遮断されていなかった。
だからGoogleを中心として無料のSSL証明書が発行され、通信内容の秘匿を進めてきたんだと思う。昔はhttpという暗号化されないプロトコルが使われていたようだけど、全然見たことがなかった。
僕が死んだあとどうなったかわからないけど、「自由に通信するメリット」が「不正に使われるデメリット」を超えたことは想像に難くない。
たぶん、ドローンのようなテロに使われる兵器やカメラや盗聴機のような機械が自由に通信できるようなことは制限されたと思う。しかもそれはテロで甚大な被害を受けたあとに。
「クロ。進捗はどう?」
『防護柵から20mは制御可能です。ホバーの20%は支配下に入りました。指示をどうぞ』
「ホバーを低空へ誘導後、背面飛行させて搭乗者を振り落として。振り落とせなかったらホバーを破壊」
『了解』
クロから返事があってすぐにホバーの動きが変になった。微かに悲鳴のようなものが聞こえてくる。
ホバーの搭乗者はベルトのようなもので固定されているようで、振り落とせなかったらしく、ホバーは煙は吐いて故障していく。
脱出装置とかついてなかったのかな。
まだ技術が未熟なのか、設計者が途中で死んでしまったのか。
たぶん、後者なんだろうな……。
兵器を完成させないようにし、自分の命を守ろうとしたんだろうけど、うまくいかなかったんだろう。
「ホバーの射程が届かないところまで前進」
『了解』
前線へ指示を出す。
これで戦線を押し上げ、さらにシメキタ内部までクロの影響範囲を広げる。
そうすればまたホバーの活動できる範囲は狭くなり、さらに戦線を押し上げることが可能になる。
僕たち、第一軍はこれを繰り返し、防護柵を除去できる位置まで進むつもりだ。
あの壁に近い柵を取り除ければ、シメキタは丸裸になる。
僕たちが持つ兵力を最大限に活かすことができるのだ。
金盾っていつ頃から公に認めるようになったんだろう……
中国国内では国外と通信するVPNは禁止なんだけど、vpn
over httpsが星の数ほど出てきたらたぶん制御不可能になる未来




