223.陥落
王都前の平原で勝利を修めた僕たちはバルド将軍を使者に立て、和平交渉に望むことにした。
本来ならレトが行くのが一番いいと思うんだけど、「王位継承権一位の婚約者に何かあっては大変なことになる」とバルド将軍が譲らなかったのだ。
バルド将軍なら仮に何かあっても弾き飛ばして脱出しそうではあるが、口下手だし、失礼だけど脳筋なので交渉面で不安が残る。
そこでクロを助手につけ、通信で状況を伝えてもらうと共に、こちらからの指示をバルド将軍に伝えることにした。
『王城に入りました』
僕が宰相派と和平交渉をしようと思ったのは、まだゴッテスフルスの驚異が去っていないからだ。
一時的にゴッテスフルスを退けたと言っても、正体不明の黒幕に、ホバーやレーザー兵器を無効化する技術開発をした体制、さらに今までほとんど採掘されてこなかった故に豊富に眠る鉱物資源はビルネンベルクが内戦をしていて勝てる相手ではない。
僕が王になったところで、宰相派の妨害に会うのは目に見えている。
それならゴッテスフルスの驚異が去るまでは宰相派にビルネンベルクの統治を任せておいた方がいい。
本来なら正統な王位継承権を持つものはバルド将軍なので、僕が王位継承権一位を主張してもいきなりは受け入れられない人たちが大半だろうし。
ゴッテスフルスの驚異を退けて初めて認められるような存在になるはずだ。
『今控え室です。もうすぐジラフ王子との会見が開かれます』
クロも心なしか緊張しているようで、口調が硬い。
「気を楽に交渉に望んでよ。物別れにおわったときの案も考えてあるからさ」
これは気休めだ。
交渉がうまくいく方がよいに決まっている。
僕たちの要求はふたつだ。
一つは王都に陣地を設けること。
もう一つはゴッテスフルスの驚異を取り除いたら、正統な王位継承権一位がビルネンベルク王国の王になることだ。
つまり、ジラフ王子がビルネンベルクの王になりたければ、僕があげる戦果を越えなければならない。
王都に籠って策略を張り巡らせても無駄な努力になるということだ。
まあ、ビルネンベルクの人たちが旧来の王位継承権の制度を否定しているんだったら、この作戦はダメだろうけど、王都の眼前で宰相派の新兵器をぶちのめした僕たちの方がビルネンベルクの為政者にふさわしいと思ってくれるだろう。
『宰相はおらずジラフ王子だけです。挨拶を終えてこちらの要求を伝えました』
これで相手がどうでるか……。
『ジラフ王子の要求は3つです。宰相の自由の保障。ゴッテスフルス討伐軍へジラフ王子の参加。そして、バルド将軍の王位継承権一位への復帰です』
通常、要求は重要な順に並べられる。この場合、宰相の自由を保障しないと交渉は即決裂になると思う。
2番目、3番目はそんなに重要度は高くないだろう。というか、宰相とジラフ王子はどんだけお互いのことを思いあっているんだろう。
「要求はすべてのむと伝えて」
『バルド将軍がダメだと言っています』
そうなるとは思っていたけど、ここで要求を飲んでもらわないと話は進まない。
そもそも順当に行けばバルド将軍が次の王だったのだ。僕がいきなり王になってうまく行くとは思えない。
そりゃ王になったら頑張るけど、それでもこの世界の王はすべての権力を持つと同時に、すべての責任を負うんだ。
前世と合わせて30年以上生きているとしても無理ゲーです。
「バルド将軍に王位を継いでもらえないなら、僕は無人島へ引きこもるって伝えて」
横でカルラが複雑な顔をする。
「ヴォルフといっしょならどこでも大丈夫ですよ」
静かに暮らしたいなら無人島へ引きこもるのが一番だけど、ここまで首を突っ込んだら、もうあとには引けない。
それがわかっているからカルラは複雑な表情だったんだ。
『しぶしぶ要求を飲みました。交渉は成立です。このあと正式な文書を取り交わします』
クロから連絡があり、交渉がまとまったことを知る。容易に交渉がまとまった背景は僕たちの圧倒的な武力によるものではあるが、宰相やジラフ王子と言った権力者が守りたいものの優先順位が「身近な人」であったことも影響しているだろう。
これでゴッテスフルスの黒幕に対処できれば、僕の当初のもくろみ通りとなる。




