220.位置
宰相は自国の兵士の死体を使ってフリーデン宗教国を攻めた。
恐らく目的のためには手段を選ばない性格なのだろう。
異世界転生小説によくいる登場人物のようだ。
そういう僕も似たようなところはあるし、宰相の状況を考えると理解できる部分も多い。
聞く噂によれば宰相は転生後、ビルネンベルクの王子に助けてもらい、王子に忠誠を誓っているのだと言う。
国王亡きあとに継いだジラフ王子は、宰相の傀儡と言われているが、宰相のことを信頼しているのだろう。
それに汚れ役は宰相が一手に引き受けていることから、ジラフ王子は忠誠に値する人物であることはうかがえる。
「クロに呼ばれて参りました」
僕が手近な部屋に籠って考えていると、カルラが入ってきた。
「なんだか、答えの出ないような問題で悩まれているようでしたので……」
肩に乗ったクロが申し訳なさそうに言った。
「宰相のことが気になっているんですね?」
僕はうなずいた。
「あのときまでは宰相と戦うことに迷いはなかったんだけど、もしかしたら分かりあえる点があるのかな?と考えたら迷い始めちゃったんだ」
話が通じないのなら戦うしかないと覚悟を決めるのは簡単だった。
でも、僕と宰相の共通点が見つかると、そこを突破口にしてお互いに分かりあえるんではないかと思えてならないんだ。
「迷っているのなら、行動しましょう! 戦えばお互いのことがわかります!」
いやいや、それはビルネンベルクの論理であって……。
「そうか。そうだよね!」
ここはビルネンベルクなんだ。そして、宰相もジラフ王子も僕たちもビルネンベルクの人間だった。
戦いで分かりあう文化の中で育ってきてるんだ。
前世の価値観に縛られて、僕は大切なことを見失っていた気がする。
ここは異世界なんだ。
異世界で機械科兵団が独自の発展を遂げたように、異世界には異世界のやり方がある。
それから大きく外れたやり方を通そうとしたから僕は答えのでない問題にぶち当たっていたんだ。
「よし、宰相と戦おう。ゴッテスフルスの黒幕がどうでるかわからないけど、邪魔するようなら吹き飛ばしてやる!」
「その意気です!」
カルラが飛び上がりそうに喜んでいた。
人間は戦争を嫌だと感じている。でも、戦いの前には気分が高揚してしかたがない。
矛盾していると思う。
でも、その矛盾を含んだのが人間なのだ。
「では、全軍に準備を命じます」
クロは早速通信で準備するように告げる。
休みが十分だったか不安はあるが、兵士や僕の士気が下がらないうちに進軍したい。
「僕もパワードスーツを着てくるよ」
部屋を出ると、兵士たちが慌ただしく動いていた。パワードスーツを着こんで行動している。
みんな慣れてきたらしく、パワードスーツを着て素早く動いている。
僕のパワードスーツは少し離れた部屋の中に置いてあるので、パワードスーツを来た兵士に吹き飛ばされないように気を付けながら廊下を歩いていった。
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