218.埋葬
僕たちは死ぬと意思を持たぬモノになる。
人間が人間であるために必要なものはたくさんあるけど、そのひとつが「意思」だ。
しかし、前世の進んだ科学でも人間の意思や心がどこから発生しているのか解明することは出来なかった。
ある実験では、腕を動かす脳波が出るよりも先に腕の筋肉が反応したなんて結果が出ているものがある。
もっと直感的な話では、「失恋など精神的なショックがあった場合、どこが痛むか?」という問いに9割の人が心臓に近い位置を指したという話もある。
つまり、常識的には意思や心は思考の成果物だと思われているが、それを証明できる実験結果はないし、それどころか否定する結果しか出てないんだ。
だから、以前のランゲンフェントの戦いで死んだ兵士たちは思考することはないけど、意思や心がなくなったとは考えられない。
まあ、それを端的に言うと「霊魂」ということになるんだろうなあ。
「ともかく、彼らには納得して成仏してもらわねば」
死後の世界を信じていない僕も死者の恨みを買いたいわけではないし、なんとかして自然に成仏してもらいたいと思う。
……よく考えたら死後の世界って、ここか。
「何を考えているの?」
僕がたたずんでいると、目的のスーが声をかけてきた。
「スーを探していたんだ」
「ほほう。遂に私の番が来たんだ?」
「うん。スーの力が必要なんだ」
「え、そっち?」
スーは心なしが残念そうだ。
「もうさ、順番とか考えずにエッチした方がいいよ。このままだったら、私なんか、すぐにおばさんになっちゃうよ?」
急にそんなこと言われても……。
「それで? 私に何のよう?」
なんか起こり始めたスーの顔色を伺いながら、僕はネクロマンシー対策を話し始めた。
この作戦はスーしかできないことを強調する。
「スーも遺体が戦争の道具にされてしまうのは嫌でしょ?」
「そりゃ。死者をともらうためにやるよ」
「じゃあ、護衛として……」
僕が着いていこうと言おうとしたら、スーが目を閉じた。
口がモゴモゴ動いている。
少しの間、そうやっていたかと思うと、スーはすぐに目を開いた。
「頼み終わったよ」
「え、もう?」
「うん。だけど、すぐに死体が崩れさるわけじゃないからね? あくまでも促進するだけだよ?」
「うん。それは認識してる。どれぐらいスピードアップするの?」
スーは少しモゴモゴする。
「人間だったら明日には土に返るって」
「めちゃくちゃはやいね」
「そうだね。私のスキルが少しレベルアップしたみたい」
菌の性能をアップさせるとは、さすがチートスキルだ。
「ヴォルフの回復魔法も使っていればレベルアップするんじゃないかな?」
「そうなの? スーはスキルを結構使った?」
「うん。ミーに使うのはもちろん、食糧が腐らないようにしたり、これでも影で役に立ってるんだよ?」
「ありがとう。凄い嬉しいよ」
僕はスーの手を取ると握りしめた。
スーの頬が赤くなったかと思うと、顔を寄せて僕の頬にキスをした。
「ふふふ。ヴォルフのためだもん。私も頑張るよ」
この世界ではスーも同い年ぐらいだけど、前世では結構年齢に差があった。でも、こうやって僕に信頼を寄せてくれるのはとても嬉しかった。
「僕もスーの頑張りを見て僕も頑張らなきゃって思ってきたよ」
「うん。頑張って!」
スーと別れると僕はどうやって回復魔法を鍛えるか考え始めた。




