217.神聖
「結論から言うと無理じゃな」
久しぶりにあったタルは五歳から八歳ぐらいになっていた。
どうやら神様としての力が上がってきたらしい。
開口一番に僕の期待が砕かれてしまったので、話はこれで終わってしまった。
「死霊化を止める手だてはないとは……」
「手立てはあるぞ。ただし、それを実行出来るのはわしではないだけじゃ」
タルは砂糖で作られた落雁みたいなお菓子をカリカリと齧りながら言った。
「どうすれば?」
死霊化が止められなければ負けないにしても勝てない戦いになる。
一時的に王都を占拠出来ても、掃討戦をやっているうちに兵力を揃えられ、また戦争を仕掛けられるのが見える未来だ。
そのときは、今みたいに敵が消耗していない。準備万端の上に、こちらの戦力に対抗する手段を整えてくるだろう。
タレットやパワードスーツだけでは勝てない戦いになる。
戦争とはお互いの戦力が均衡していて初めて戦争になるが、それはお互いのテクノロジーツリーが均等に延びたときだけだ。
この世界ではテクノロジーが歪に成長している。
僕が考えているよりも成長がはやく、次の戦いになったときには今ある兵器は役に立たなくなっているだろう。
何より向こうは既に無人化されているのだ。生産設備だけあれば、戦力を整えるのは難しくない。
その上に死霊という前世のテクノロジーツリーの外にあるものも存在する。
それを言ったら魔法もか。
しかし、魔法に対抗する術はまだ現実の範囲だ。
魔法が起こす現象は現実世界に対するものだけだ。
「死体を粉々にしてしまえばいい」
僕の思考を遮って足るの言葉が入ってきた。
「そ、それは……」
前世で、幽霊や神様を信じなかった僕でも、それには抵抗がある。
死んだ人は「生きていないモノ」だとしても敬意を払うべきだと思っている。
「なに、簡単なことじゃ。人間は何れ土へと返る。それを促進してやればいいだけじゃ」
促進……というと菌か! でも、スーのスキルは誰にも秘密だったはず。
「ヴォルフには誰が出きるかわかっているようじゃな」
そういってタルは頷いた。
スーの名前を出さなかったのは、スーが秘密にしていることを知っていたのだろう。
「ありがとう」
僕はタルにお礼を言うと、砦の中にいるはずのスーの姿を探すことにした。
スー以外も婚約者のほとんどは従軍している。
バルド将軍がいて、命令系統がちゃんとしていてもパワードスーツの運用など、新しいことも多く、人手が足りない状況だからだ。
「ヴォルフ!」
「ナターシャ」
中庭を歩いていたらナターシャが話しかけてきた。ナターシャはタルやサリーの護衛としてグローセンを占領していたのだが、ナターシャひとり残しても意味はないので、こちらに合流したのだ。
どうやら兵士たちに訓練をせがまれたようで、剣を振るっていた。
ナターシャは剣の神様だけあって、パワードスーツを装着したままの兵士とやりあっても平気な顔をしている。
「このパワードスーツというのは中々面白いものだな。私にも一着くれないか?」
「ナターシャが来てもあまり意味は……」
そこまで言いかけて、口をつぐむ。
もしかしたら、ナターシャ用のパワードスーツを作れるかもしれない。
「ちょっと、クララに相談してみるね」
「うむ。頼んだぞ!」
仮にクララ用のパワードスーツが開発出来たとしたら、恐ろしいほどの戦力になりそうだ。
人間と同じ大きさで人間の何千倍もの性能を持つということはほとんどの防御施設は無効になるということだもんね。
ナターシャと分かれた僕は再びスーを探して砦内を探索する。
通信機をスーが持っていれば話は早かったんだけど、どうやら部屋に置いたままにしてしまったらしい。
スーが見つからないと話が進まないけど、どこにいるんだろう。




